耳鳴りで困っている方は大勢いらっしゃいます。
そのような方は、人と話している間、仕事の会議中、あるいは単に静かに座っているときなど、いつでも、どこでも、耳鳴りが起こっています。
さらに夜、眠るときに耳鳴りが聞こえだすと気になって寝付けません。耳鳴りは誰も聞こえない、音源がない騒音ともいうようなものでそれに悩まされるのです。他の人には正確な音は分かりませんが、困っているのはあなた一人ではありません。世界の人口の10〜15%が定常的に感じていると言われています。
実は、耳鳴りには様子を見てよいものと、医療機関への受診が必要なケースに分けられます。今回の記事では、脳神経内科の専門医として多くの耳鳴り患者さんを診ている長谷川嘉哉が、耳鳴りの知識と正しい対処方法をご紹介します。
目次
1.耳鳴りとは?
実際には鳴っていない音が鳴っているように聞こえる現象のことを「耳鳴り」、または「耳鳴(じめい)」といいます。耳鳴りは耳の中で、自分自身だけが聞こえる共鳴音、クリック音または「キーン」「シー」のような音と表現されます。耳鳴りの音の種類と強度は人によって異なり、異なる方法で体験します。
高い音、太い音、低い音、または変化する音色の場合もあります。音の強弱や長短に関わらず、耳鳴りは家事や仕事など日常生活に重大な支障をきたしかねません。そんな耳鳴りに悩む人が、近年の高齢化やストレス社会を反映して増えてきています。
2.耳鳴りはなぜ起こる?
耳鳴りは耳のしくみや働きと密接に関わっています。耳は外耳・中耳・内耳の3つの部分からなり、外から入ってきた音の振動は、外耳、中耳を経て、内耳に送られ、内耳の「蝸牛(かぎゅう)」という器官で電気信号に変えられたあと、蝸牛神経を通って大脳に送られ、初めて「音」として認識されます。耳鳴りは、このルートのうち、内耳に「異常興奮」が生じて起きると考えられます。
3.耳鳴りは発症の仕方と、左右部位が重要とは
脳神経内科の外来では、患者さんが「耳鳴り」を訴えた場合、対応に大きな差があります。すぐに大病院へ紹介する場合もあれば、何もしないで様子観察になる場合まで様々だからです。実は専門医は患者さんの症状を聞くだけで、緊急性の有無については分かるものなのです。
3-1.いつから耳鳴りがするか
耳鳴りが突然起こったか、徐々に起こったかで緊急性の有無が想像できます。
例えば、「この1、2か月で急に耳鳴りが始まりました」と言われた場合は、医師としては重篤な疾患も疑います。逆に「1〜2年前からですかね?」などと言われた場合は、かなり重症度は低いと考えます。
3-2.左右差を確認
耳鳴りが片側だけで起こったのか、両側で起こったのかで緊急性の有無が想像できます。
耳鳴りが片側で聞こえる場合は、突発性難聴、メニエール病、聴神経腫瘍などが疑われ、すぐに医療機関での検査および治療が必要になります。
一方、耳鳴りが両耳から聞こえる場合は、老人性難聴や、騒音性難聴など、比較的軽症であることが多いのです。このような患者さんには「様子見」となります。
3-3.他の症状が伴うか?
