50歳前後になると、物忘れや認知症の不安が出てくるものです。
何か、今のうちに将来認知症にならないようにしたい。できれば毎日の食事によって認知症を予防できたら、こんなに安心できることはありません。
今回の記事では、認知症予防にお勧めの食べ物を紹介します。それと同時に食事の中身以上にとっても大事な「歯の話」をします。
なぜ「歯」が認知症予防にとって大事なのか、専門医長谷川嘉哉の経験と、最近のさまざまな研究結果をもとにお伝えいたします。
認知症予防を食事で、とお考えの方はぜひ参考になさってください。
目次
1.認知症予防にオススメの食べ物とは
認知症予防にお勧めの食べ物は多岐にわたっています。
・魚類
・大豆製品
・シイタケ
・オリーブオイル
・カカオ
・ココナッツオイル
・和食
・カレー などです。これはそれぞれに、認知症を予防する根拠があり、専門医としてもお勧めです。
一方で、日々の生活で、細かい食材にこだわり過ぎることは、ストレスになり苦痛になることさえあります。食事に限らずすべての認知症に良いといわれるものに共通する考えですが、いくら効果があっても不快なことは避けることが基本です。例え、身体に良いといわれる食べ物でも、本人が苦手なものであれば、無理して食べても効果はありません。
脳の奥深くにある感情を司る扁桃核は、記憶を司る海馬と密接につながっています。そのため、扁桃核が不快と判断すると記憶もうまく働かないのです。皆さんも、美味しかった食べ物の記憶はいつまでも覚えていると思いませんか。
2.食べ物よりも大事なのは「歯」!その理由とは
認知症の現場では、何を食べるかよりも、食べ方が大事です。特に大事なのが「歯」です。いくら認知症に効果的な食べ物があっても、歯がなければ十分に噛んで、味覚を感じることができません。味覚は扁桃核を刺激することで、海馬をも刺激します。つまり、口の状態を整えることで、認知症を予防できる可能性が高いのです。ここではその理由について説明します。
2−1.よく噛むと脳が活性化する
人間は一噛みで3.5mlの脳血流が増加します。残念ながら、現代人の噛む回数は一日620回程度です。弥生時代の3,990回はまだしも、昭和初期の1,420回に比べても激減しています。マウスの実験では、柔らかい食べ物を与え続けると、記憶を司る海馬の神経の新生が減少すると報告されています。何を食べるかではなく、たくさん噛まなければならないものを食べる必要があるのです。ファーストフードなどは、噛む回数が少なくなりますので、避けた方が賢明です。日頃からよく噛むことを意識しましょう。
2−2.唾液のパワーを活用できる
唾液には、若さを保ち、代謝を活発化するパワーがあります。その唾液は一日どれ程の量が分泌されるかご存知ですか? この量は、一日1.5リットルになります。当たり前に分泌されている唾液ですが、多くの働きがあります
- 風邪などの細菌が体に入らないように守る働き
- 食べ物を消化する働き
- 溶かされた歯を元に戻す働き
- 虫歯菌が出す酸を中和する働き
- 味を感じさせる働き
この中でも、味を感じることは、脳に対する刺激としてとても重要です。あまり噛まない人は、半分程度しか分泌されないようです。美味しく食事を摂るためにもしっかり噛んで、しっかり唾液を分泌しましょう。
2−3.歯周病と糖尿病には「負のスパイラル」がある
従来、我々医師は“糖尿病患者さんは歯周病などの炎症疾患になりやすい”と認識していました。しかし、今はこの考えは全く逆になっています。実は『歯周病を持つ人は糖尿病になりやすい』だったのです。難しい話になりますが、歯肉炎により産生される炎症性サイトカインが、血中に入り込みインスリンの働きを阻害することで結果、糖尿病になるのです。実際に、歯肉炎の治療をすることで、糖尿病のコントロールが改善されるのです。
2−4.糖尿病は認知症の原因になる
単なる歯周病が、糖尿病を介して、認知症をも引き起こしてしまうのです。
認知症には大きく分けて、アルツハイマー型認知症と血管性認知症があります。現在、糖尿病は予備軍を含めると約2,000万人を超えると言われています。糖尿病はアルツハイマー型認知症と血管性認知症のどちらの原因にもなります。
糖尿病によりインスリンの効きが悪くなると「インスリン抵抗性」が出現し、アルツハイマー型認知症を引き起こします。さらに、糖尿病による動脈硬化性変化が血管性認知症をも引き起こすのです。
