こんにちは。認知症専門医であり、FPとして税制と社会保障を日々研究している長谷川嘉哉です。
今日は、日本の税制に潜む「誰もが気づかないけれど、実は極めて重大な矛盾」についてお話しします。
それは──
年間1億円の配当所得があっても、制度上は住民税非課税世帯になり得る、という事実です。
一見、冗談のように思えるかもしれません。しかし、現行の制度の組み合わせを検証すると、残念ながら本当に起こり得る現象なのです。
目次
1.そもそも「住民税非課税世帯」とは何か?
住民税非課税世帯とは、
- 住民税の所得割がゼロ
- かつ均等割も非課税
という条件を満たす世帯のことです。
そしてこの“住民税非課税”というステータスは、医療費、介護費、国民健康保険料、保育料、給付金など、日本のあらゆる社会保障の優遇の基準として広く利用されています。
つまり、住民税非課税=社会保障の最優遇層という構造です。
2. 配当が1億円あっても「課税所得はゼロ」にできる仕組み
では、本題に入りましょう。
なぜ1億円もの配当を手にしていながら非課税世帯になり得るのか?
理由はシンプルです。
① 上場株式の配当は「申告不要制度」を使えば課税所得に入らない
上場株式の配当は、証券会社で源泉徴収(20.315%)されるため、税務上は 申告しなくても良い(申告不要) という制度があります。
申告不要を選択すると、
- その配当は総所得に入らない
- つまり住民税の計算上「所得ゼロ」とみなされる
となります。
たとえ1億円の配当があっても、です。
② 各種控除を組み合わせれば所得ゼロは容易
配当を申告しない場合、所得が給与や年金だけであれば、基礎控除や社会保険料控除で 簡単に課税所得はゼロ になります。
その結果、「配当収入は多いが、税制上は所得ゼロ」という“いびつな構造”が出来上がるのです。
3.社会保障の「逆転現象」が生まれている
現在の制度では、
- 年金だけで年200万円ある高齢者は住民税課税
- 1億円配当の富裕層は非課税世帯になり得る
という逆転現象が生じます。
これは、制度設計側が当初想定していなかった使われ方であり、もはや 税制と社会保障の整合性が崩壊している と言わざるを得ません。
4.この矛盾がもたらす問題
① 本当に支援が必要な人が支援に届きにくくなる
住民税非課税が“万能の優遇条件”として使われているため、意図しない富裕層まで優遇されてしまう可能性があります。
その結果、本来手厚く支援されるべき生活困窮者の負担が増したり、制度の持続可能性が揺らぎます。
② 社会保障財政に大きな影響を及ぼす
日本はすでに高齢化と財源不足で社会保障費が逼迫しています。
そこに「高所得者が非課税世帯」という状況が広がれば、財政はさらに圧迫されます。
5. 海外ではどうか?
欧米では、富裕層向けの株式配当の優遇は徐々に縮小されており、
- 所得の種類に関係なく「総所得」で判定
- 富裕層の社会保障優遇は制限
- 配当課税は引き上げ傾向
が一般的です。
日本のように「配当を申告しなければ所得ゼロ」という制度は非常に珍しく、世界的に見ても改革が迫られている領域といえます。
6.税制改革はどこへ向かうのか?
政府内でも、
- 申告不要制度の見直し
- 配当所得と社会保障の連動
- 資産規模を加味した新しい判定基準
などが議論され始めています。
特に「非課税世帯を資産規模で再定義する」動きは、避けられないでしょう。
住民税非課税の判定に 預貯金・金融資産を組み込むかどうか は、近い将来、必ず議論になるテーマです。
7.おわりに──制度の“穴”を責めるのではなく、冷静に見守る
今回のテーマは、「富裕層を批判する」ためのものではありません。
問題は、「制度そのものが時代に合わなくなっている」という点にあります。
配当1億円でも非課税という矛盾は、税制改革の方向性を考えるうえで非常に象徴的な事例です。
日本の税制はこれから確実に変わります。
その変化が国民にとって公平で、持続可能なものであることを願いながら、私たちは冷静にその動向を見守っていく必要があります。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。