先日、敷地内の歯科医に受診された認知症患者さんのご家族から、質問を受けました。「歯科の先生から、残根歯を抜くことを勧められたのですが、迷っています」とのこと。さらに、「痛みも何も訴えないので様子見でいけないでしょうか?」と言われました。そこで、私は、「状況を考えると、今のうちに抜歯されることをお勧めします」と説明。ご家族も、納得されて抜歯されることになりました。
私は、毎週火曜日の朝7時30分から、敷地内で開業いただいているリーフ総合歯科の藤本理事長と情報交換させていただいてます。その中で認知症患者さんの残根問題については、考え方を統一してます。そのおかげで今回のように患者さんに、迷うことなくアドバイスができたのです。今回の記事では、医科歯科連歴を実践している認知症専門医の長谷川嘉哉が、認知症患者さんの残根対策についてご紹介します。
目次
1.残根とは?
残根(ざんこん)とは、虫歯の治療をしないまま放置したり、欠けたりして歯の頭部分がなくなったり、根だけになった状態を言います。本人も患者さんも痛くもないので放置していることが多いようです。
高齢者の場合、唾液の分泌量が落ちて、口腔内が酸性に傾き虫歯ができやすい環境になっています。その上歯茎が退縮して、歯の根元が露出して虫歯になりやすくなり、結果として歯が折れたりして頭部分がなくなり残根となりやすいのです。
2.通常の残根対策とは?
患者さんに認知症もなく、体力もある場合は、虫歯の進行を抑えるため根っこの治療を行い根面にキャップを被せることもあるようです。残根の表面に蓋を作り、この上に入れ歯を装着することもあるようです。また残根に一定の長さがある程度残っていれば、 差し歯を立てて修復することもあります。しかし、高齢者や認知症患者さんの場合は、残根のまま放置されることが多いようです。
3.認知症患者さんの場合
当院のように高齢者が中心で、認知症患者さんが多い場合は以下の問題が出てきます。
3-1.歯ブラシができない
認知症の患者さんは、歯みがきを嫌がる方がとても多いです。歯みがきをしてくれても、みがき残しがとても多いのです。といって介護者が歯をみがこうとすると、強く拒否をする方も多いので、十分な歯ブラシはほぼ不可能なケースが多いのです。
3-2.虫歯の原因
歯みがきすら十分にできないうえに、介護者も、「根っこだけなら、それほどみがかなくても大丈夫」と勘違いされている方も多いようです。ところが残根こそ食べかすが付きやすく、みがくのも難しいため、虫歯の原因となりやすいのです。
3-3.歯周病から命に関与
以上のような状態を放置すると、残根が細菌増殖の温床となり、誤嚥性肺炎のリスクになります。さらに、虫歯だけでなく歯周病菌も増殖してしまいます。歯周病菌は、心筋梗塞、脳血管障害、糖尿病、癌といった命にかかわるすべての疾患の悪化要因となります。たかが残根と言っても、寿命にまで関わるのです。
4.患者さんの状況によっては、積極的な抜歯
したがって、以下の状態によっては、一歳でも全身状態が良い状態での抜歯を勧めています。
4-1.認知症の状態
認知症の場合は、短期間では進行が抑制されますが長期で見れば進行してしまいます。進行してしまえば残根の状態はさらに悪化し、抜歯自体も困難な状況になってしまいます。一日でも早い抜歯がお薦めです。
4-2.嚥下障害の状態
脳血管障害やパーキンソン病の患者さんに嚥下障害が認められます。脳血管障害やパーキンソン病の患者さんの場合、運動機能障害も認めるためみがき残しも多くなります。やはり一日でも早い抜歯がお薦めです。なお、脳梗塞の既往のある患者さんは、抗血小板療法もしくは抗凝固療法を行っています。その場合、薬を中止せずに抜歯をお願いしています。
4-3.日常生活動作(ADL)の状態
認知症、脳血管障害、パーキンソン病といった病変がなくても、加齢変化でADLが低下している場合は、一日でも早い抜歯がお薦めです。ADLが低下してしまえば、歯科受診すらできなくなってしまいます。
5.医科歯科連携でストーリ性のある治療を
もちろんすべての残根を抜歯する必要があるわけではありません。しかし、患者さんにとって今後の経過を前もって知ることによって、早めに対抗することが大事です。
まさに、医科歯科連携によるストーリー性のある治療と言えます。ブレイングループとリーフ総合歯科さんの間では、「今後、認知症の悪化やADLの低下が予想されるので残根の処置をお願いします」や「残根を抜きたいが、全身状態はいかがでしょうか?」といったやり取りがされています。
6.まとめ
- 高齢になると、虫歯が原因で、残根になりやすくなります。
- 残根を放置すると歯周病もあっかして、生命的リスクを高めることにつながります。
- 患者さんの状態によっては、少しでも早く抜歯することをお勧めします。