認知症患者予防の数値目標発表後に取り下げ!この事態を専門医が解説

認知症患者予防の数値目標発表後に取り下げ!この事態を専門医が解説

2019年5月、政府は大綱の素案で「70代の認知症の人の割合を10年間で1割減らす」など、初めて予防の数値目標を提示しました。しかし、認知症の予防法は確立されておらず、当事者や家族が「予防できるという誤解を生む」などと反発していました。その結果、6月には予防に関する数値目標を取りやめる方針を固めました。

認知症は、単一の原因で起こるわけではありません。いくつもの要因が組み合わせることで発症します。そのため、予防法が確立されていないとも言えます。確かに、数値目標は無理があったかもしれません。だからと言って、手をこまねいていてはいけません。現時点で、認知症の原因となる要因を減らすことは、間違いなく認知症予防につながります。

今回の記事では、現時点で認知症の予防につながる要因について認知症専門医の長谷川嘉哉が解説します。

1.認知症を減らす!・・政府の大綱の素案とは?

2019年5月、政府は大綱の素案において、認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」の後継として以下の内容を公表しました。報道から転載します。

政府は、「2029年までに70代での認知症の発症を1歳遅らせる」とする数値目標を盛り込んだ。70代における認知症の人の割合に置き換えると、現状から1割低下させることになる。認知症の予防法が確立していないなか、政府が予防の数値目標を掲げることは世界的にも異例だった。認知症の人が増え続けると、医療・介護費など社会的コストが急増するという試算が背景にあり、コスト削減の狙いがあった。認知症の数値目標、取りやめ検討 参考値に格下げ、政府:日本経済新聞

2.認知症の要因は一つではない

認知症の原因は単一ではありません。例えば、結核であればその原因は結核菌であり、結核菌を予防すれば、結核自体を減らすことができます。しかし、認知症の原因は多岐にわたります。同じ認知症であっても、多くの原因が、それぞれに組み合わさって発症しているのです。そのため、何か一つを予防しても認知症が完全に治ることはありません。患者さん一人一人の原因をチェックして、それぞれに対する予防法が必要なのです。

3.生活習慣は改善すべき

生活習慣は間違いなく、認知症の発症に結びつきます。以下の習慣は、ぜひ改善したいものです。

3-1.運動不足

私が学生の頃は、「脳の神経細胞の数は生まれたときに決まっており、その後は加齢とともに減っていく一方で、増えることはない」と学びました。しかし、神経細胞の数を増やすために、運動が効果的であることがわかっています。いくつかの研究では、有酸素運動によるトレーニングを行うことで、記憶をつかさどる海馬が大きくなることもわかっています。さらに継続的な運動によって、脳の認知能力が強化されることも明らかになってきています。

3-2.大量飲酒

認知症の初診で必ず行う検査は「頭部CTによる撮影」です。その画像を見て私が「○○さんはお酒をたくさん飲まれていましたか?」と質問すると驚かれるものです。実は患者さんが過去にアルコールを大量摂取していたか否かは、認知症専門医が頭部CTを見れば一瞬でわかるのです。お酒の影響を受けていない方と比べて、脳萎縮の程度が明らかに進んでいるからです。


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認知症には多くの種類がありますが、アルコールはすべての種類の認知症のリスクを増大させます。そのうえ進行すると身体介護・認知症介護いずれの面でも家族の介護負担を重くさせます。但し、それ以前に家族関係が崩壊しているケースも多くみられます。

3-3.喫煙習慣

喫煙者は、非喫煙者の1.5倍、認知症の発症リスクが高まると報告されています。

喫煙は、肺がんなど呼吸器の病気だけでなく、動脈硬化や糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などさまざまな病気と関係しています。喫煙により血管が収縮し、血液の粘度が高まり血流が低下することで、末梢にある細胞に新鮮な酸素と栄養素が十分に届けられなくなり、脳の血管に障害が起こります。それにより、脳の神経細胞がダメージを受けることで認知症発症のリスクも高まるのです。

4.生活習慣病も確実に発症につながる

加齢に伴った生活習慣病も、間違いなく認知症を悪化させます。

4-1.糖尿病

糖尿病のある高齢者の場合は、高血糖の状態が長く続くことで認知機能が低下しやすくなり、もともと軽度の認知障害がある方はさらに進んで認知症を発症しやすくなります。糖尿病の方はそうでない方と比べると、アルツハイマー型認知症に約1.5倍なりやすく、脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいと報告されています。また、糖尿病治療の副作用で重症な低血糖が起きると、認知症を引き起こすリスクがさらに高くなります。

4-2.高血圧

高血圧は、認知症の中でも血管性認知症のリスクを高めます。高血圧の人は血圧が正常な人に比べて、「老年期(65~79歳)の高血圧の人は正常な人に比べて血管性認知症のリスクが3.0~5.5倍高く、中年期(50~64歳)の高血圧の人は正常な人に比べて血管性認知症のリスクが2.4~10.1倍高い」と報告されています。

4-3.脂質代謝異常

脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が基準値より多い状態を言います。脂質異常症は動脈硬化の原因になり、心臓や脳の血管に障害が起こりやすくなるため、とくに中年期の脂質異常症は認知症のリスクになるのです。

5.予防も大事だが、早期受診も大事

認知症予防を気にしながら、受診したときはすでに認知症がすでにかなり進行している患者さんもたくさんいらっしゃいます。予防も大事ですが、「何かおかしい?」と感じたら早期受診がお勧めです。

外来で認知症の診断をして抗認知症薬を処方しようとすると、ご家族から「認知症の薬は症状の進行を止めるだけなんですよね?」と質問されることがあります。しかし、抗認知症薬は神経細胞と神経細胞の流れを良くすることで症状の改善を図ります。そのため神経細胞の数が維持されている時期、つまり早期であれば早期であるほど改善する可能性が高いのです。薬の処方を拒まず、医師の指示通りにとるようにしましょう。

6.まとめ

  • 政府の「認知症患者さんを減らす数値目標」が参考値に格下げになりましたが、認知症予防は確実に行うべきです。
  • 現状で対応できる、生活習慣と生活習慣病の改善は、確実に認知症を予防します。
  • 予防も大事ですが、「何かおかしい?」と感じたら早期受診がお勧めです。
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