口呼吸はデメリット大・前頭葉機能低下で認知症のリスクも

口呼吸はデメリット大・前頭葉機能低下で認知症のリスクも

あなたは舌をどこにおいてますか? いきなり聞かれても「何のこと?」「考えたこともない」「どこに置いているかわからない」と即答できるかたは少ないのではないでしょうか?

実は、舌にも正しい位置があるのです。正しい位置は上あごにあることです。ベロ先を前歯の付け根の上に置き、舌全体を吸盤のよう上口蓋にくっつけるイメージです。大切なポイントは、舌の根元から上にくっつけることです。

胃まれたばかりの乳児は、母親の母乳を飲むために、舌で乳房を口蓋に押し当てしごいて飲みます。その時、鼻で呼吸する事をおぼえ、口から栄養をとることを覚えます。また、舌も正しい位置に置くようになります。しかしながら、成人でこれができている方は50%ぐらいです。たかが「舌の位置」と軽視できません。歯並びの悪さといった口の中の問題だけでなく、全身に影響を及ぼすのです。

特に近年では認知症との関連が指摘されるようにまでなってきました。そこでこの記事では認知症専門医の長谷川嘉哉が今からできる認知症予防の方法としての口呼吸を改善する方法についてお伝えします。

目次

1.舌の正しい位置とは

改めて、自身の正しい位置を確認しましょう

1-1.舌の位置は「上顎にピッタリくっつく」のが正しい

何もしていないときと、何か物を飲み込むときには、本来舌の位置は、上顎にぴったりとくっ付いています。もしふと気付いたとき、舌が口の中で浮いていたり、歯と歯の間に挟まっていたりしたら、それは舌を動かす筋肉が弱ってきている証拠です。そして、もしもあなたの舌がいつもだらりと落ちて下顎の方にくっついてしまっているとすると、それは舌の筋肉がかなり衰えてしまっている目安なのです。

1-2.舌先は「前歯にぎりぎりくっつかない」位置が正しい

舌の上下の位置は把握できました。今度は、舌先の位置を確認しましょう。舌先は、本来口の中の「スポット」と呼ばれる少しへこんだ場所にすっぽりとおさまっているのが正しい位置です。

1-3.舌の位置が正しいと自然と鼻呼吸になる

舌の正しい位置が理解出来たら、意識して舌を正しい位置に置いてみてください。その状態で、呼吸してみましょう。不思議なのですが、舌が正しい位置にあると自然と鼻から呼吸ができることに気が付きます。いつもだらしがなく口を開けて、口呼吸になっている人は、舌の位置が正しい位置に収まっていないことが一因でもあるのです。

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舌が正しい位置にあると、口で呼吸することは難しくなります

2.正しい鼻呼吸のメリットとは

哺乳類である人間は、鼻で呼吸を行うのが本来の姿です。そのため、口で呼吸すると、くちびるがカサカサになったり口の中が乾燥したり、感染症のリスクが高くなったりするなど、さまざまな弊害があります。鼻は加湿器、空気清浄器、エアコンの3台を合わせた機能を持っています。ですので健康のためには鼻呼吸が大事なのです。

2-1.加湿器

鼻水は1日に約1ℓも分泌されています。そのうち約7割は、鼻を通る空気を加湿するのに利用されます。鼻水が取り込んだ空気に湿り気を与えることで、体内に入る空気の湿度は90%以上に高められます。しかし口呼吸では、これほど湿度を上げることができません。乾燥した空気は、例えば風邪やインフルエンザのリスクを高めます。鼻呼吸は免疫機能として大きな役割を果たしているのです。

2-2.空気清浄機

鼻は、空気をきれいにする働きも持っています。まず、ホコリなどが体内に侵入するのを防ぐのが鼻毛です。そして鼻粘膜に生えている微細な線毛と粘液層が、細菌やウイルスなどを捕獲します。つまり、鼻から入った空気はこれら異物の多くが除去され、いわば空気清浄器から放出された空気のような状態になっているのです。この点からも口呼吸では、感染症にかかるリスクが高くなるのです。


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2-3.エアコン

鼻から呼吸することで、空気が温められます。その温度は35~37度にもなります。口呼吸ではここまで温められることがなく、冷たいまま肺に届けられてしまいます。すると、肺の免疫力が低下するリスクにつながったり、肺にかかる負担が大きくなってしまいます。

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鼻は体内に取り込む空気のためにさまざまなメリットを与えています

3.口呼吸が脳に悪い影響を

2013年に「口呼吸は鼻呼吸よりも、前頭葉により酸素消費を生じる」という報告がされました。(佐野 真弘ら https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24169579)。この研究では、最新のベクトル脳機能NIRS計測法を使って、近赤外線を頭皮上から照射し脳の酸素活動を計測。その結果、口呼吸では前頭葉の活動が休まらず、慢性的な疲労状態に陥りやすくなることが明らかになりました。前頭葉の慢性的な疲労状態により、注意力が低下し、学習能力や仕事の効率の低下を引き起こすのです。

呼吸法の中でも腹式呼吸は特に脳の活性効果が高いと言われています。人間はもともと赤ちゃんの時には腹式呼吸をしています。 睡眠時間中には無意識のうちに腹式呼吸をしているようですが、起きている時間にはついつい考えることなく胸での呼吸をするようになってしまいます。起きている時間の呼吸を腹式呼吸に変えるだけで、感情が落ち着いて脳の活性化にもつながるのです。

