「まだ介護度はつかないんじゃないかな」「介護申請しても変わらないよ」もし、あなたがご家族の介護で悩み、勇気を出して医師に相談した際に、このような言葉をかけられたとしたらどうでしょうか。認知症介護の現場では、このような「声なき叫び」が数多く存在します。
今回は、認知症専門医である長谷川嘉哉の解説をもとに、介護認定の現場で起きている深刻な問題と、その解決策について考えていきます。
目次
1.なぜ、介護認定は重要なのか?
認知症の介護は、ご家族だけで抱え込むには限界があります。そこで重要になるのが「介護保険サービス」です。このサービスを利用するためには、まず「要介護認定」を受ける必要があります。
認定される介護度によって、利用できるサービスの種類や量が変わってきます。例えば、デイサービスの利用日数が増えたり、特別養護老人ホーム(特養)への入所が可能になったりします。
私は初診の患者さんに対して、医学的な診断だけでなく、介護の必要性についても診断書に記載しています。症状が重く、ご家族が疲弊しきっているケースでは、介護度の見直し(区分変更)を提案することもあります。実際に、区分変更によって適切な介護サービスにつながり、本人と家族の生活が劇的に改善したケースも少なくありません。
2.現場の障壁となる「介護に無関心な医師」
しかし、すべての医師が介護の重要性を理解しているわけではないのが実情です。私は一部の医師が「介護は介護、医療は医療」と切り離して考えてしまっている現状があると思っています。
このような医師は、ご家族がどれだけ困っていても、運動機能が低下していても、「そろそろ介護申請をしてみては?」と提案してくれません。 [1:52] それどころか、ご家族が「主治医の意見書を書いてほしい」とお願いしても、「まだ早い」などと意味のわからない理由で断るケースさえあるのです。
これでは、本当に助けを必要としている人が、適切なサービスから遠ざけられてしまいます。
3.誰よりも現場を知る「ケアマネージャー」
一方で、介護保険制度を誰よりも熟知しているのが「ケアマネージャー(介護支援専門員)」です。彼ら、彼女らは多くの利用者さんを担当しており、「どのような状態の人が、どれくらいの介護度になるか」を経験的に把握しています。
ケアマネージャーは、「この人は本来、もっと高い介護度のはずなのに…」「このままだと家族が倒れてしまう」と、心の中で叫んでいます。しかし、医師に対して強く意見を言うのは難しいのが現実です。「医師に提案したら怒られてしまった」という声も聞かれるほどです。
4.状況を打開する一つの選択肢「主治医を変える」
では、ご家族はどうすればよいのでしょうか。思い切って「主治医を変えること」も一つの有効な手段です。介護に非協力的な医師の元で時間を浪費するよりも、介護の重要性を理解し、積極的に連携してくれる医師を探す方が、結果的に本人と家族のためになるのです。
「でも、どうやってそんな先生を探せばいいの?」と不安に思うかもしれません。その答えは、ケアマネージャーが知っています。ケアマネージャーに「介護保険のことをよく分かってくれる先生を紹介してくれませんか?」と相談してみてください。 彼らは地域の医療情報に精通しており、どの医師が信頼できるかを知っています。
まとめ:医師とケアマネージャーとの連携が鍵
認知症介護は、医師とケアマネージャーがうまく連携することで、何倍もスムーズに進みます。ケアマネージャーからの「先生、私もそう思っていました!」という一言が、事態を好転させるきっかけになることも少なくありません。
もし、あなたが今、ご家族の介護認定で悩んでいたり、主治医の対応に疑問を感じていたりするなら、決して一人で抱え込まないでください。まずは信頼できるケアマネージャーに相談してみましょう。
適切な介護は、ご本人の尊厳を守り、ご家族の生活を守るために不可欠です。現場の「声なき叫び」に耳を傾け、勇気を持って一歩を踏み出すことが、より良い介護への道を開くのです。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。