【お薦め本の紹介】―茂木健一郎『なごみの道 日本人はなぜ幸せなのか』

【お薦め本の紹介】―茂木健一郎『なごみの道 日本人はなぜ幸せなのか』

茂木健一郎さんの『なごみの道 日本人はなぜ幸せなのか』を読みました。本書で語られる「なごみ」とは、単に争わない、波風を立てないという意味ではありません。自分と他人、仕事と遊び、成功と失敗、自然と人間など、異なるものを排除せず、うまく共存させていく生き方です。本書では、その「なごみ」を、日本人が長く育んできた人生哲学として捉えています。私はこの本を読みながら、「幸せとは、何か一つを手に入れることではないのだ」と改めて感じました。

目次

第1章 幸せに「銀の弾丸」はない

現代は、とても分かりやすい答えを求める時代です。健康になるにはこの食品、成功するにはこの方法、資産を増やすにはこの投資――。何か一つで人生を変えてくれる「魔法の答え」を探しがちです。しかし本書では、人生の課題を一発で解決する「銀の弾丸」は存在しないと説きます。むしろ、周囲との人間関係、仕事、生活習慣など、いくつもの要素の「合わせ技」で人は幸せに近づいていくのです。

この考えには非常に共感しました。健康も同じです。サプリメントだけ飲めばよいわけでも、運動だけしていればよいわけでもありません。食事、運動、睡眠、人との交流、仕事、生きがい――それぞれがほどよく調和して初めて健康は成り立ちます。

本書では、森林浴をしながら歩くことを「合わせ技」の例として紹介しています。健康も人生も、一点突破ではなく「面」で支える。これは年齢を重ねるほど大切になる考え方ではないでしょうか。

第2章 不完全な自分を受け入れる

私たちはつい他人と自分を比べます。もっと仕事ができたら、もっとお金があったら、もっと若かったら、もっと健康だったら――。しかし、人生の条件がすべて完璧にそろっている人など存在しません。本書では、幸せになる第一歩として「自己を受け入れること」を挙げています。そして、不完全な自分を受け入れることができれば、心は大きく乱されにくくなると説きます。

私はここに、日本の「金継ぎ」に通じる考え方を感じました。割れた器を捨てるのではなく、割れた部分を金でつなぎ、その傷を新たな個性として生かす。つまり、欠点を消すのではなく、欠点を含めて価値に変えていくのです。

人間も同じではないでしょうか。失敗した経験、年齢による衰え、思い通りにならなかった人生。それらを「なかったこと」にしようとするから苦しくなる。傷も失敗も含めて自分の人生だと受け入れる。その先に、本当の意味での「なごみ」があるように思います。

第3章 歳を取っても、学び続ける人は若い

本書で特に印象に残ったのが、生涯学習についての部分です。「人生は長く、学び、成長する能力は一生続く」。そして、経験を積んだ年齢ならではの知恵と、若者のような新しい好奇心、その両方が必要だと説いています。

私はこの考えがとても好きです。年齢を重ねると、どうしても「もう知っている」「今さら勉強しても仕方がない」と考えがちです。しかし、脳は生きている限り学び続けます。本書では、学ぶことを「人間の脳が呼吸する空気」のようなものと表現しています。


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さらに日本には「常若」という考えがあります。若さとは、若い外見を保つことではありません。変化を拒まず、新しいものを受け入れながら、自分自身も更新し続けることです。本を読む。映画を見る。知らない場所へ行く。若い人の話を聞く。新しい技術に触れる。そんな小さな好奇心を持ち続けることが、人生を若々しくしてくれるのだと思います。

終わりに

私たちは「もっと成功したい」「もっと豊かになりたい」「もっと健康でいたい」と、つい何かを足すことばかり考えます。しかし本書を読んでいると、幸せとは何かを増やし続けることではなく、今あるもの同士のバランスを整えることなのだと気づかされます。

仕事だけでもない。家族だけでもない。健康だけでも、お金だけでもない。挑戦も必要ですが、休むことも必要です。成功する日もあれば、失敗する日もある。そのすべてを含めて人生なのだと思います。

本書には、「運動と休息、仕事と遊び、挑戦と挫折、成功と失敗」といった異なるものを響き合わせることの大切さが説かれています。年齢を重ねるほど、「何を手に入れるか」以上に「どう穏やかに生きるか」が大切になってきます。人と比べすぎない。自分の不完全さを許す。周囲との関係を大切にする。そして、いくつになっても新しいことを学ぶ。そんな生き方こそが「なごみの道」なのでしょう。

競争や効率、自己主張が求められる現代だからこそ、茂木健一郎さんが提示する「なごみ」という日本的な知恵には大きな価値があります。人生は勝ち負けだけではありません。自分も周囲も心地よくいられる場所を見つけること。そこに、本当の幸せがあるのかもしれません。

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