4.口呼吸が認知症を引き起こすとは

前頭葉機能の低下と言われても意味がよくわからないかもしれません。しかし、前頭葉機能の低下は認知症につながります。通常、認知症における脳の機能は、前頭葉機能の低下から始まり、側頭葉機能の低下につながります。認知症患者さんは462万人、そしてその前段階の前頭葉機能低下は400万人にみられるます。

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脳の部位別名称と役割

つまり、口呼吸が慢性化すると、前頭葉機能の低下を介して、認知症の発症にまでつながるのです。たかが舌の位置ですが、認知症予防のためにも鼻呼吸に心がけたいものです。

5.その他のデメリット

舌が正しい位置にないことによる口呼吸には認知症以外にも多くのデメリットがあります。

5−1.歯並びが悪くなる

  •  出っ歯になりやすい物を飲み下す筋肉の力は、結構強いものです。唾を飲んでみるとわかりますが、喉がごくっと飲み込む瞬間、舌はぐっと上顎を上へ押し上げています。人は無意識のうちに、1日に600〜2000回も、飲み下す動きをしているそうです。この膨大な回数分、舌は顎を上へ上へと押し上げ続け、圧力をかけているのです。一回ずつの力はわずかなものでも、積み重なると相当なもの。舌が正しい位置にキープされず、歯に直接当たっていたりすると、この力がそのまま歯に加わります。前歯は徐々に前へ前へと押し出されていきますつまり、出っ歯になってしまう可能性が高いのです。
  • 受け口になりやすい:受け口になる可能性についても、同様のことが言えます。舌の位置が口の中心より低く、常に下顎側にくっついている状態にあるとしましょう。舌を下顎にくっつけて唾を飲み込んでみてください。今度は下顎の前歯を前に押し出す感じがしませんか?これもクセがつき長い期間放置していると、下顎が前に出ていわゆる「受け口」の状態になりやすいのです。
  • 歯並びがデコボコになりやすい:筋肉で正しい位置をキープできない舌は、いつも同じ場所にあるとは限りません。舌の位置にムラがあり、かつ舌先が歯をランダムに圧迫し続けていれば、当然顎にはアンバランスな負担がかかり、歯並びがデコボコに乱れてしまいます。

5−2.全身への悪影響も多い

  • 顔がたるむ:骨格が歪む舌の筋肉が弱っているということは、噛む・飲み込むなどする機能だけでなく、表情をつくる機能も弱まっています。顔の下側の筋肉が弱ることで、顔の肉は重力に引っ張られてどんどん下へ下がってしまいます。すると、具体的には、「顔がたるんで見える」「二重あごになる」「首が太く短く見える」など、美容面において怖い影響が表れます。また、正しくない位置にある舌に圧迫され続け、骨格まで歪んでしまうことも。すると顔が歪んで美しさが損なわれるだけでなく、肩こりや頭痛にも影響してくるのです。
  • 発音が悪くなる:舌の位置が正しくないと、美しい発音ができなくなります。とくに問題が現れるのが、「サ行」「タ行」「ナ行」「ラ行」の4つ。実際に発音してみると分かりますが、この4つはいずれも舌を上顎にくっつけて音を出します。舌がいつも間違った位置にあることが習慣になると、これらの行を発音する際も舌の位置が歯の隙間などにずれ込んでしまうため、発音しづらくなるのです。
  • 眠りの質が悪くなる:舌の筋肉の衰えが最も舌に現れるのは、全身から力が抜ける睡眠中です。筋肉による支えをなくすと、眠っている間の舌は喉の奥深くに落ち込み、呼吸の邪魔をしてしまいます。すると息苦しさから自然と眠りが浅くなるのです。
  • 舌を噛みやすくなる:上顎にピッタリと張り付いた本来の状態では、舌を噛むということはほとんどあり得ません。しかし、口の中で浮いていたり、歯と歯の間に挟まっている状態だと、何かの拍子にすぐ舌を噛んでしまうもの。「最近、なんだか舌を噛みやすいな」と感じているのであれば、舌の位置を正しくキープできているかどうか、念入りにチェックしてみましょう。

6.対策方法

舌を正しい位置にキープしておくためには以下の対策がお勧めです

6-1.舌回し運動

顎周辺には、顔全体や頭などとつながっている筋肉があります。舌を回すことで、その筋肉の緊張をほぐして鍛える効果が期待できます。また、顎につながっている数多くの筋肉を手軽に鍛えるために「舌回し運動」を行うことで、舌の正しい位置やかみ合わせを正常に近づける効果も見込めます。場所を選ばずどこでもできます。

唇を閉じたまま、舌の先で歯の外側と頬の内側の間を大きく回していきます。2~3秒で一周する速さが理想です。右回りと左回り、それぞれ20回ずつ行いましょう。これを1セットとして、朝昼晩の一日3回行うようにしましょう。簡単なように思えますが、私も最初は舌の付け根が痛く感じたほどです。毎日続けていくうちに50回くらいは軽く回せるようになります。無理をせずに少しずつ回数を増やしていきましょう。

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口を閉じたまま、舌を歯の内外、大きく回します

6-2.舌の正しい位置を意識する

一日の中で、舌の位置を意識することだけでも効果があります。例えば、パソコンやトイレの中などの目につきやすい場所にシールを貼っておきます。そのシールを見た時には自分の舌を意識するようにします。私は、外来のパソコンにシールを貼っています。外来中にも、時々意識をすることで、正しい舌の位置をキープするようにしています。

7.まとめ

  • 舌が正しい位置にないと、口呼吸になりがちです。
  • 口呼吸は前頭葉機能を低下させ、認知症を引き起こします。
  • 正しい舌の位置をキープするためには舌回し運動や、日常生活の中で舌の位置を気にすることが大事です。
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