この度、私は新著「認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい! (かんき出版)」を上梓させていただきます。(2018/11/8発売 1180円+税)
発売日は「いい歯の日=11月8日」、値段もイイハ(1180円)となりました。
なぜ認知症の専門医が、歯の本を出版するか疑問をお持ちかも知れません。今回の企画は編集長さんからの依頼でした。「多くの歯医者さんが、歯と身体の重要性を語られますが、いずれも実体験が希薄だと感じます。認知症専門医のお立場から、先生こそ書いてもらえませんか」とのことだったのです。
私は2000年4月に開業以来、訪問診療では歯科医や歯科衛生士さんと連携してきました。2018年からは、外来の一室に歯科治療用のチェアーを500万円かけて設置。さらに、歯科衛生士さんを雇用しました。それも実体験から歯の重要性を感じたことですし、チェアーを設置後はさらに多くの気づきを得ることができました。
本書は、認知症専門医である長谷川嘉哉が、臨床の現場で経験した「歯を守ることが、脳を守ることにつながること」と、長年の脳科学の研究が蓄積してきたエビデンスを組み合わせ、お伝えするものです。今回はこの本の内容を一部ご紹介させていただきます。是非、本を手に取っていただけると幸いです。
目次
1.脳と歯には壮大なドラマがあった
記憶力が落ちた。もの覚えが悪くなった。人の名前が出てこない。「なんだか最近、脳が衰えてきた気がする……」
そんな状況に歯止めをかけて、改善する方法があります。それが「歯を守ること」です。
「脳」と「歯」は、とても強く結びついています。私たちは、生まれてから死ぬまで、口から栄養を摂取し続けます。極端な話、手足がなくても生きてはいけますが、口がなければ生きていけません。つまり、「生きる」とは「食べる」こと。
「脳」は「生きる」ためにもっとも必要な、「食べる」機能を最重要視して、口を含む「歯」の領域を、特別に大きく設計しました。だから、「歯」を使って噛むだけで、脳の広い範囲が活性化するのです! けれど、歳をとり、歯が抜けて噛めなくなると、脳への刺激が減っていきます。その結果、脳が老化していきます。
しかし──しっかりと歯をケアし、噛み続けるための歯を温存すれば、いつまでも脳を刺激し続け、脳の血流を増やし、脳を活性化することができます。噛み続けることができれば、いくつになっても、脳は生き生きとよみがえるのです。
2.認知症専門医が気づいた、歯のケアで脳が元気になる理由
認知症専門医として、「歯を守ることが脳の老化を止める理由」をご紹介します。
2-1.脳血流
歯でものを噛むと、ひと噛みごとに脳に大量の血液が送り込まれます。その量は、ひと噛みで3.5㎖。よく噛む人の脳にはひっきりなしに血液が送り込まれて、その間、常に刺激を受け続けていることになります。つまり、噛めば噛むほど刺激で脳が活性化されて元気になり、どんどん若返るのです。
2-2.脳の刺激
表面積は指と同じく10 分の1以下しかない口が、脳の中では、運動野と感覚野のそれぞれ3分の1を占めています。口とつながっている顔まで含めると、なんと半分近くを占めているのです。これはつまり、歯のケアなどで口を刺激すると、大脳の広い範囲に影響が及ぼされることを意味しています。
2-3.歯周病
口腔状態の悪化がもたらす病気と言えば、代表的なのが「歯周病」です。大人が歯を失う原因の第1位は、むし歯ではなく、歯周病です。歯を失えば、脳に送られる脳血流が減り、刺激が減って、認知症を引き起こす原因になります。つまり、脳の老化が加速するのです。
3.口内細菌がもたらすさまざまな病気とは
口内細菌は口の中だけでなく、全身に影響を及ぼします。
3-1.アルツハイマー型認知症
歯周病菌はアルツハイマー型認知症の原因となることがわかっています。歯周病を引き起こす歯周病菌が、脳の中で認知症の原因物質アミロイドβの蓄積に関わっているのです。
3-2.糖尿病
歯周病菌が出す毒素の影響でつくられる炎症物質「サイトカイン」が血管を通じて全身に放出されると、インスリンが効きにくくなって、糖尿病が発症・進行しやすくなるのです。歯周病患者は2倍、糖尿病になりやすいと言われています。
3-3.脳梗塞などの脳血管疾患
歯周病の人は、そうでない人と比べて、2.8倍も脳梗塞になりやすいのです。歯周病を放置すると、それがきっかけとなって、要介護状態に陥る可能性もあるわけです
3-4.心筋梗塞
心筋梗塞の主な原因は、心臓をとりまく冠動脈が動脈硬化を起こすことです。動脈硬化を起こす一因は、脳血管疾患の場合と同じで、歯周病菌の影響でつくられる炎症物質が心臓に流れ込むことにあります。その結果、冠動脈が傷んでボロボロになるのです。歯周病患者は、心血管疾患の発症リスクが1.15~1.24倍も高まると言われています。
3-5 誤嚥性肺炎
誤嚥の多くは、飲み込む力の低下によって起こります。特に高齢者は、睡眠時など、知らないうちに唾液を誤飲していることが多く、その際に歯周病菌などの口内細菌が多いと、肺炎を起こしやすくなるのです。実際に誤嚥性肺炎を起こした人から歯周病菌が多く見つかっているケースが多いため、今では歯周病菌が誤嚥性肺炎の重大な原因の一つと考えられています
3-6.口臭
歯周病を発症している人は、その口から腐敗臭がします。これは「メチルメルカプタン」という原因物質が放つニオイです。口の中から、生臭いような、魚や野菜が腐ったようなニオイがしていたら、歯周病を発症している可能性があります。このメチルメルカプタンは、卵の腐ったようなにおいとされる硫化水素よりも、さらに臭気が強烈で、環境省が定めている「大気汚染防止法」「悪臭防止法」でも規制されているほどです。
4.脳の老化を防ぐ歯のケア方法
本の中から一部を、ご紹介します。
4-1.舌ポジションをチェックしよう
「舌の置き場所」には、正しい位置があります。この置き場所が間違っているだけで、歯周病菌やむし歯菌が増えやすくなるのです。その結果、脳の老化が加速する可能性があります。
4-2.「舌まわし」で常に口内を洗浄する!
