自宅でも介護保険施設でも見られない患者さんをどこで看るか?

自宅でも介護保険施設でも見られない患者さんをどこで看るか?

認知症患者さんの介護は、物忘れがひどくなることが大変なわけでではありません。確かに、同じ話や同じ質問を繰り返されると介護者の精神的苦痛は重くなります。しかし、全体の流れでみると本当に大変なのは幻覚・妄想・暴力・暴言といった行動・心理症状(BPSD:Behavioral and psychological symptoms of dementia)です。それに対して、メマリーや抗精神病薬少量投与などでかなりの患者さんはコントロールできます。しかし、一定数はコントロールできないことも事実です。このような患者さんは、家でも看られない、通所サービスも使えない、もちろん施設入所などは施設側から断られることになります。こうなるとご家族は八方ふさがりになります。そのような時に検討したいのが『認知症疾患医療センター』になります。月に1000名の認知症患者さんを診察する長谷川も、年に数人は『認知症疾患医療センター』にお願いをしています。今回の記事では、『認知症疾患医療センター』について解説します。

1.『認知症疾患医療センター』の多くは精神科病院

『認知症疾患医療センター』とは認知症に関する早期診断・早期治療を行うとともに、地域の医療・福祉との連携を図ることを目的として全国で250か所ほど設置されています。『認知症疾患医療センター』には、総合病院型、総合病院と連携した単科病院型、外来のみの診療型の3種類があります。いずれも認知症に関する詳しい診断を行うほか、行動・心理症状(BPSD)や体の合併症への対応、専門医療相談などを担う医療機関で、併設または提携する入院施設があります。

ただし、『認知症疾患医療センター』とネーミングは良いのですが、多くの医療機関は精神科の病院であることを理解する必要があります。

2.どんな人が入院できる?

以下のような方が入所適応になります。特に経験的には、アルコール多飲の既往がある方は、通常の外来治療でも困難になることが多く、『認知症疾患医療センター』をお願いすることが多くなります。

2-1.徘徊

運動機能が維持されていて、どれだけでも歩ける人が徘徊すると介護者は大変です。施設でも介護者が一人取られてしまうので、利用を断られることが多くなります。

2-2.暴力

暴力をふるったり、暴言がひどかったりして、同世代の高齢者や同じように認知症を患っている方との共同生活が難しい方も困ります。介護の現場の職員は女性が多いため、特に患者さんが男性であると、身の危険を感じることさえあるのです。

2-3.その他

食事や排泄、軽い運動や着替えといった日常生活が営めても、自傷加害行動や精神保健福祉法における入院基準が認められた場合は入院の対象になります。ほかにも、幻聴幻視、うつ症状、徘徊、服薬拒否といった行動があれば、入院が可能になります。

3.入所でなく入院

あくまで介護施設への入所ではなく、『認知症疾患医療センター』への入院となります。したがって、入院の条件として要介護度よりも、本人の精神状態や介護者である家族の状況が優先されています。全国に250カ所以上の施設がありますし、対象者も多くはないので、特養やグループホームほどの順番待ちは少ないとされています。  ただし、私の経験ではある程度の順番待ちはあることが現実です。

4.治療のメインは最小限の薬物療法

入院後の治療は以下になります


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4-1.治療は最小限

通常、在宅で生活をされている患者さんに対しては、治療は強くなる傾向があります。例えば、夜間徘徊に対しても、自宅であれば、薬を使ってでも眠ってもらわなければ介護者が倒れてしまいます。一方で『認知症疾患医療センター』であれば、本人を自由に徘徊させておくことも可能なのです。したがって結果として薬物治療も最小限になります。

4-2.時に薬によるADL低下もやむをえない

ただし、暴力行為や自傷行為など、放置できないこともあります。その場合、抗精神病薬を中心とした治療が必要です。その際は、見た目で元気がなくなり、寝ていることも多くなりますが、やむを得ないことご理解ください。

4-3.薬剤性パーキンソン症候群の像

抗精神病薬を使用すると、表情が乏しくなり、歩行は前傾で歩幅は小股になります。一見パーキンソン病のようですが、この場合は、薬物の副作用が原因ですから薬剤性パーキンソン症候群といいます。したがって症状が落ち着けば、常に薬の減量を検討してもらいます。

5.『認知症疾患医療センター』でも対応が難しいケース

残念ながら、『認知症疾患医療センター』でも受け入れを断られることもあります。

5-1.医学的な処置が必要

すべてではありませんが、インスリンの自己注射、尿バルーン留置などがあると受け入れが難しいケースがあります。基本的には、精神科の病院であるため医学的処置に対応しずらくなります。

5-2.中途半端な運動機能障害

寝たきりでない程度の運動機能障害があるケースも難しくなります。歩行が不安定だが、何度も歩きまわろうとして頻回に転倒して顔や頭部に怪我をするような患者さんは、やはり対応が難しいのです。言いにくいのですが、さらに運動機能障害が悪化して寝たきりになると、介護施設への入所が可能になります。

6.まとめ

  • 認知症介護で本当に困るのは物忘れでなく、幻覚・妄想・暴力・暴言といった行動・心理症状(BPSD:Behavioral and psychological symptoms of dementia)です。
  • 外来での薬物治療でかなり改善されますが、一定数の方はコントロール不良です。
  • そのような患者さんは、多くは元精神科病院である『認知症疾患医療センター』を検討します。
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