診療科目「脳神経内科」をご存知ですか? 以前は「神経内科」と言っていました。聞いたことはあるかもしれません。でも具体的に何をやるところかは、実際にかかった方ではないとまだまだ認知度が低いかと思われます。
(平成30年より学会によって、従来の神経内科が脳神経内科に呼び名が変わりました。)
自分は、祖父が認知症であった経験から医師を志し、脳神経内科を専門にしました。しかし当初は「認知症を専門にするには何科に進めばよいか?」すらわかりませんでした。
私が医学部に入学した昭和59年当時は、多くの大学では脳神経内科は内科の一部の先生方が取り組んでいるに過ぎなかったのです。その後、多くの大学で徐々に「神経内科講座」ができ、科目として独立し始めました。
ですから、多くの方々が「脳神経内科って何を診る科?」と疑問を持たれるのも無理はありません。私自身としては、専門にしてからも神経内科の奥深さと、多くの患者さんに貢献できる点で心から満足しています。そして、高齢者が増えていくこれからの時代はますます必要にされると思います。今回の記事では、この脳神経内科についてご紹介します。
目次
1.脳神経内科とは?
脳神経内科の、他の科目にない最大のメリットとしては、全身を診ることができるという点です。
脳神経内科は脳や脊髄、神経、筋肉の病気を診る内科です。体を動かしたり、感じたりすることや、考えたり、覚えたりすることが上手にできなくなったときにこのような病気を疑います。
症状としてはしびれやめまい、うまく力がはいらない、歩きにくい、ふらつく、つっぱる、ひきつけ、むせる、しゃべりにくい、ものが二重にみえる、頭痛、勝手に手足や体が動いてしまう、物忘れ、意識障害などがある場合はぜひ神経内科を受診してください。
このような症状があるときはまず、どこの病気であるか(何が原因で引き起こされているか)を見極めることが大切です。つまり、全身を診ることができる脳神経内科の範疇なのです。
そのうえで骨や関節の病気がしびれや麻痺の原因なら整形外科に、手術などが必要なときは脳神経外科に、精神的なものは精神科をご紹介したり委ねることもあります。
2.どの病気になったらかかるの?
代表的な脳神経内科の疾患を紹介します
2-1.脳血管障害
脳の血管がつまったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血)して、脳の機能が侵される病気のことをいいます。具体的には急に手足が動かなくなってしまったり、感覚が麻痺してしまったりします。また、言葉がうまく話せなくなることや、意識がなくなることもあります。
2-2.認知症
認知症をきたす病気は多数ありますが、中高年の方が認知症症状を呈した場合、まず「アルツハイマー型認知症」あるいは「脳血管性認知症」にかかっている可能性を考える必要があります。脳の機能を判定し、服薬などで治療を行えるのが神経内科なのです。
2-3.てんかん
手足をつっぱり、意識をなくし、口から泡をふくというけいれん発作が有名ですが、短時間ぼーとしたり、意識がありながら手足がかってに動くような発作もあります。脳波などの検査で診断できることがあり、治療薬があります。
2-4.パーキンソン病
中年以降の方に多く、なにもしていないのに手がふるえていたり、歩くときに前屈みになって、歩幅が狭く、手の振りがなくなり、顔の表情もかたくなるような病気です。効果のあるお薬がたくさんありますが、使い分けに専門的な知識がいりますので、脳神経内科を受診してください。
2-5.神経難病
神経難病とは神経の病気の中で、はっきりした原因や治療法がないものをいいます。具体的には運動ニューロン病(筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症など)、脊髄小脳変性症(脊髄小脳萎縮症、多系統萎縮症など)、多発性硬化症、重症筋無力症、パーキンソン病、進行性核上性麻痺などがあります。
もちろんこれ以外にも、「手足のしびれ」「めまい」「偏頭痛」に悩まれる方は、まず脳神経内科を受診なさってください。
3.何をするところなの?
