先日、矯正歯科専門の先生とお話しする機会がありました。その中で、「歯並びが良ければ、歯を失うことはない」というお話を聞きました。歯科の先生方にとっては、常識なのかもしれませんが、専門外のものからすると驚きでした。実際、東京歯科大学の行った調査では、「8020達成者の中に、上顎前突(出っ歯)、下顎前突(受け口、反対咬合)などの著しい不正咬合、あるいは重度の叢生(そうせい)の人はいなかった」というものもあるそうです。
私は認知症専門医として歯の重要性に気づき、クリニック内に歯科チェアを設置、歯科衛生士を雇用しました。そのおかげで、多くの優秀な歯科の先生方から、新しい情報が頂けています。今回の「歯を残すために歯並びが重要」という情報は、歯並びと認知症にまでつながるお話しです。
今回の記事では認知症専門医長谷川嘉哉が、認知症になりたくなければ歯並びを良くすべき理由をについてご紹介します。
目次
1.かみ合わせが悪いと認知症になりやすい
歯並びの悪さは、噛み合わせの悪さにつながります。歯科医師の資格も持つ認知症専門医の松本一先生は、以下のような研究結果を発表されました。
1992年8月から2018年7月までにクリニックを受診した人のうち、義歯やインプラントも含めて歯がかみ合う本数が上下で11本以上20本以下の50人と、10本以下の50人に分け、認知症の進行度合いを2年間追跡した。認知症の診断に広く使われる「長谷川式認知症スケール」で、この間の平均点数の推移を調べた結果、11本以上のグループは軽度にとどまったのに対し、10本以下のグループは重度にまでなった。(出典:東京新聞2019年9月10日の記事)
2.歯が残ることの認知症予防へのメリット
松本先生の研究は、歯が残ることにより、噛み合う効率が残置されることで認知症になりにくくなることの証明です。実際には、それ以外にも歯が残ることによるメリットはたくさんあります。
2-1.一噛みで3.5㎖の血流貢献
人間は、一回噛むだけで脳へ3.5㎖の血流が送られるとされています。歯がなければそもそも噛むことができません。そうなると、噛むことによる脳への血流が減少してしまうのです。
ちなみに、神奈川歯科大が2012年に発表した研究結果では、「愛知県に住む4425人の高齢者を4年間追跡し、歯がほとんどなくても義歯を入れることで噛むことができると、認知症になるリスクを4割抑制できること」が明らかになっています。
2-2.必要なものが食べられる
認知症を予防し、健康長寿を全うするには、タンパク質の摂取が必須です。しかし、歯がないと食べやすい炭水化物に偏り、タンパク質の摂取が減ってしまいます。つまり、必要なものでなく、食べられるものを食べるようになってしまうのです
2-3.転倒予防
歯が抜けたり、義歯を使わないと、咬み合わせが喪失されます。結果、頭部のバランスが不安定になり、身体の重心が不安定になり転倒しやすくなります。実際、歯を1 本失うごとに骨折のリスクが1.06倍高くなることも明らかになっています。
3.歯並びが良ければ口呼吸にならない
歯並びが悪く、咬み合わせが悪いと、唇を閉じることが困難で、口が開いてしまい口呼吸になりやすくなります。口呼吸では前頭葉の活動が休まらず、慢性的な疲労状態に陥りやすくなることが明らかになっています。前頭葉の慢性的な疲労状態によりその機能が低下すると、認知症の原因につながります。
通常、認知症における脳の機能低下は、前頭葉機能の低下から始まり、側頭葉機能の低下につながります。認知症患者さんは462万人、そしてその前段階の前頭葉機能低下は400万人にみられます。つまり、口呼吸が慢性化すると前頭葉機能の低下を介して、認知症の発症につながるといえるのです。
4.歯並びが良ければ歯周病にならない
歯並びが悪い場合は、デコボコの部分の歯磨きが難しいため、歯を磨いていても汚れが取りきれないことが多くなります。取り残した汚れの中の細菌が、虫歯や歯周病を引き起こす原因になります。そんな歯周病を引き起こす歯周病菌の毒素がアルツハイマー型認知症の原因とされる脳の「ゴミ」を増やし、認知症の症状が悪化することが実験で証明されました。
つまり、歯並びがよくて歯周病が予防されれば、アルツハイマー型認知症の発症や進行の抑制につながるのです。
5.まとめ
- かみ合わせが悪いと認知症になりやすいという研究結果が出ました。
- かみ合わせが良ければ、歯も残るし、歯周病、口呼吸も改善します。
- 結果、噛み合わせを良くすることが認知症予防にまでつながるのです。