歯周病を放置しておくと糖尿病になりやすく、さらに二つの認知症を引き起こすという因果です。
2−5.歯周病は全身疾患
歯周病というと歯科医の領域と思われがちです。しかし、糖尿病や認知症以外にも多くの内科疾患の原因であることがわかってきています。もともと、口の中には、100億の細菌がいます(肛門にいる菌の数より多く、清掃状態が悪い人は1兆を超えるそうです)。これらの細菌が、口の中の毛細血管から全身に回り、血管内で炎症をおこし動脈硬化を引き起こします。その結果、歯周病の人は、脳梗塞・心筋梗塞の確率が3倍高くなるのです。
3.歯を丈夫にすれば認知症を防げる!その方法とは
歯が大事な理由をご理解頂けたかと思います。この章ではその歯を丈夫にする方法をお伝えします。
3−1.できるだけ歯を残そう
高齢者の歯の残存数と認知症との関連性を見ることができます。健康な人では平均14.9本の歯が残っていたのに対し、認知症の疑いのある人では9.4本と明らかな差が見られます。つまり、歯が少なくて噛むことができないと、噛む回数も減り、認知症になりやすくなるということなのです。
3−2.歯磨き、歯間ブラシも
大人が歯を失う最大の原因は、歯周病です。歯周病は、あまり痛みがなく、知らず知らずの間に症状が進行してゆくのが特徴です。成人の80%が何らかの歯周病といわれます。日々のブラッシングがもっとも重要です。ブラッシングの方法を変えるだけで歯周病・虫歯の予防ができます。
ところで、歯磨きの目的は、歯を磨くことではなく歯垢を取り除くことです。ちなみに、歯垢と歯石の違いをご存知でしょうか? 上手に歯磨きすれば取り除けるのが歯垢で、歯磨きだけでは取り除けないのが歯石です。
歯周病を予防するには、歯周病に特化した歯磨きを使い、正しいブラッシングを行いましょう。歯ブラシだけで落とせるのは80%程度です。歯間や歯肉の境目にたまった歯垢までは落とせません。その時には、フロスや歯間ブラシを使いましょう。
3−3.修復歯科の時代は終わった…定期的な歯科受診を
どれだけ、上手にブラッシングをしても、歯磨きだけけでは、完璧な歯垢除去は不可能です。歯磨きでみがき残した歯垢が、唾液の中のミネラルと結合して、硬くなって歯石になります。歯についた歯垢は、たった2日間で歯石になります。歯と歯ぐきの境い目や歯と歯の間にできた、それこそ石のように硬い歯石は、歯磨きだけでは取り除くことができません。定期的な歯科受診が必要です。
3−4.ガムを噛もう
自身での歯磨きと定期的な歯科受診が習慣化されたら、ガムを噛む習慣も検討しましょう。ここまでお伝えしてきたように、ガムを噛むことで、現代人の咀嚼回数不足を補います。そして、唾液の分泌が刺激され、虫歯や歯周病予防につながるのです。
4.正しい歯科医の選び方
これからの時代は、虫歯になってから歯科に受診する時代ではありません。理想は、3か月に1回の定期受診がおすすめです。そんなときに、お勧めの歯科医の選び方をご紹介します。
電話で、歯科衛生士の存在を確認しましょう。歯科衛生士のいないクリニックなどは論外です。現在、歯科衛生士さんの数は、一診療所あたり、1.4人。これはあくまで平均値で偏在していて、評判の良い優秀な歯科医にはたくさん集まるのです。
従来の、歯が痛くなったら治療するという昔のレベルの歯科医には、そもそも歯科衛生士さんは不要です。歯科医師のレベルも低いと言わざる得ません。是非良い歯科クリニック選ぶ情報の一つとしてみてください。
5.歯が良いと医療費がかからない
海外では日本のように、健康保険制度が整っていません。病気になると莫大な医療費がかかります。そのため、予防意識が強く歯科の定期受診率も高くなっています。
アメリカの定期検診受診率は、約80%で80歳の時に残っている歯の本数は17本です。日本の定期検診受診率は約2%しかなく、80歳の時に残っている歯の本数は8本です。
歯がたくさん残っていれば、噛む回数も増え、歯周病もコントローされているわけですから、認知症、糖尿病、心臓病、脳血管障害の頻度も下がります。つまり、個人・国家レベルでの医療費削減につながるのです。
6.まとめ
- 何を食べるか以前に「歯」が大事です。
- 歯周病を予防して歯を残し、味覚で扁桃核を刺激し続けましょう。
- 結果、よく噛んで、良く唾液を出して、良く味わうことで認知症の予防につながるのです。