当院では、令和2年4月の糖尿病専門外来の開設に伴い、管理栄養士さんが働いてくれています。糖尿病の患者さんに対しては、薬物治療だけでなく食事療法が重要です。しかし、多くの医師は食事療法の知識に乏しく、十分に時間をかけることもできません。当院においても管理栄養士さんによる定期的な食事指導のおかげで、多くの患者さんが効果を上げています。そんな管理栄養士さんという職業は、これからの時代に社会から広く要望される職種です。
今回の記事では、医療の現場から、管理栄養士という職業をお勧めする理由を、総合内科専門医である長谷川嘉哉が解説します。
1.管理栄養士とは
そもそも、管理栄養士の資格とは、どのようなものでしょうか?
1-1.食や栄養の専門家を認定する国家資格である
管理栄養士とは、国家資格で、食や栄養の専門家です。具体的には、病気や高齢の方に対して、健康を考えた食事を作ります。さらに、まだ病気になっていない方にとっても、健康増進のために栄養指導や栄養管理を行います。そのため、単に食事を作ったり、メニューを考えるだけではない、専門的な知識が必要になります。
1-2.栄養士の上位資格である
栄養士は、栄養士要請施設に通い栄養士養成課程をクリアすれば資格を得られます。国家試験を受けて取得する管理栄養士の資格は、栄養士の上位資格としてみなされ、待遇・給与にも差があります。
1-3.管理栄養士には、どうやってなるの?
国家試験である管理栄養士の受験資格を得るためには、2つの方法があります。
- 4年生の管理栄養士養成校(大学もしくは専門学校)を卒業後に国家試験を受験
- 大学・短大・専門学校の栄養士養成施設を卒業し、栄養士資格を取得後1~3年の実務経験を積んだ後に国家試験を受験
実務経験についての詳細は、厚生労働省の以下のホームページを参照してください。
2.どんなところで働くの?
管理栄養士さんが働く職場は、多種多様です。
2-1.医療・介護施設
病院や介護施設などの、給食施設では、カロリー計算や栄養素を計算し、身体に良い食事を提供します。食事制限のある人には、それに合わせて献立を作ることも仕事になります。最近では、委託業者に給食を委託されていることも多いため、給食業者の管理も行います。
2-2.給食会社
給食を委託される給食業者に勤務する菅理栄養士さんも増えています。この場合は、食材管理・コスト管理・人材派遣も仕事内容に含まれます。
2-3.行政機関
行政機関に就職する管理栄養士もいらっしゃいます。保健所などでは、離乳食や高齢者の食事相談などを行います。
2-4.研究・教員職
企業の研究所に就職して、食や栄養の研究をされる方や、管理栄養士の養成施設で、教育職として勤務する方もいらっしゃいます。
3.地域の開業医でも積極的な採用を
現在、糖尿病の患者数は1000万人を超えています。その診療に携わっているのは地域の開業医です。
3-1.糖尿病治療の基本は食事
糖尿病の治療は、薬の投与がメインではありません。あくまで基本は、食事療法と運動療法であり、それらをきちんと行ったうえでの薬物療法となります。そのためにも、地域の診療所レベルでも積極的な管理栄養士の雇用が望まれます。
3-2.医師に、栄養指導はできない!
何しろ医師に栄養指導はできません。そもそも食事療法の知識も乏しいものです。私自身、管理栄養士さんのお陰で、ずいぶん食事療法の知識を得ることができました。特に医師の中には、とても「患者さんに食事指導ができないような生活習慣と体型」をしている方がいることも問題です。
3-3.管理栄養士がいる施設での糖尿治療がお薦め
多くの患者さんは、内科と標榜されていれば、どの医療機関でも治療レベルは同じと考えがちです。しかし、そもそも開業医が標榜している科目に、専門や経験は無関係です。専門が外科、泌尿器科、皮膚科であって、内科の経験やトレーニングを受けていなくても、内科の標榜はできてしまいます。実際、最近の糖尿病治療は急激に進んでおり、かなりの差があります。できれば開業医でも管理栄養士がいるような施設での糖尿治療がお薦めです。
4.国も積極的な取り組み
急増する糖尿病患者さんに対して、国も開業医レベルでも管理栄養士さんに活躍してもらうことを推奨しています。そのため、報酬として外来栄養食事指導料が設けられています。具体的には、医師の指示に基 づき管理栄養士が献立等によって指導を行った場合に、初回の指導を行 った月にあっては月2回に限り、その他の月にあっては月1回に限り算定が可能です。点数は、初回が260点(患者さん負担は、3割で780円)、2回目以降は200点(患者さん負担は、3割で600円)になります。
費用負担については、申し訳ないのですが、糖尿病が悪化することによる合併症の事を考えると、「安い」と思っていただきたいです。糖尿病の合併症については、以下の記事も参考になさってください。
*糖尿病性腎症の早期発見と治療方法を知る7つの知識【専門医が解説】
*糖尿病網膜症による失明を避ける!7つの知識を認定内科専門医が解説
*糖尿病による足のしびれ「糖尿病性神経障害」を脳神経内科医が解説
5.期待される管理栄養士像
これから、一般開業医でも普通に管理栄養士さんが常駐するようなると、以下のような能力が期待されます。
5-1.分かりやすく、継続しやすいこと
管理栄養士さんの中には、継続ができそうにもない理想的なメニューを押し付ける方もいらっしゃいます。それでは、患者さんの食事療法も継続しません。糖尿病は長い付き合いになります。「間食はダメ」と言い切るのではなく、「どうしても間食が取りたくなった時の糖尿病に影響の少ない食材」を提案してあげてほしいものです。
5-2.自分ごととしての指導
やはり管理栄養士さん自身が、自分ごととして指導してくださると説得力があります。幸い?当院の管理栄養士さんは、自身に血糖値スパイクが見つかったため、とても親身で、実践的で、継続しやすい指導をしてくれます。
5-3.コミュニケーション能力
やはり、コミュニケーション能力が重要です。継続しやすい内容を、適切なコミュニケーションで伝えてもらえれば、患者さんにも継続してもらえるものです。当院では、「内服治療では限界、インスリン治療を検討」と思っていた3人の患者さんが、管理栄養士さんの食事指導で、劇的に改善しました。
6.まとめ
- 管理栄養士さんは、これからの時代、幅広い領域で必要とされる職種です。
- 特に急増する糖尿病患者さんに対しては、開業医レベルでも管理栄養士さんによる食事指導が望まれます。
- 患者さんも、できれば管理栄養士がいる医療機関の受診がお薦めです。