単に太っているだけでなく、それが命に関わり医学的な減量が必要な場合があります。そんな時に、ただ「食事量を減らしてください」、「運動をしてください」では結果は出ませんし、結果がでてもリバウンドをしては意味がありません。そんな人たちに対しての新薬が約30年ぶりに登場します。臨床試験では体重を1割以上減らす効果も認められています。製造販売が2023年3月に承認された肥満症の治療薬「ウゴービ」(ノボノルディスクファーマ社)については、厚生労働省は11月15日、公的医療保険の適用対象になり22日から適用されます。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が肥満症と肥満に対する新薬についてご紹介します。
目次
1.肥満と肥満症は違う
これらの治療薬を知るには肥満と肥満症の違いを知る必要があります。言葉の定義が必要になります。
1-1.肥満
肥満とは、身体に脂肪が蓄積して、体重が増加した状態。つまり太った状態です。体格指数(BMI=体重[㎏]/身長[m]2)が25以上の場合が肥満に分類されます。さらにBMIが35以上になると高度肥満に区分されます。
1-2.肥満症
肥満症は、肥満によって健康状態に悪影響がでており、以下の合併症を認め、医学的に減量を必要とする状態をいいます。
- 耐糖能障害(2型糖尿病や耐糖能異常など)
- 脂質異常症(血中コレステロールや中性脂肪の異常)
- 高血圧
- 高尿酸血症・痛風
- 冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症
- 脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作
- 非アルコール性脂肪性肝疾患
- 月経異常・不妊
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
- 運動器疾患:変形性関節症(膝関節症や股関節症など)・変形性脊椎症
- 肥満関連腎臓病
2.肥満症への治療薬・・ウゴービ(一般名セマグルチド)
肥満症では健康に害が出ているわけですから、治療が必要になります。2023年3月に肥満症に対する治療薬として、ノボノルディスクファーマのウゴービ(一般名セマグルチド)が国内で製造販売を承認されました。
2-1.作用機序
ウゴービはもともと糖尿病の治療薬です。「GLP-1」というホルモンと似た構造で、GLP-1受容体に作用するため分解されにくく長時間血中で作用します。脳の視床下部などの受容体に結合することで、食欲減退や満腹感亢進、胃内容物の排泄抑制により体重を減らします。
2-2.対象
高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合が対象となります。
・BMIが27以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
・BMIが35以上
2-3.投与方法
注射薬で、週に1回皮下注射。通常、成人には、0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射する。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg及び2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射。なお、患者さんの状態に応じて適宜減量します。
公定価格の薬価は、量によって5段階が設定され、1回あたり1876円、3201円、5912円、7903円、1万740円となりました。
3.肥満への治療薬は薬局でも購入できる
肥満症への治療薬は医療機関に受診して週1回の皮下注が必要になります。一方で、肥満症でなく肥満に対する治療薬「アライ」(一般名オルリスタット)が、2023年2月に国の承認を得ました(大正製薬が発売の準備中)。医師の処方箋は不要で薬局で購入することができます。
3-1.作用機序
膵臓から出る脂肪を分解する酵素「リパーゼ」の働きを抑え、腸での脂肪吸収を抑えます。そのため吸収されない脂肪によって便がやわらかくなり、下着が汚れるなどの可能性があります。
3-2.対象
生活習慣病への取り組みを行って腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上の内臓脂肪および腹囲の減少を目的とします。生活習慣改善の取り組みを行なっていない方や、腹囲が基準未満の方は使用不可になります。
3-3.服薬方法
アライは要指導医薬品として発売される予定で、購入するには薬剤師から対面で説明を受ける必要があります。1日に3回、カプセルを服用します。
4.2種類の新薬の違いをまとめると
商品名 | ウゴービー | アライ |
一般名 | セマグルチド | オルリスタット |
メーカー | ノボノルディスクファーマ | 大正製薬 |
投与方法 | 注射 | 飲み薬(薬局で購入可能) |
対象 | 高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを併発した「肥満症」で食事・運動療法で改善しなかった人。さらにBMIが27以上で2つ以上の肥満に関する健康障害があるか、BMI35以上の人 | 男性85cm以上、女性90cm以上。健康障害を伴わない「肥満」の人 |
5.薬だけでは無理がある
以上新薬2種類を紹介しました。しかし、いずれにせよ食事・運動療法は必須です。生活自体を変えることなく薬だけに頼っても健康は手に入りません。また食事・運動療法で改善せず薬物治療を行うにしても、食事・運動療法は継続する必要があることを忘れてはいけません。好きなものを好きなだけ食べ、身体を動かさないことは、人間として許されることではないのです。
6.まとめ
- 肥満と肥満症は異なります。
- 今回、肥満・肥満症それぞれに対する新薬は発売されました。
- 薬を使用するしないに関わらず、食事・運動療法は継続する必要があります。