毎日のように、テレビ、本、雑誌では健康情報があふれています。人気番組で放送された翌日には、必ず患者さんから番組内容について質問をされます。その影響力には驚かされます。
情報番組の中では、エビデンス(evidence:科学的根拠)という言葉をよく耳にします。私たちはエビデンスがあるとその情報をうのみにしがちです。
しかし、エビデンスがあるからといって、そこで思考を止めてしまうことは問題です。たとえ医師が言ったとしても、そのエビデンスが信頼に値するのか、そして、それが実生活に役立つものなのかを見極めることが重要です。
健康情報を日々ブログでご紹介している私も、自分の中で基準としている確固たるものがあります。この記事では、健康情報の何を疑い何を信じてよいかについてご紹介します。
「医者が言っても信じるな」の根拠を医者が語りますが、ぜひ信頼してご一読ください。
目次
1.エビデンスとは?
エビデンスとは日本語にすると「証拠」「根拠」という意味になります。医療で用いる場合には、実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」があることを指します。
「できるだけ健康に良いことをしたい」「効果のある治療や投薬を受けたい」という思いは、多くの人々に共通の願いだと思います。その願いに応えるために、多くの研究による検証が行なわれ、その結果に基づいて、多くの健康法や薬が開発され、病院で治療が行われています。
テレビや本、インターネットなどでは、健康・医療に関する数多くの情報を入手することができます。しかし、必ずしも全ての情報が、「正しい」「効果がある」と言い切れないのも事実です。
例えば、TV番組で紹介された健康法に十分な「エビデンス」がなかったり、「減量できる」「ガンに効く」といって売られていた商品に十分な「エビデンス」がなかったりということは、少なくありません。
2.エビデンスにもレベルがある
我々医師は、健康・医療情報に接した場合に、その出所を見ることでエビデンスの信ぴょう性を知ることができます。ここでは、信頼がおける順にご紹介します。結論的には、論文レベル以外は、エビデンスとは認められないのです。
2-1.論文
学術論文誌、専門誌に発表されたものは信頼がおけると思われるといいでしょう。
学術論文誌・専門誌には、寄せられた原稿がすべて掲載されるわけではなく、掲載される前に専門家(査読者)の評価を受ける過程が入ります。この過程を査読(さどく)といいます。査読では投稿された論文が、学術的に正しいか、その雑誌に達するレベルであるか審査されます。つまり、いい加減な内容ではリジェクト(却下)とされてしまうので、掲載されること自体が信用となるのです。
実はこの論文にもレベルがあります。母数が多く時間をかけたものがより正確とされます。ランダム比較化試験やコホート分析などという専門用語が並びます。一般の方はなかなかそこまでは研究の質を比較できないかと思います。学術論文誌、専門誌に発表されたものを基準にすることをおすすめします。
2-2.学会発表
よくマスコミで、「○○という実験結果が学会で発表された」という報道がされます。
実は、これには注意が必要です。学会では、よほどひどい内容でなければ、発表が許可されます。ですから学会発表レベルだけでは信用はできません。学会発表してからの論文投稿では、同じ研究をしているライバルに情報が洩れるため、学会発表前に論文に掲載されることが普通です。つまり、論文にならずに学会発表だけでは、エビデンスのレベルは低いのです。
2-3.マスコミ取材
マスコミは、大学などの研究機関に情報を求めて出入りしています。時に、雑談レベルの話が大きく新聞等に取り上げられることがあります。これなどは、論文発表や学会発表以前のものですから、全く信用できないレベルです。
3.注意すべき表現とは
健康情報の表現は重要です。
3-1.当たり前のことを誇大に言っている場合
正直、「○○すると体に良い」、「○○は頭に良い」というレベルであれば、仮にエビデンスの有無にかかわらず害は少ないものです。
例えば、「睡眠時間は大事です」「運動は長生きにつながります」「指先を使うと頭を刺激します」などは、ある意味当たり前のことであり、副作用も少なく心配ありません。そのため、多くの人に読まれる書籍や雑誌でよく使われる手法です。
ただし、やりすぎには注意が必要です。過去には、ココアが身体によいという情報を鵜呑みにし、「砂糖のたくさん含まれたココア」を飲みすぎて、糖尿病が悪化した患者さんが何人もいらっしゃいました。この場合のココアとは「純ココア」であり、飲料として売られているものではなかったのです。
3-2.食品や習慣が病気に効くと言っている場合