脳神経内科は、一見難しく医学生からも敬遠されがちな科です。大学の同期80名の中で神経内科を選択したのは自分ひとりでした。しかし、とても系統的で、理屈がわかればとても面白いものです。
3-1.問診
脳神経内科の疾患は、問診と言って患者さんの訴えを詳細に伺えば殆ど診断がつきます。症状が「突然?徐々に?良くなったり悪くなったり?」、病変が「両側?片側?」などを組み合わせると、おおよその病変部位が分かってきます。患者さんの訴えに理屈が合わないときに、「詐病」を見つけることも得意です。
*詐病(さびょう):経済的または社会的な利益の享受などを目的として病気であるかのように偽る詐偽行為である。
3-2.神経学的所見
他の科の先生にできなくて、脳神経内科医にしかできないのが神経学的所見です。
例えば、脳神経内科は、常にハンマーを持っており、手足の反射の強弱と、左右差で病変部位を診察することができます。ちょっとプロっぽいでしょう。
これにより、患者さんの頭から足の先まで、具体的には、脳神経、末梢神経、筋力、協調運動、感覚等を診察することができます。これが神経学的所見なのです。自分が医師になりたての頃は、先輩の先生が手取り足取り教えてくれたものです。
3-3.画像診断
通常の科では、画像診断が重要です。しかし、問診と神経学的所見を重視する神経内科では画像は補助診断にすぎません。自分も、「脳幹部のどこどこに病変があるはずだから、MRIで2㎜スライスで切ってください」と撮影をお願いしたものです。これが他の科目ですとおそらく疑わしい部分を大きく撮影し、しらみつぶしにチェックすることになろうかと思います。
4.脳神経内科の数は?
最新のデータでは全国の脳神経内科医の数は5,122名です。これは全医師数の2%弱という少なさです。
全国の医師の数は、311,205人です。従事する主たる診療科別にみると、「内科」が61,317人(20.7%)と最も多く、次いで「整形外科」20,996人(7.1%)、「小児科」16,758人(5.6%)となっています。(平成26年12月31日現在における全国の届出による)
脳神経内科が扱う疾患に認知症や脳血管障害が含まれることを考えると、明らかに数が少ないことがわかります。そのため脳神経内科が配置されている病院は、規模の大きい傾向があります。当院のように脳神経内科を専門とした開業医は相当少ないのが現状です。
ちなみに、日本精神神経学会が認定する神経内科専門医試験は大変難しいことで有名です。自分も医師の国家試験のときと同様に勉強をしたものです。
神経内科医を探すには以下のサイトで検索することができます。
5.脳神経内科と紛らわしい診療科
脳神経内科は以下の科とよく間違えられます。以前同様、神経内科の看板を出しているところもあります。
5-1.精神科
精神神経科、神経科の名称の場合もあります。これらの科は、おもに気分の変化(うつ病や躁病)、精神的な問題を扱う科です。精神科の病気のほとんどが実際に病気の患者さまの脳を拝見しても異常を見つけられないのに対し、神経内科で扱う病気は脳をみるとなにかしら病気の証拠をみつけることができます。簡単に言えば、精神科はソフトの異常、神経内科はハードの異常と言えます。
5-2.心療内科
心療内科は精神的な問題がもとで体に異常をきたしたような病気を扱う科です。具体的には、精神的なストレスが原因で、狭心症なのどの心臓疾患を引き起こすケースです。ソフトの異常によって、ハードまで壊れてしまった場合に見てもらう科目と言えます。
5-3.脳神経外科
脳神経外科は外科ですので、基本的に手術などが必要な病気を扱います。脳腫瘍や脳動脈瘤などが脳神経外科でみる代表的な疾患です。ハードの異常に対して内科的に治療するのが神経内科、外科的に治療するのが脳神経外科です。
6.脳神経内科医の特徴とは
現状、脳神経内科医は充足されていません。しかし高齢化に伴い、脳神経内科領域の医師の需要が増えています。このような時代背景を受け、医師全体が10年間で15.7%しか増えていないのに、神経内科医は34.7%もアップしています。「3割強アップ」は急増といってもいいでしょう。このような脳神経内科を選択する医師の特徴をご紹介します。
6-1.真面目
他の科の先生に比べ、間違いなく真面目な先生が多いです。ゴルフや酒にのめりこむ人も極端に少ない印象です。純粋に「脳神経内科に従事することが好き」なようです。
6-2.優秀?
私は違うのですが、他の脳神経内科の先生は、学年でも優秀な先生が多かったようです。多くの学生が難解なために毛嫌いする分野に果敢に挑むような真摯さも感じられます。
6-3.女性が増えた
平成2年に医師になった自分たちの時代は、医師に占める女医さんの割合は10〜15%程度でした。現在は、女医さんは50%近くになっています。つまり、すべての科で女医さんが増えているのですが、真面目で優秀ということからか、女医さんでも脳神経内科を選択する人が増えているようです。
7.まとめ
- 脳神経内科は、脳や脊髄、神経、筋肉の病気をみる内科です
- 脳神経内科が見る疾患は、認知症、脳血管障害、てんかん、神経難病であり高齢化時代において極めて需要が多いのです。
- 脳神経内科医は少ないため日本神経学会のサイトで近くの専門医を探しましょう。