脳梗塞のリハビリ期間・治療のステップと知っておきたい5つの知識

脳梗塞のリハビリ期間・治療のステップと知っておきたい5つの知識

多くの脳梗塞発症した患者さんのご家族は、「脳梗塞は突然発症するのですね?」と驚かれます。

脳梗塞は、脳の血管が詰まることで、手足が動かなくなったり、喋りにくくなったり、意識レベルが低下するといった症状を起こします。ある日突然、身内の方は、驚き・心配・不安に直面することになるのです。

今後どうなるのか?

いつまで今の病院にいられるのか?

リハビリでどこまで回復するのか? といった不安にさいなまれます。

これからの流れが予想できれば、多少でも不安が和らぐものです。今回の記事では、主に「脳梗塞のリハビリ」を「期間の観点」から説明します。

具体的には、発症から急性期病院・回復期病院・自宅で行われる脳梗塞のリハビリについてご紹介します。少しでも皆様の不安が和らげば幸いです。

1.「脳梗塞」最近の特徴とは

脳梗塞の原因は、高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病です。

最近では、昔のように脳梗塞で当然亡くなる方は減っています。それは、健康診断等で生活習慣病対策が行き届いているからです。そのため、ガンや心臓疾患にくらべ脳梗塞に対する関心も減っているようです。しかし、頻度は決して減っていません。最近の傾向をご紹介します。

1−1.死亡原因は第3位だが頻度は減っていない

長年、日本人の死亡原因の1位であった脳梗塞ですが、統計では年々脳梗塞で亡くなる人の割合は減少傾向です。最近ではガン、心臓疾患についで3位になっています。そのため、脳梗塞になる方も減ったと思われがちですが、現在でも年間で約80万人近い方が脳梗塞を発症しています。

1-2.後遺症は残ることが多い

脳梗塞が発症すると、20%の方がお亡くなりになり、後遺症がなく退院できる方は20%と報告されています。残りの60%は軽重はあるのですが、何らかの後遺症が残ります。

1-3.若年者が増えている

超高齢化社会が進む中で、脳梗塞が発症する年齢は高齢化しています。

しかし、気になることは50歳未満の若年で発症する方が増えていることです。私の外来でも、50歳未満の患者さんが増えてきた印象があります。英国のインペリアルカレッジ・ロンドンのデータでは、2030年には、若年層の患者数が2倍になると予想されています。そのため、ますます脳梗塞のリハビリは重要となるのです。

2.リハビリを開始するのはいつから?

脳梗塞が起こった場合、地域の基幹病院に緊急入院することから始まります。

入院後は、症状に応じて血の流れを良くする薬や血栓を溶かす治療を行います。それらの処置が行われ、血圧や脈などが安定してきたらリハビリが始まります。

脳梗塞で倒れると、”絶対安静で動かしてはダメ!”と言われていた時代もありました。しかし、現在は出来るだけ早急にリハビリを開始します。なぜなら身体は動かさないと日に日に筋力は落ち、関節が固くなって動かなくなるからです。早いケースだと、入院翌日からリハビリを始めることもあり、概ね1週間以内には開始します。仮に意識がなくても関節を動かしたり、筋肉を刺激させるリハビリを開始します。

3.いつまでリハビリを行う?

この章では急性期と回復期のリハビリについて説明します。発症直後で特に注意が必要な時期が急性期、容態が安定してより積極的なアプローチがとれるようになる状態を回復期と言います。

3-1.急性期リハビリは1ヶ月が目安

脳梗塞のリハビリは、病院での急性期リハビリ から開始されます。急性期においては、身体の機能そのものの回復が重視されますので、内容は無理のない、負担の軽い程度のリハビリを中心に行います。

急性期リハビリの一番の目標は、関節の拘縮や筋力低下といった「廃用症候群」の防止・軽減にあります。発症前の状態まで回復させることではありません。

そのため1か月前後で急性期病院から、回復期病院に転院することになります。昔は、急性期病院で3か月ほど治療からリハビリを行っていました。そのため、患者さんやご家族とも深いつながりができたものです。

私が25年前に勤務医をしていた急性期病院の患者さんが、現在まで通院いただいていることもあるほどです。


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3-2.回復期病院に入院できるのは発症2ヶ月目まで

設備の整った急性期病院での入院継続を希望される方が多いのですが、長期にリハビリを継続するためには注意が必要です。急性期病院から回復期リハビリ病院を利用する場合、制度上「発症から入院までの期間」「入院できる期間」それぞれに期限が設けられています。

脳梗塞と診断された場合、回復期リハビリ病院に入院できるのは「発症から2ヶ月(60日)以内」の方のみです。つまり、急性期病院での入院が2か月を超えると、回復期リハビリ病院への転院はできなくなります。その結果、退院して自宅でリハビリをしなくてはならなくなるのです。

そのため、急性期病院に入院して、1〜2週間で次の回復期リハビリ病院を探す必要があるのです。さらに、無事に回復期リハビリ病院に入院できてもいつまでもリハビリを続けられるものでははありません。脳梗塞を中心とした脳血管障害に対する病院でのリハビリは、脳血管障害では150日、 高次脳機能障害を伴った重篤な脳血管障害では180日と制限があります。

昔を知っているものからすると、寂しい話ですが医療費抑制のためにはやむを得ないのかもしれません。

4.回復期病院でのリハビリとは

ここからは回復期以後のリハビリについてご説明します。

4−1.各種療法士による指導が中心

回復期リハビリでは、より実践的なリハビリを行います。回復期リハビリ病院では入院施設で、1日最大3時間リハビリに励むことになります。ここでは理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による専門的なリハビリはもちろん、朝起きてから寝るまでの入院生活すべてをリハビリと捉えます。特に退院後の介護負担を考えると、患者さんの食事とトイレの自立支援はポイントとなります。急性期病院と比べて日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)訓練を中心に実施されます。

