『監察医 朝顔』の認知症患者さんの描き方が家族を救う理由を専門医が解説

『監察医 朝顔』の認知症患者さんの描き方が家族を救う理由を専門医が解説

法医学者×刑事、異色の父娘を描く同名漫画作品『監察医 朝顔』を原作としたドラマが2019年7月に第1作、2020年10月期に2作目が放映されていました。

個人的に大好きで欠かさず見ていましたが、今回2022年9月26日にスペシャルドラマとして放送されました。その中で主人公朝顔のお父さんが若年性アルツハイマーの患者さんとして描かれていました。

通常ドラマなどでは現実離れした描かれ方をするのですが、今回は専門医としてもとても共感できる描かれ方をしていました。今回の記事では、認知症専門医である長谷川嘉哉が、スペシャルドラマ『監察医 朝顔』で描かれた認知症患者さんについてご紹介します。

1.あらすじ

「監察医朝顔」では、主人公の法医学者を上野樹里、そして刑事で父親を時任三郎さんが演じていました。最初、父親は厳しいが頼りがいがある心優しい人物像で描かれていました。しかし、シリーズ2作目で若年性アルツハイマーを発症。そして、その1年半後が描かれているのが、今回のスペシャルドラマでした。

2.若年性アルツハイマーの進行は早い

高齢で発症するアルツハイマー型認知症と、65歳未満で発症する若年性アルツハイマーは、同じ「アルツハイマー」でも、進行度が全く違います。シリーズの2作目では、「自分のことはなんとか出来ていた父親」が、1年半後のドラマでは「生活すべてに介護を要している姿」はまさに真実です。

3.症状としては秋から冬

私は、自著『ボケ日和』の中で、早期認知症の春、中核症状の夏、周辺症状の秋、そして人生の終末期の冬と、認知症の進行度を季節に例えています。ドラマの中では、お父さんが、はしゃいでいる孫に対して、「うるさい!」と怒ってしまうシーンがあります。まさにこれこそ周辺症状がでる秋。

そして、さらに症状は進行して、一日の大半は寝ていることが多くなる冬になっています。昼間寝ていることが多いのに、夜にも眠ることができる。これこそ認知症の末期像といえるのです。その理由については以下の記事も参考になさってください。

4.時任三郎さんの演技は素晴らしかった

今回の時任三郎さんの演技は素晴らしかったです。意欲が無くなり、表情が乏しくなっている姿。それでいて突然怒ってしまう。すぐに眠くなって床に就く場面など、毎日認知症患者さんを診ている自分でも全く違和感がありませんでした。相当、実際の認知症患者さんを観察されたのだと思います。


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5.家族が入居を決断する点は好感

認知症を扱う小説や映画・ドラマは昔からあり、最近はとくにその頻度が増えています。しかし最後は、「家族が夕日に向かって、これからも皆で協力して自宅介護を続けよう」みたいな非現実的な描き方が多いものです。この描き方には、多くのご家族が、失望したものです。

そんな中で、今回のドラマでは、「父親のかねてからの希望は、最後は施設に入所」でした。そして家族も父親の希望を尊重し、施設に入所するように描かれていました。この描かれた方には、多くの認知症家族が救われたと思います。

6.入居施設は住宅型有料?

ちなみにドラマの中では、施設は「住宅型有料老人ホーム」という設定でした。しかしこの点は少し疑問です。認知症の冬の段階であれば、生活の主体はベッド上になります。そして看取りについても考える必要があります。したがって、本来は特別養護老人ホームが適切と思われました。

また「住宅型有料老人ホーム」は月額最低20万円は必要です。ドラマの父親は元刑事ですから、退職金も年金も恵まれているので入居は可能ですが、この費用を出せないご家族は多いものです。

ということで、経済的余裕があれば「住宅型有料老人ホーム」に入居して、特別養護老人ホームを待つ。費用負担が難しければ、「自宅で看られるところまで看て、早い段階で特別養護老人ホームが空くことを待つ」ことが正解かと、ドラマを見ながら外来をやっているような気持ちでいました。

7.まとめ

  • 『監察医 朝顔』のスペシャルドラマでは、主人公の父親が若年性アルツハイマーとして描かれていました。
  • 認知症患者さんを演じた時任三郎さんの演技は、毎日認知症患者さんを診ている自分でも全く違和感がありませんでした。
  • 住宅型有料老人ホームの入居は、退職金と年金に恵まれた元刑事のような方しか選択できないかもしれません。
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