同じ健康情報でも、「○○が癌に効く」、「○○を飲むと糖尿病が良くなる」のレベルになると危険です。癌の治療が遅れることで、命の危険も出てきます。糖尿病も悪化すると合併症のリスクが高まります。まずは専門家である医師に相談したうえで検討してください。
3-3.「~と言われています」「~が指摘されています」「~との声があります」に注意
「責任転嫁の呪文」です。「誰かが言ってます、私が言ってるんじゃありません、根拠なんか知りません、言ってる人に聞いてください」と同義です。
このフレーズとともに、根拠資料を提示してあれば良いのですが、単に自分が思いついた独自理論や、ごくごく一部の人が言っているだけ、ということもあります。
4.テレビコマーシャルに騙されない方法とは
テレビコマーシャルにも注意が必要です。
4-1.経験談の寄せ集めはエビデンスではない。
コマーシャルでは、経験談が語られます。実は、個人の経験談はエビデンスにはならないことを知っておいてください。だからこそ、小さな文字で「これは個人の感想です」と必ず表記されているのです。
4-2.効果があるとは言っていない
コマーシャルに多いパターンは、最初に元気な芸能人が紹介されます。次いで、医師が○○という病気についての一般論を話します。そして、最後に商品説明がされます。この3つの段階で、この商品が○○という病気に効くとは一言も言っていないのです(言ってしまうと薬事法に違反してしまいます)。
視聴者が勝手に、「この商品を飲むと、○○という病気が治って元気な芸能人になれる」と思ってしまうのです。一度、その視点でコマーシャルを見てみてください。
4-3.本当に効果がある治療なら保険が適応される
医療の現場では、原則は、本当に効果がある治療なら保険が適応されます。そのため、医師であれば絶対勧めない健康食品のコマーシャルが溢れています。保険適応されるには、莫大な実験結果・治験結果を経たうえで認可を受ける必要があります。そのためエビデンスは十分にあります。まずは、保険適応されている薬・治療が最も効果があることを知ってください。
5.テレビ番組の誇張に注意
これは、私自身がテレビの健康番組に出演した経験をご紹介します。出演した医師は8人程度。自分自身も、2時間ほどの取材を2回受けたうえで、90分の番組のために、8時間テレビ局に拘束されました。
5-1.マスコミは刺激を求める
マスコミは、取材において、普通の話では満足しません。とにかく面白く、少しオーバーぎみに語ることを要求してきます。
ちなみに、自分は「カレーは認知症に効果がある」という情報を紹介しました。カレーに使われるターメリックというスパイスには「クルクミン」という成分がたくさん含まれます。
イギリスの学術雑誌「Journal of Nutrition」で、クルクミンのかたまりが認知症の原因であるアミロイドβを取り除くという研究結果も発表されているからです。
そこで、「先生はどれくらいの頻度でカレーを食べますか?」と取材されました。そこで、「1回ぐらい」と答えると不満げです。思わず「2回かな?」と言い直してしまいました。改めてここで「週に2回はカレーは食べません」とお詫びして訂正させてもらいます。
5-2.断言
医学とは、割り切れないないものです。ある薬が効果があるケースも、ないケースもあります。しかし、マスコミは中途半端な発言を嫌がります。あくまで、断言してもらいたいのです。テレビで言い切っている医師を見たら、疑うか、言わされているかのどちらかだと思ってあげてください。
5-3.テレビ番組
テレビ番組で、被験者を数人集めて実験をしただけで、「〇〇は効果がある」というのは、まったく信用できないレベルです。NHKの番組「ためしてガッテン」で、「睡眠を改善することで血糖値が下がる」で多くの批判を受け、謝罪をしていたのが良い例です。
6.医師以外の立場で怪しいケースがある
誰が言っているかはとても重要です。
医師が言っていることが、全部正しいとは言いませんが、少なくとも間違ったことは言っていないものです。しかし、医師以外だととんでもない情報を発信している人達がいます。
例えば、最近のベストセラー本「薬に頼らず血圧を下げる方法」などは、執筆は薬剤師です。神経内科専門医として、多くの脳血管障害の患者さんを見てきた私としては、とても危険な題名です。薬剤師の立場でどこまで理解しているか疑問です。勘違いして高血圧を放置して、脳出血になる不幸な方が出ないことを祈ります。
7.まとめ
- 健康情報にはエビデンスが大事です。
- ただし、エビデンスにはレベルがあります。論文で発表された以外は、信頼性は劣ると考えてください。
- 健康情報であれば害も少ないですが、医療情報は命にかかわります。やはり医師に相談したうえで取り入れましょう。