Senior Man with a Disability being helped in kitchen
食事を自分で取るための訓練なども行います

4−2.半年経って動かない手足は動かない

以上のようなリハビリを半年近く行った時点で、動かない手足は動きません。厳しいようですが、医学的に6か月が限界であるのです。そのため、身体障害者手帳も発症6か月経ってから申請が可能です。現在の医療保険制度で、6か月以降の医療保険でのリハビリを認めていないことも、この理屈によるものなのです。

4−3.半年後も継続したリハビリが必要

ならば、発症半年を経ったらリハビリは不要なのでしょうか? 例えば、右の手足が動かなくなったとしましょう。やはり半年たって動かなければ動きません。しかし、リハビリを続けることで、動かない右半身を引きずりながら動くだけの強靭な左半身の力、バランス、コツをつかむことができます。結果として、10mの移動に1分かかっていたものが、15秒で移動できるようになるのです。理屈で行けば動かない手足は動きませんが、リハビリの継続で、日常生活動作は改善し維持することができるのです。つまり、リハビリは一生続けることが有効なのです。

Senior hand coloring
作業療法では生活の質を上げるための訓練も行います

5.退院後のリハビリ。患者さんが放った「杖をください…」の真意とは

以前、テレビ番組で脳梗塞により片麻痺が残った患者さんが、退院後リハビリを続けたくても続けられないことを問題視していました。その時の言葉が、『杖をください』です。患者さんは、退院後のリハビリを”杖”と言い換えたのです。退院後もリハビリさえできれば、歩くことができるのに、世の中に”杖”がなかったのです。脳梗塞を専門としてるものからすれば、衝撃的な言葉でした。

通常、回復期リハビリ病院を退院した後は、維持期リハビリと言われる老人施設、介護施設でのリハビリの継続を薦められます。国としては、6か月経ったあとは、医療保険でなく介護保険を使ってくださいという理屈です。残念ながら、そのような施設では本格的なリハビリはあまり受けられません。しかし、全国では志をもった医療従事者が積極的に介護保険の枠の中で、リハビリを提供しています。

5−1.デイケア(通所リハビリテーション)

通所リハビリテーション」とも呼ばれます。日帰りでリハビリテーションを提供するサービスです。 利用者が自立した生活を送ることを目的として、「運動器機能の向上」「栄養改善」「口腔機能の向上」などを行います。しかし、開設できるのが、老人保健施設・病院・診療所などに限定されるため、競争原理が働かず、ほとんどどリハビリが提供されていない施設もあります。どんなリハビリが提供されているか、施設だけでなくケアマネにも確認することをお勧めします。

5−2.リハビリ特化型デイサービス

通常のデイサービスでは、午前中に入浴、昼食後はレクリエーションと高齢者を対象としています。リハビリは全く提供されません。しかし、リハビリに特化したデイサービスもできています。当院でも提供しているパワーリハビリは、機械を使ったリハビリです。パワーリハビリテーション学会が設立され、全国のデイサービス、老健等に広がっています。“杖が必要であった人が不要になった”、“転倒しやすくなった人が転倒しにくくなった”など効果を上げています。

Positive joyful man sitting in the wheelchair
リハビリに特化した施設も介護保険の補助のもと利用することができます

リハビリ特化型デイサービスについては、以下の記事にて詳しく解説しています。興味のある方は参考になさってください。

5−3.訪問リハビリ

自宅に、理学療法士や作業療法士が伺います。退院後は、日々の生活での一挙一動がリハビリに繋がります。立ったり座ったり、あるいは階段を登ったり降りたり、食事に風呂にトイレに、ありとあらゆる行動がリハビリとなります。訪問リハビリでは患者さんの生活環境に合わせたリハビリを行います。

以上が、退院後の維持療法のリハビリです。これらは地域によって差があります。各地域で問合せされることをお勧めします。

6.再発予防策とは

確かに、リハビリは大事です。しかし、脳梗塞は再発させないことも大事です。

6−1.生活習慣病のコントロール

脳梗塞の再発予防は、生活習慣病のコントロールが基本です。高血圧、糖尿病、高脂血症のコントロールが重要です。今まで以上に真剣に取り組みましょう。

6−2.生活習慣の改善

タバコは、議論の余地はありません。絶対、禁煙です。脳梗塞を発症しても、禁煙できないような患者さんに対しては、医療従事者も情熱を注ぐことはできません。

飲酒については、脳梗塞においては、日本酒1日1合もしくはビール350ml程度の方が、飲酒されない方より発症率が低いというデータがあります。だからと言って、無理して飲む必要はありません。脳出血に関しては、一滴も飲まないほうが発症率は下がります。ならばどうすれば良いか? 日本酒1日1合もしくはビール350ml程度の飲酒であれば、個々の嗜好に合わせてください。もちろん、それ以上の飲酒は控えましょう。

6−3.ストレスの見直し

50歳未満で発症される患者さんは、生活習慣病もない方がいらっしゃいます。ならば、何が原因でしょうか。多くの方が、かなりハードな仕事をこなされておりストレスも一因と思われます。病気を機に、仕事より身体を優先とした生活をするようにしましょう。

7.まとめ

  • 脳梗塞になったら、できるだけ病院でのリハビリが継続できるように、急性期の入院は2か月以内として、回復期病院に移り、医療保険で認められる最大限の期間、リハビリを行いましょう。
  • 退院後は、ケアマネや介護事業所のホームページから、本当にリハビリをやっているデイケア、リハビリ特化型デイサービス、訪問リハビリを探しましょう。
  • 実生活では、再発予防にも気を配りながらリハビリに取り組みましょう。
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