頭痛で悩んでいる人はとてもたくさんいらっしゃいます。しかし、市販薬や処方薬がうまく効いてくれないことも多いものです。
残念ながら、多くの医者は頭痛の診断・治療のトレーニングを受けていません。そのため、「頭痛=とりあえず鎮痛薬」のようになってしまっています。実は頭痛は、我々脳神経内科医が専門であり、その種類や対応法を熟知しています。この対応を間違えるといつまでも頭痛に悩むことになってしまいます。
そこで今回は、この一般的だがやっかいな頭痛を、専門医がいかに診断していくのか解説します。一般の方はもちろん、研修医の方にもぜひ知っておいていただきたい知識ですのでぜひ参考にしてください。
目次
1.頭痛セルフチェック
頭痛は、患者さんからの話を聞く「問診」で殆ど診断がつきます。受診の前に以下の項目を確認してから受診するとスムーズな診断につながります。逆に、以下の質問をしない医師は、頭痛診断のトレーニングを受けていないともいえます。
1-1.痛む場所はどこか
痛む場所は、頭全体なのか、頭の一部なのか、頭というより後頭部なのかは重要です。さらに、頭の片側か両側かもチェックしてみましょう。
1-2.痛み方、程度、仕事ができる程度であるか否か
痛み方は大きく分けると3つに分けられます。「ドーンとした痛み」「ズキンズキンとした痛み」「一瞬のビキーンとした痛み」です。もちろん、これらが組み合わされることもありますので、一度チェックしてみましょう。
痛みの程度については、「頭痛が起こった際に仕事や勉強が続けられますか?」と伺います。我々専門医を受診される方の中には、あまりに頭痛がひどくて、何も手につかず寝ているしかない方もいらっしゃるのです。
1-3.前兆や随伴症状の有無
頭痛が起こる前の前兆の有無も大事です。血管性頭痛では、前兆として「目の前で光がチカチカするいわゆる閃輝暗点」は診断にとても重要です。その他にも、頭痛の最中に光や音、においなどを不快に感じることもあります。さらに、涙や鼻水が強く出ないかも確認します。
1-4.時間帯、季節性
時間帯は、かなり有効です。起床時から頭痛があるのか、夕方になって疲れがたまると頭痛があるのか、さらには時間に関係なく出現するかを確認します。例えば筋肉性の緊張性頭痛では、朝は問題なく夕方になると出現してきます。
1-5.頭痛の改善悪化要因
頭痛の改善悪化要因も大事です。温めるのと冷やすのとではどちらが楽になるか? 頭痛の最中に頭や身体を動かすとひどくなるか? 季節の変わり目に悪化するか否か?
片頭痛などは、季節の変わり目になるとまるで話し合ったように患者さんが集まります。季節の変わり目の暑いような、寒いようなはっきりしない時に誘発されます。逆に、真夏や真冬のように「暑い」「寒い」がはっきりした時には、片頭痛はおさまるようです。
1-6.家族歴
頭痛は結構遺伝性があります。家族や身近な親類に頭痛もちの人がいるかは重要です。10代の女性が受診されるときの付き添いのお母さんが、「私も昔は頭痛に悩まされました」と言われることは多々あります。幸い、お母さんの年代になると相当に頭痛の頻度と程度は軽くなります。
2.頭痛の3つの原因別特徴
1章で挙げたチェック項目に従い、分類していきます。
実は、頭痛は以下の筋肉、血管、神経が原因で起こります。それぞれに特徴があり、典型例を紹介します。もちろん、典型でなくそれぞれ合併することもあります。
2-1.筋肉性
ドーンとした痛みが特徴です。痛みの程度は、比較的軽く、我慢すれば何とが仕事や勉強は可能です。患者さんは、「頭全体が締め付けられる」、「帽子をかぶったような」、「首の後ろが重い」などと表現されます。朝方は良くても夕方に悪化することが多いものです。さらに、入浴などで温めたり、運動をすると改善します。逆に、パソコンを使ったり、読書をしたあとに悪化することが多いです。
2-2.血管性
ズキンズキンとした痛みが特徴です。典型例では、頭痛の前に目の前に光がチカチカした症状が起こります。その後、片側性に強烈な痛みが起こります。涙や鼻水も伴うことが多く、だいたいは仕事や勉強は不可能で、眠ってしまうこと多いようです。筋肉性の緊張性頭痛と違って、冷たいタオル等で痛む部位に当てると血管が収縮して痛みが軽減します。