本の中で紹介している「舌まわし」を行うと、顔のまわりにある耳下腺、顎下腺、舌下腺などの「唾液腺」が刺激されて、大量の唾液が分泌されます。唾液はすばらしく強力な浄化液。唾液がしっかり分泌されてさえいれば大きな口腔トラブルは起きないと言われているくらいの優れものです
4-3.「オイルプリング(ブクブクオイルうがい)」で脳を活性化
オイルプリングとは、インドの伝統医学・アーユルヴェーダの中の自然療法を起源とする「オイルで口をゆすぐ」健康法のことです。オイルプリングには、口の中の汚れや細菌を「引きはがす、引っ張り出す」効果があるとされています。歯科の先生には、医学的効果は疑問と言う方もいますが、私自身は病みつきになり1日2回は必ず行っています。
5.「認知症になりにくい」予防歯科の見分け方
近年、「治療」よりも、「予防」に力を入れる歯科医も増えています。きちんとメンテナンスをしてくれる歯科医を見つけるためのポイントを記しました。歯科医を探す際は、次の6つの項目を満たしているかチェックしてみてください。
歯科医の先生からは反論もあるかもしれませんが、私自身、歯科のコンサルティングをしている経験から信ぴょう性は高いと思っています。反論する前に、自身のクリニックの改善に結びつけてもらいたいものです。
- ホームページが充実している
- 歯科衛生士がいる
- 歯科用チェアユニットの数が多い
- 医療法人である
- マスクを取って説明してくれる
- 保険外診療のメリットを説明してくれる
6.心地よい歯みがきで、脳をみがき続けよう!
当クリニックでは、患者さんのご家族から、「認知症改善のために、何をすべきでしょうか」という質問をいただきます。その際に、私がいつもお伝えするのが、「患者さんご本人にとって心地よいか、否か」を判断基準とし、「患者さん自身が心地よいと感じることを積極的に行ってください」と伝えています。
6-1.認知症は「もの忘れ」ではなく、「やる気」の喪失から始まる
認知症患者さんの脳を調べると、記憶を司る「海馬 」より、感情を司る「扁桃核」が先に萎縮することが知られています。そのため、認知症患者さんには、もの忘れといった記憶力の低下よりも、表情の喪失や意欲の低下といった初期症状が現れることのほうが多くなります。
6-2.ポイントは「本人にとって」の心地よさ
私の患者さんの中には、歯科メンテナンスの部屋に入るとき、緊張して難しい顔をしています。けれど、30~45分のメンテナンスを終えて部屋を出てくると、皆さん、一様に晴れ晴れとした表情をしているから驚きです。歯のケアによる心地よさで、表情の乏しかった患者さんに笑顔が戻り、他人に声をかけるという社会性まで戻ったのです。
6-3.なぜボケない人は、90歳でも肉を食べるのか
なぜボケない人は、90歳でも肉を食べるのか、なぜ彼らがこの歳になってもボケずに元気でいられるかと言えば、やはり歯が丈夫だからこそ得られる「心地よさ」を、ずっと味わってこられたからです。好きなものであればたくさん食べるので、自然と咀嚼回数も多くなります。噛む回数が増えると消化液の分泌が促進されますから、胃や腸での消化が楽になって、油っこい食事も平気になります。いつも楽に消化ができれば、心地よい「満腹感」を得ることができます。
7.まとめ
- 私の新著「認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい! 」は、実際の患者さんの体験に基づいたお話です。
- 歯のケアが、脳血流を増やし、脳の広範な刺激をし、歯周病菌にアミロイドβの生成を抑制することで認知症を予防します。
- 歯を守るには、自分でケアすると同時に、歯科医への定期受診が必要です。
- 本書ではさらに多くの役に立つ情報を記述しております。ぜひお手に取っていただければ幸いです。