一人暮らしの高齢者が増えています。その方々の中には、できるだけ最後の最後まで自宅での生活を希望されるかたもいらっしゃいます。そして、亡くなるときも自宅での看取りを希望される方もいらっしゃいます。一昔前であれば、一人暮らしの看取りはかなり難しいものでした。しかし、介護保険も施行されて21年経ち、多くの工夫で一人暮らしの方の自宅でも看取りも不可能ではなくなってきています。
今回の記事では、在宅医療の専門医長谷川嘉哉が、実際に経験した一人暮らしの在宅看取りから、学んだことを解説します。
目次
1.一人暮らしの現状
たくさんの家族で暮らしている人からは、想像できないかもしれませんが、一人暮らしの方は急激に増えています。2015年のデータでも約1,842万の方が一人暮らしをしています。それは、全人口の14.5%にあたり、約7人に一人は一人暮らしと言えるのです。2010年には1,678万人でしたから、5年間で164万人、9.8%増加しているのです。
今は3世代で大家族でも、いずれ両親が亡くなり、子供が独立。そして、配偶者が亡くなれば、誰でも一人暮らしになる可能性が高いのです。
2.人生の最後が一人であることが問題ではない
一人暮らしの方の増加に伴い、人生の最期を自宅で過ごすことを希望される方も増えてきています。私も、初めて「一人暮らしの看取り」の依頼を受けた際には、可能であるか迷ったものです。
最後の最後にお亡くなりになった際に、一人暮らしであれば、すぐに気が付くこともできません。定期的な見守りサービスを入れていても、亡くなってから数時間放置される可能性が、何よりも気がかりでした。
しかし、私の経験した患者さんにその説明をすると、「亡くなった際に数時間放置されることよりも、それまでの人生をいかに生きたが大事なのです。」と明確に言われました。正直、この言葉で、医師・訪問看護師・ケアマネ・介護士の覚悟が決まりました。一人で自宅で亡くなることは、「孤独死」ではなく「満足死」なのです。
確かに、我々は、心呼吸停止の際に周囲に家族が居ることにこだわりますが、それは一瞬に過ぎません。家族によっては、ウトウトしてしまって、最後の瞬間に立ち会えなかったことに後悔されることもあります。しかし、何より大事なことは、最後の一瞬でなく、それまでの過程であるのです。
3.一人暮らしの看取りで必要なもの
そんな、一人暮らしの自宅での看取りの実現には、以下のようなものが必要です。
3-1.意志
「一人暮らしだが、最後は自宅で亡くなりたい」という明確な意志です。すべての人が、自宅での最期を望んでいるわけではありません。私の経験でも、施設での最期を望まれる方の方が、現実には多いものです。我々、医療従事者はけっして、どちらかを強制してはいけません。あくまで、方法を提示し、それぞれのメリット・デメリットから患者さんに判断してもらう必要があるのです。
3-2.最低限の知人
在宅での看取りのためには、医療・介護サービスの利用が必須です。これらのサービスの利用には、契約が必要です。もちろん最初は本人自身で行うことも可能です。しかし、状態が悪化してくると、本人だけでは対応が困難となってきます。そのため誰が契約を代行してくれる方が必要になってきます。一人暮らしの患者さんの中には、身内との関係が疎遠になっている方が多いものです。その場合に、頼りになる友人が必要です。
3-3.場所とお金
在宅での看取りのためには、家とお金も必須です。いくら自宅での最期を希望しても、住む家がなければ実現しません。もちろん賃貸でも可能ですが、それには家賃を払い続ける経済力も必要です。さらに、医療・介護サービスの自己負担のために費用も必要になります。
3-4.機能強化型在宅療養診療所
在宅での看取りを実現するには、在宅医療を専門にしている医師が必須です。時々、訪問診療を行っている「なんちゃって在宅」の診療所ではダメです。複数の医師が定期的に訪問診療を行い、年間看取り数もこなし、グループ内で訪問看護ステーションを持っているような、機能強化型在宅療養診療所がお薦めです。
*機能強化型在宅療養診療所:複数の医師が在籍し、緊急往診と看取りの実績を有する医療機関
3-5.夜間対応の訪問介護
一人暮らしの看取りの際には、医療だけでなく、介護も重要になります。私が経験したケースでも、毎日、ヘルパーさんが数回、自宅を訪問してくれました。最後が近づくと、患者さんが「真夜中の2時ごろに不安になることが多い」ため、毎晩ヘルパーさんが入ってくれました。そんなケアプランを立ててくれたケアマネと、実行してくださったヘルパーさんには、頭が下がる思いでした。
4.一人暮らしの在宅看取りの経験から学んだこと
確かに、現在では一人暮らしでも在宅の看取りは可能です。しかし、経験するといくつかの問題点も出てきました。
4-1.本当に一人か?
患者さんによっては、身内とも疎遠になっているから、連絡は一切取らなくても良いと言われます。しかし、不思議と亡くなると、行政が身内を同定して連絡をされます。連絡を受けた身内にしては、驚きです。私の経験でも、身内から「亡くなってから連絡があるなら、生前から知らせておいてほしかった」と苦言を言われたこともあります。
自分では一人であると思っていても、血のつながった方がいるものなのです。
4-2.遺言は必須
「私には財産はない」といっても、何かしらの財産はあるものです。それらの処分をどうするかはとても問題になります。場合によっては、国に没収ということさえあります。やはり、どこかに寄付をするにせよ、遺言を残すことが必要です。
4-3.ペットをどうするか?
財産とは言いにくいのですが、ペットの問題もあります。一人暮らしの方は、ペットを飼っている方が多いものです。私の経験したケースでも、状態が悪化してからは、訪問看護婦さんが、ペットの世話もしていました。
5.まとめ
- 一人暮らしの方の増加に伴って、在宅での最期を希望される方が増えています。
- 訪問診療と介護サービスの利用で実現も可能になってきています。
- 実現には、意志・最低限のお金・在宅療養診療所・夜間対応が可能な介護サービスが必要です。