2026年3月、医師・歯科医師国家試験の合格発表が行われました。結果は非常に象徴的です。
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医師国家試験:合格率 91.6%
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歯科医師国家試験:合格率 61.9%
この数字をどう見るか。私は率直に言って、歯科医師国家試験の現状は“異常”だと考えています。
目次
1.1000人以上が毎年不合格になる現実
今回の歯科医師国家試験は、
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受験者数:約2,837人
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合格者:約1,757人
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不合格者:約1,000人以上
つまり、受験しただけで3人に1人以上が落ちる構造です。さらに重要なのは、この数字は「氷山の一角」にすぎないことです。歯学部では多くの大学で、国家試験前に「卒業試験」があり、「成績不良者は国家試験すら受験できない」という現実があります。実際、過去データでは出願者のうち数百人単位が“未受験”になる年もある
つまり、「受験して1000人落ちる」+「受験すらできない層」
これが歯学教育の実態です。
2.医師との決定的な違い
医師国家試験はどうでしょうか。合格率は毎年90%前後で安定しています。 これは偶然ではありません。医学部教育は、
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卒業=国家試験合格レベル
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国家試験は最終確認
という設計になっています。
一方、歯学部は違います。
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入学難易度のばらつき
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教育水準の格差
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卒業試験での「ふるい落とし」
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国家試験での再度の選別
つまり、「大学 → 卒業試験 → 国家試験」と三重構造で淘汰されているのです。
3.問題は「難易度」ではなく「構造」
歯科医師国家試験の合格率は長年60〜70%で推移しています。 この数字を見て、「難しい試験だ」と片付けるのは簡単です。しかし本質はそこではありません。本当の問題は、制度として一定数を落とす設計になっていることです。
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合格率が毎年ほぼ同じ
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大きなブレがない
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需要ではなく“比率”で調整されている
これは明らかに「人数制御型試験」の特徴です。
4.歯学部という“潰しの効かない学部”
ここで最も深刻なのは、歯学部という学部の特性です。
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医学部 → 医師以外にも研究・企業などの道
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薬学部 → 製薬・企業・研究
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看護 → 医療・介護・行政
一方で歯学部は、ほぼ「歯科医になること」一本の教育です。その結果、国家試験に落ちるとどうなるか。
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就職先が極めて限られる
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年齢的に再挑戦の猶予が少ない
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学び直しの選択肢が乏しい
つまり、社会的に“宙に浮く人材”が大量に生まれる構造です。
5.誰の責任なのか
この問題は、個人の努力不足では説明できません。なぜなら、
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入学時点で定員割れの大学も存在
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教育水準に大きな格差
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卒業試験での過度な足切り
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国家試験での追加選別
これらはすべて、制度設計の問題だからです。
さらに言えば、
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国は歯科医師数をコントロールしたい
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大学は定員を維持したい
この利害の狭間で、学生だけがリスクを背負っている構図です。
6.将来、歯科医不足は必ず来る
現在は「歯科医過剰」と言われています。しかし私は、この構造が続けば逆転すると考えています。理由は明確です。
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合格者は毎年約1,700人前後
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高齢歯科医の引退増加
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地方偏在の進行
そして何より、供給を絞りすぎているからです。人材は一度失えば戻りません。現在落とされている人材の中にも、
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優秀な臨床家になった可能性
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地域医療を支えた可能性
があったはずです。
7.「質の担保」と「過剰な排除」は違う
もちろん、医療職において質の担保は極めて重要です。
しかし、
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必要以上に落とす
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進路を閉ざす
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再挑戦を困難にする
これは「質の担保」ではなく、単なる排除です。
本来あるべき姿は、
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教育段階での底上げ
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国家試験は最低基準の確認
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不合格者への再教育ルート整備
ではないでしょうか。
まとめ:最も無駄にされているのは「人材」
歯科医師国家試験の問題は、
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合格率の低さではない
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試験の難しさでもない
本質は、「人材を活かせていない社会構造」です。毎年1000人以上が落ち、さらに受験すらできない層がいる。その一方で、将来の医療人材不足が議論されている。これは明らかに矛盾です。歯学教育と国家試験は、今こそ抜本的に見直されるべき時期に来ています。「質を守るために落とす」のか、「質を高めるために育てる」のか。
その選択が、日本の歯科医療の未来を左右します。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。