最近、リバースモーゲージという言葉をテレビのCMで見かけることが増えてきました。「持ち家を活用して、豊かな老後を」、「自宅に住み続けながら、まとまった資金が手に入る」そんな甘い言葉が並び、まるで夢のような老後資金術として紹介されています。
しかし、FP資格をもつ医師として高齢者と日々向き合っている立場から言わせていただくと、この商品にはあまりに多くのリスクが潜んでいます。今回は、高齢者やそのご家族に向けて、「テレビでは絶対に語られないリバースモーゲージの真実」をお伝えしたいと思います。
目次
1.「夢の老後」どころか「住まいを失う老後」になりかねない
リバースモーゲージとは、自宅を担保に金融機関から融資を受け、亡くなった後や施設入所後に不動産を売却して返済する仕組みです。一見、「老後資金が足りない人にとっての救世主」に見えるかもしれません。
ですが、冷静に考えてみてください。この制度の前提は「死ぬまで家に住み続ける」こと。途中で介護施設に移る場合や、相続人が家を引き継ぎたいと望んだ場合、この前提は崩れます。すると、金融機関は即座に返済を求め、最悪の場合、強制的に家が売却されてしまうのです。つまり、「老後の安心どころか、家を失うリスクが常につきまとう仕組み」であることを忘れてはいけません。
2.テレビCMが触れない“不都合な事実”
金融機関が放映するテレビCMでは、あたかもリバースモーゲージが「万人向けの安心商品」であるかのように宣伝されています。しかし、実際には利用できる人はごく限られた層に過ぎません。
たとえば、以下のような条件がつくことが一般的です。
- 都市部にある一定以上の資産価値を持つ戸建てに限定
- 単身でなく、配偶者と共有名義だと契約が難しい場合も
- 長寿化による「借り過ぎ」リスク
- 金利上昇で元本が膨らむ変動金利設定
- 節税や相続対策には不向き
さらに、リバースモーゲージは「利息が毎年上乗せされる」ため、時間が経てば経つほど返済額が膨れ上がり、気づけば「家の価値では足りない」という状態に陥ることもあります。これはもはや「老後資金の解決策」ではなく、金融機関にとっての「低リスク・高収益ビジネス」に他なりません。
3.本当に必要なのは、“お金”ではなく“選択肢”
老後資金が不安でリバースモーゲージに関心を持つ方の多くは、真面目にコツコツ働いて家を買い、年金だけでは暮らしが不安という方々です。その不安につけ込むような商品設計と宣伝手法には、医療人として憤りを感じます。本当に必要なのは、家を失うかもしれない不安なローンではなく、「介護・住まい・お金」に関する多角的な選択肢の提示です。
たとえば、
- 民間介護保険の活用
- 不動産の賃貸や売却による資金確保
- 子どもや親族との共有資産戦略
- 地域包括支援センターとの連携で受けられる行政支援
など、リスクを限定しながら資金や生活を安定させる方法は他にもあります。
4.安易な“安心”を売るテレビCMに騙されるな
多くの高齢者がテレビを通して情報を得ている現代において、CMの影響力は無視できません。しかし、金融機関が「収益の取れる高齢者層」に向けて、断片的なメリットだけを強調して商品を売ることは、本来許されるべきではありません。
高齢者にとって住宅は「資産」以上に、「人生の拠り所」であり「心の居場所」です。それを担保に差し出すという決断は、決して軽く行えるものではないのです。
5.不倫よりも社会的影響の大きい金融商品
さらに見過ごせないのは、こうした商品を無批判に垂れ流すテレビ局の姿勢です。
最近では、不倫やプライベートなスキャンダルを理由に、女優やタレントのCM起用が即座に取りやめになるケースが続出しています。ところが一方で、高齢者の人生を左右するかもしれない「問題含みの商品」の宣伝には、まったくと言っていいほど歯止めがかかっていません。
本来、公共性を掲げるテレビ局こそが、視聴者を守る立場であるべきです。不倫よりもよほど社会的影響の大きい金融商品のリスクにこそ、目を向けてほしいと強く思います。
6.結論:リバースモーゲージは“最終手段”
もちろん、リバースモーゲージがすべて悪だとは言いません。制度を正しく理解し、リスクを把握したうえで「他に手がない」という状況であれば、選択肢の一つにはなり得ます。しかし、現在のように“気軽に申し込める老後資金術”として宣伝されている状況は極めて危険です。