糖尿病患者さんは、1000万人ともいわれ、予備軍を含めると2000万人とさえ言われています。そのため、多くの治療薬も開発されています。
そんな薬の一つに、トルリシティという「GLP1製剤」があります。GLP1(=グルカゴン様ペプチド-1)は、食事をすると小腸から分泌され、インスリンの分泌を刺激する働きがあります。
トルリシティは週に1回皮下に自己注射を行います。継続的にインスリンの分泌させる薬と違い、血糖値が高い時にのみインスリンを分泌させます。そのため、副作用としての低血糖発作が起こりにくい特徴があります。とても効果的で、わたくしの85歳の父親もこの薬のおかげで糖尿病のコントロールが良好になっています。
しかし、ネット上では、「頑張らないGLP1ダイエット」、「最新のGLP1ダイエット」、「ダイエットやせ薬」などと紹介しているサイトが見られます。確かに、トルリシティをはじめとするGLP1製剤には、食欲を抑える効果があり、一部のGLP1製剤は海外で肥満症の治療薬としても承認されています。しかし、日本では肥満症の適応はありません。あくまでも、トルリシティは2型糖尿病の治療薬で、その効果は、「体重を減らすこと」ではなく「血糖のコントロール」です。
ダイエット目的でのGLP1製剤の使用は、健康保険を使わない自由診療です。だからといって、健康な人に医薬品を使うことは危険です。世の中の薬で副作用のない薬はありません。特に効果がある薬は、その効果と同じだけの副作用の可能性があります。少なくとも効果があって、副作用が全くない薬はあり得ません。トルリシティは確かに糖尿病治療においてはとても効果的です。だからこそ、専門医が患者さんの状態を十分把握して、使う必要があります。そんな薬を、ダイエットに使うとはあり得ません。健康被害が出た場合に、誰が責任を取ってくれるのでしょうか?
何よりも、何もしないで注射だけでダイエットができるとは、無理があります。多くの人が、甘い言葉に誘われて、リスクのある治療を行わないことを希望します。