時間帯は関係なく、季節の変わり目に頻度が増えます。女性に多く遺伝性もあります。ちなみに、市販薬は効果がないことが殆どです。
2-3.神経性
一瞬のビキーンとした痛みが特徴です。痛みのレベルでは、3種類の中で最も強いです。神経自体の痛みですから、相当に痛いのですが、幸い「一瞬」で終わります。この痛みは、皮膚に近い表在性の一瞬の激烈なものです。「痛い」と思った瞬間には終わっていますから、痛み止めは全く間に合いません。頻度が増えた場合は、頭痛自体の頻度をへらすための予防投与を行います。
3.専門病院ではどう検査するか
来院されると、診察前に頭部CTと首のレントゲンを撮ります。患者さんは、頭部CTについては納得されるのですが、首のレントゲンを取ることには不思議そうな顔をされます。実は専門医の立場からすると、頭痛の原因が、頭の中の病変であることは殆どありません。多くは、ストレートネックと呼ばれる頸椎の病変が原因です。
3-1.頚椎XPでストレートネックの確認
正常な人の頸椎は緩やかなカーブを描いて重い頭をバランスよく効率的に支えています。しかしストレートネックの人は湾曲がなく、真っすぐになっています。カーブが崩れることにより、頭が頸椎より前に来て、重い頭を首や背中の筋肉で支えなければならなくなり、慢性的な頭痛や首の痛み、肩こりといった症状が出るのです。
ストレートネックの患者さんは、さらに医学的な『なで肩』も合併していることが多く、この場合は神経根が引っ張られるために手の痺れを訴えます。正直、首のレントゲンを撮らなくてもスタイルを見ればわかります。首が長く、なで肩でスタイルの良い女性は、ストレートネックであることが多いのです。かわいそうですが、スタイルと引き換えに慢性的な症状を抱えているようです。治療は対症療法になりますが、原因を説明すると安心されて症状が気にならなくなる方も見えます。
3-2.頭部CT
昔、厳しい先生の中には、頭痛の患者さんに頭部CTを撮ると「意味がない!」と怒られる方もいました。なぜなら、頭の中の病変で頭痛を訴えることは殆どないのです。確かにクモ膜下出血では金属バットで殴られたような頭痛が起こりますが、自ら歩いてくるような患者さんではこのような脳出血が起きていることは稀です。
しかし、脳神経内科専門医としては、そんな稀を見逃すわけにはいかないので頭部CTを撮影します。時に微小な脳出血や脳腫瘍を見つけることがあるのです。頑固な頭痛が続くようであれば一度は頭部CTをお勧めします。なお、MRIまで希望される方もいらっしゃいますが通常の頭痛であれば、頭部CTで十分です。
4.筋肉が原因の症状とは
緊張性頭痛の代表格です。たいていは肩こりの延長で引き起こされます。したがって、夕方に仕事や勉強に疲れたときに起きます。市販薬もある程度効果がありますが、散歩やマッサージも効果があります。
筋肉の緊張性頭痛に有効なものにカフェインがあります。実際に、医師が処方するSG配合顆粒には無水カフェインが50 mg含まれています。正直、薬品成分の作用よりもカフェインの鎮痛効果のほうが高いのではないかと感じています。
病院に受診する時間もない人におすすめなのが、栄養ドリンクです。リポビタンDなどの多くの栄養ドリンクには、SG配合顆粒と同じ無水カフェインが50 mg含まれています。疲れがたまって頭が重いときには試す価値があります。ただし、カフェインの過剰摂取に注意してください。もちろん、一日一本50㎎程度のカフェイン摂取は全く問題ありません。
目の疲れから、引き起こされることも結構あります。視力のチェックも忘れないようにしましょう。
5.血管が原因の頭痛症状とは
血管が原因の頭痛には以下の二つがあります。単純に言えば、女性は片頭痛、男性は群発頭痛が多いと言えます。
5-1.片頭痛
血管性頭痛の代表格です。脳内の血管が広がり、血管に絡みつく三叉神経が刺激を受けることで痛みが起きます。痛みの程度は激烈で、この片頭痛には市販薬は効きません。若い女性が中心で、遺伝性があります。小学生高学年になると発症しやすくなります。不思議とついてきたお母さんが「私も昔はひどかったんです」と言われます。つまり、年とともに頻度も性状も軽くなるのです。
