認知症で寝たきりでも身体障害者手帳はもらえない?

認知症で寝たきりでも身体障害者手帳はもらえない?

外来で認知症の患者さんを診ていると、ご家族からよく受ける質問があります。「先生、母は認知症で寝たきりになっています。身体障害者手帳はもらえますか?」

ご家族から見れば当然の疑問です。実際に動けず、食事も介助が必要で、会話も難しい。見た目には重い障害の状態です。しかし結論から言うと、認知症による寝たきりだけでは、原則として身体障害者手帳の対象にはなりません。この話をすると、「役所が認めてくれないのですか?」と聞かれることがあります。

違います。まず診断書を書くのは医師です。そして、何が身体障害に該当するかは法律で決められています。役所が勝手に判断しているわけではありません。今回は、「なぜ認知症による寝たきりでは身体障害者手帳が交付されないのか」、そして「どのような支援制度が利用できるのか」をわかりやすく解説したいと思います。

目次

第1章 身体障害者手帳は何のための制度なのか

身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に基づく制度です。対象となるのは、身体の機能が永続的に障害されている方です。

具体的には、

・視覚障害
・聴覚障害
・音声・言語機能障害
・肢体不自由
・内部障害(心臓・腎臓・呼吸器など)
・免疫機能障害

などが該当します。ここで重要なのは、「永続的な身体機能障害」であることです。

例えば脳梗塞で片麻痺が残った場合、脊髄損傷で歩行不能になった場合、ALS(筋萎縮性側索硬化症)のような進行性神経疾患の場合などは、身体機能そのものに障害があります。

一方で、リハビリや訓練によって改善する可能性がある状態は、原則として身体障害には該当しません。つまり身体障害者手帳は、「生活が大変だから交付される制度」ではなく、「身体機能そのものに恒久的な障害がある人を支援する制度」なのです。この考え方を理解すると、認知症による寝たきりがなぜ難しいのかが見えてきます。

第2章 なぜ認知症による寝たきりは身体障害にならないのか

認知症が進行すると、次第に活動量が低下します。歩くことが減り、外出しなくなり、やがてベッド上で過ごす時間が長くなります。その結果、筋力が落ち、関節が硬くなり、最終的には寝たきり状態になることがあります。

しかし、この状態は多くの場合、「身体そのものが壊れている」のではありません。

問題の中心は、

・判断力の低下
・意欲の低下
・理解力の低下
・実行機能障害

といった認知機能の障害です。つまり、「歩けない」のではなく、「歩こうとしない」「歩くことができない状況になっている」という側面が強いのです。法律上の考え方では、これは身体障害ではなく認知機能障害に分類されます。

例えば同じ寝たきりでも、脳梗塞で片麻痺があり立てない人と、認知症が進行して活動しなくなった人では、見た目は似ていても原因が全く違います。身体障害者手帳は「結果」ではなく「原因」を重視します。

そのため、「寝たきりだから身体障害」ではなく、「なぜ寝たきりなのか」が問われるのです。ここを理解していないと、ご家族は「これだけ重症なのに認定されない」と大きな失望を感じてしまいます。しかし制度上は、一貫した考え方に基づいて判断されているのです。


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第3章 認知症でも利用できる支援はある

身体障害者手帳の申請では、医師の診断書・意見書が極めて重要です。

医師は、

・原因疾患は何か
・どの部位に障害があるか
・その障害は永続的か

を医学的に判断して記載します。

もし診断書に、「加齢による筋力低下」「廃用症候群」「認知症による活動性低下」

と書かれれば、身体障害として認定される可能性は低くなります。

逆に、「脳梗塞後遺症による片麻痺」「脊髄損傷による歩行不能」「パーキンソン病による重度運動障害」などが明確であれば、認定される可能性があります。

つまり判断の出発点は医師の診断です。

だからこそ、「認知症だから手帳がもらえるか」ではなく、「身体障害に該当する病気や後遺症があるか」を主治医と相談することが大切です。また、身体障害者手帳が取得できなくても支援がなくなるわけではありません。

実際には、介護保険制度による訪問介護やデイサービス 福祉用具レンタル 住宅改修 精神障害者保健福祉手帳 自立支援医療など、多くの制度が利用できます。認知症の方を支える制度の中心は、むしろ介護保険です。身体障害者手帳にこだわるよりも、その方に合った制度を活用する方が現実的で大きな支援につながります。

おわりに

認知症で寝たきりになると、多くのご家族は「これだけ重症なのだから身体障害者手帳の対象になるはずだ」と考えます。しかし制度は、状態の重さだけではなく、その原因を重視しています。身体障害者手帳は、身体の器質的・永続的な障害を支援する制度です。

一方、認知症による寝たきりは、認知機能障害による活動性低下が中心であり、制度上は別の支援体系で支えられています。大切なのは、「どの手帳が取れるか」ではありません。その方の状態に応じて、どの制度を利用すれば安心して生活できるかを考えることです。介護保険、精神障害者保健福祉手帳、自立支援医療――。それぞれの制度には役割があります。

ご家族にはぜひ、「身体障害者手帳が取れなかったから終わり」ではなく、「利用できる支援は何か」という視点で考えていただきたいと思います。制度を正しく理解することが、本人と家族の安心につながる第一歩なのです。

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