耳鳴り以外の症状が伴うか否かも重要です。逆に、耳鳴りで以下の有無を確認しない医師は、耳鳴りの診療に不慣れである可能性があります。
- 難聴:耳鳴りを感じた場合は、耳が聞こえているかを判断しましょう。患者さんによっては、片方の耳の聴力が落ちていても気が付いていないこともあります。自分自身で、耳元で「指を鳴らす」ことで確認してみましょう。
- めまい:浮遊感や回転性のめまいがあるか否かを確認しましょう。
- 頭痛・肩こり:これらの症状が伴うことは、臨床ではもっとも多いです。但し、頭痛・肩こりの合併ではあまり重篤である可能性は低くなります。
4.医療機関の受診が必要な耳鳴りとは
特に緊急受診が必要な耳鳴りは「3章の条件が全てそろったとき」となります。つまり、突然、片側の耳に耳鳴りが起こり、難聴・めまいといった症状も伴う場合は、医療機関への受診が必要になります。
5.診断方法
耳鳴りで受診した場合は、以下の検査を行います。
5-1.頭部MRI
耳鳴りの患者さんの場合、通常の頭部CT検査で異常を見つけることはかなり困難です。耳鳴りの原因となるような病変は極めて微小であるため、頭部MRI検査が必須となります。
5-2.聴力検査
片側の聴力低下は自覚しにくいものです。進行していれば、耳元で指を鳴らすことで自覚できますが、軽症な場合は、耳鼻科において聴力検査を行うことが必要です。
6.最も怖い聴神経腫瘍とは
耳鳴りを訴えた患者さんで最も見落としてはいけない疾患が聴神経腫瘍です。
聴神経腫瘍とは、聴力を伝える神経の周囲を鞘のように被っている細胞から発生する腫瘍です。多くはゆっくりとした発育する良性の腫瘍です。腫瘍が増大することで種々の症状があらわれます。
聴神経腫瘍の初期症状として最も多いのは聴力の低下、耳鳴りです。徐々に音が聞こえなくなるので、はじめは気づかないこともあります。さらに進行すると、顔面の麻痺やしびれなどを生じます。大きな腫瘍の場合には、めまいや歩行障害、嚥下障害などをみることもあります。
7.治療
耳鳴りの治療は以下のように行います
7-1.原因がはっきりしている場合
原因を取り除くことが原則です。聴神経腫瘍、中耳炎などによる耳鳴に対しては、手術が必要です。また、メニエール病に伴う場合は、低浸透圧利尿剤等を使って元となる病気を治療します。
7-2.内耳障害による難聴を伴う場合
内耳に対して、副腎皮質ホルモン剤,血流改善薬(商品名:カルナクリン・アデホスコーワ(ATP)など),ビタミンB12(商品名:メチコバール)を使用します。
7-3.精神科的治療
ストレスを感じたり、不安を感じた時に耳鳴りが悪化します。外来でも、「疲れていたり、ストレスを感じた時に一番耳鳴りが強くなります」とおっしゃる方がいらっしゃいます。また、うつ病があるなど精神的に落ち込んでいる場合も耳鳴りを強く感じやすいので、その場合には、抗うつ薬,抗不安薬を併用します。
8.「治す」よりも「馴れる(馴らす)」
耳鳴りは、消えてなくなることはまずありませんが、小さくしたり、気にならなくしたりすることは可能です。
8-1.安心が得られる、診察と検査が大事
多くの患者さんにとって、耳鳴りが起こると、不安が募ります。「何か大きな病気の前触れでは?」と心配になります。そんな時は、一度は、頭部MRI、聴力検査を行って、「命に関わる病気ではない」ことを説明すると、かなりの方が耳鳴りが気にならなくなるようです。
8-2.他のものに集中する
耳鳴りを訴える患者さん多くは、何か他ごとに集中していると気にならないようです。例えば、畑仕事やガーデニング、その他に集中できる趣味があれば気にならないようです。行動的に過ごしていることは、昼間の活動性が上がることで、夜も疲れてしまって眠ってしまえば、耳鳴りでの不眠に悩まされることもありません。
8-3.音響療法
自身が感じる耳鳴りが10だとします。その10の耳鳴りに対して、 別の8~9の音を流します。8~9の別の音を入れることで、自身の耳鳴りが 1~2ぐらいに感じるのです。そのような音を入れることで、耳鳴りの感じ方を軽くして、慣らしていきます。
ある意味、テレビを見たり、ラジオを聞いたり、人と話すなどいろんな音を積極的に聞くことで、耳鳴りの際立ちを軽減させることも音響療法の一つです。
見た目が補聴器に似ているウンドジェネレーターという治療器で、いつでもどこでも静かな環境を作らないように人工の治療音を発生させる機器を使うことでも耳鳴りを軽減させることができます。
9.まとめ
- 耳鳴りにも様子を見ても良いものと、医療機関への受診が必要なものに分かれます。
- 突然、片側の耳鳴りが出現して、難聴やめまいが伴う場合は医療機関へ受診しましょう。
- それ以外の場合は、一度は医療機関で検査をすることで安心して、日常生活では他のものに集中することで、耳鳴りに慣れることができます。