片頭痛は、市販薬はもちろん、医師が処方する鎮痛薬も効果はありません。この場合は、トリプタン系薬剤を使用します。但し、トリプタン系薬剤は、服用のタイミングが大事です。頭痛が始まり、それが片頭痛の痛みであると確信した「軽度」のうちに服用すると高い効果が得られます。しかし、片頭痛がひどくなってからでは薬剤の効果が十分には発揮されません。
自分の外来では、トリプタン製剤と鎮痛薬を療法処方して、患者さん自身に症状に合わせて使い分けてもらっています。「トリプタン製剤を使ったが、少し頭痛が残ったので再度鎮痛剤を飲んだら治まった」「閃輝暗点があったので、すぐに飲んだら頭痛がおきなかった」「軽い頭痛だったので、トリプタン製剤を飲まなくて鎮痛剤だけ治まった」などです。
皆さん、慣れてくると専門医の指導以上に的確な服用をされるようになるのです。
5-2.群発頭痛
群発頭痛とは、頭の片側だけ、目の奥の辺りに激痛が起こるほか、目の充血、涙や鼻水が止まらないなどの症状を伴う頭痛です。20~40歳代に多く、とりわけ男性に多いことも特徴の一つです。症状は1~2か月間ほど毎日のように起こり、この期間を群発期と呼びます。症状は相当強いのですが、職場等では、「若いくせに頭痛ぐらいで大袈裟」と取り合ってもらえないことも多いです。
そのため、通常頭痛だけで診断書を書くことはしないのですが、群発頭痛に対しては診断書で一定期間の安静治療を求めることがあります。
対処方法とししては、群発期には、アルコールを摂取すると確実に頭痛が起こるため、飲酒を避けることが大切です。群発頭痛のある人には喫煙者が多いことから、特に群発期は禁煙することが勧められます。
群発頭痛が起こると、一般の鎮痛薬では痛みを抑えることができません。治療の柱は、片頭痛と同じトリプタンを使用します。但し、内服薬は薬の効果が現れるまでに30分~1時間程度かかるため、群発頭痛では即効性のある自己注射薬を使用します。通常は注射をしてから10分間くらいで痛みが軽減し始め、15分間以内には痛みがほぼなくなります。
群発頭痛のもう1つの治療の柱が、酸素吸入です。酸素吸入は、1分間に7~10リットルのペースで医療用の酸素を15分間吸入することで、症状を改善する治療法です。昔から行っている治療ですが、なぜ効果があるのかは、はっきりとわかっていません。酸素吸入による群発頭痛の治療は、2018年4月から健康保険が適用されました。
6.神経が原因の症状とは
神経が原因の頭痛の代表は後頭神経痛です。多くは大後頭神経(頚椎2(C2)、頚椎3番(C3)から後頭部の頭皮を走行する知覚神経)の痛みです。急に、首のつけ根から後頭部が「キリキリ」と痛み、頭のてっぺんや耳の上や後ろにかけて痛みが走ります。
実は、私自身が経験しています。夜寝ている時に寝返りをした際に強烈な激痛が走ります。初めて経験した時は、死ぬかと思いました。幸い、神経が原因ですから激烈ですが一瞬で終わります。眠いので、そのまま眠ってしまいました。きっと、医学的知識のない方であれば、間違いなく受診されます。
多くの方の症状は、私のように睡眠時の寝返りやシャンプーをする時や頭皮を指やヘアブラシで触ったことで誘発されます。あくまで神経の走行に一致した痛みで、片頭痛と違い脈拍と一致しないのが特徴です。
痛み自体は一瞬ですから、痛いと思っても薬を飲む時間はありません。そのため外来では、頻度が問題となります。毎日もしくは週に2-3回以上であれば、予防的にテグレトールという抗けいれん薬を処方します。そうすると、症状が殆ど起こらなくなります。但し、頻度が少ない場合は、予防的に毎日服用するよりは、我慢される方が多くなります。
7.うつ病に伴うものもある
頭痛には、精神が原因で引き起こされることもあります。緊張性頭痛が夕方に出現することに対して、起床時から頭痛が起こる場合は、うつ病等の精神疾患も疑います。この場合、夜間の不安障害や不眠が頭痛を引き起こしていると考えます。
診察で、筋肉性、血管性、神経性のいずれにも属さずに治療効果がない場合は、抗うつ薬や睡眠薬を使用してみて頭痛への効果をみます。但し、効果がないのにこれらの薬を漫然と継続してはいけません。
8.まとめ
- 実は、多くの医師は頭痛の診断治療のトレーニングを受けていません。
- 多くの頭痛は筋肉性、血管性、神経性に原因をもち、それに合わせた治療が効果的です。
- ただし、時に精神的な原因で頭痛を訴えることもあるのです。