橘玲さんと大橋弘祐さんの『難しいことはわかりませんが、1億円貯める方法を教えてください!』を読みました。
「普通の会社員が1億円を貯める」と聞くと、多くの人は、特別な才能、高収入、起業の成功、あるいは株式投資での大勝ちを想像するのではないでしょうか。しかし本書が示す道は、もっと地味で現実的です。基本となるのは、「収入を増やす」「大きな支出を減らす」「余ったお金を長期で運用する」という、極めて単純な原則です。
さらに本書では、会社員という立場だけに依存せず、自分の専門性を高め、副業やマイクロ法人を活用しながら、経済的な自由を手に入れる方法が紹介されています。
目次
第1章 1億円の本当の価値は「自由」にある
本書を読んで最も共感したのは、お金持ちになる目的は、派手な生活を送ることではないという点です。高級車に乗り、タワーマンションに住み、高級ブランド品を身につけることが、お金持ちの象徴だった時代もありました。しかし、現在の豊かな人たちは、必ずしもそのような生活を望んでいません。
本書では、経済的には豊かでありながら、世間の常識や見栄にとらわれず、自分の価値観を大切にする人たちの生き方が紹介されています。高級レストランへ行くより、気心の知れた人と近所のお店で食事をする。豪華な旅行をするより、家族と自然の中で過ごす。こうした選択を、自分の意思でできることこそ、本当の豊かさなのでしょう。
本書でも、資産を持つ最大のメリットは、好きなときに、好きな相手と、好きなことができる「経済的自由」だと語られています。1億円は、他人に見せるための数字ではありません。自分の人生を自分で決めるための土台なのです。
第2章 資産形成は「収入-支出+運用」で決まる
本書では、お金持ちになる方法を、非常にわかりやすい式で示しています。「資産形成=収入を上げる-支出を減らす+運用して増やす」この式には、資産形成の本質がすべて含まれています。
まず大切なのは、支出を減らすことです。ただし、毎日のコーヒーを我慢するような細かな節約より、住宅、保険、自動車といった大きな固定費を見直すほうが効果的です。特に保険については、保障と貯蓄を分けて考える必要があります。高い手数料のかかる貯蓄型保険に長期間お金を固定するより、必要な保障は掛け捨て保険で確保し、資産形成は低コストの金融商品で行うほうが合理的です。
そして、余ったお金は預金だけで持つのではなく、長期・積立・分散によって運用します。本書では、NISAを活用し、S&P500や全世界株式、いわゆるオルカンに連動する低コストのインデックスファンドへ機械的に積み立てる方法を勧めています。
どの会社の株価が上がるのかを予想する必要はありません。市場全体を購入し、世界経済の成長に長期間参加するのです。一度積立設定をすれば、日々の値動きを追いかける必要もありません。運用に時間を使うのではなく、本業や専門性を高め、収入を増やすことに時間を使う。この考え方は非常に合理的です。
本書の「資産運用でもっとも大切なのは、資産運用を考えないこと」という主張は、投資にのめり込みすぎる人にこそ伝えたい言葉です。
第3章 会社員のままではなく「自分の価値」を育てる
本書は、単なる投資の本ではありません。むしろ後半では、会社という組織だけに依存することの危険性が強く語られています。日本の会社員は、会社の中では多くの仕事ができても、会社を離れると自分の専門性を説明できないことがあります。「何の仕事をしていますか」と聞かれて、職種ではなく会社名を答える人が多いのも、その象徴でしょう。
これからの時代に重要なのは、勤務先ではなく「自分は何ができるのか」です。そのためには、会社を辞める必要はありません。まずは会社を利用して、給料を受け取りながら経験を積み、専門性を高めればよいのです。そして、自分が周囲から褒められること、頼まれること、苦労せずにできることを見つけます。それが自分の「強み」です。その強みを、競争の激しい場所ではなく、必要としている人がいる小さな市場にずらしていく。本書では、これをニッチ戦略として紹介しています。
最初から独立にすべてを賭ける必要はありません。本業を続けながら副業を始め、可能性を確認する。売上が増えてきた段階で、個人事業やマイクロ法人を活用する。このように複数の選択肢を残すことが、現実的な方法です。会社員は税金や社会保険料を自動的に徴収されるため、制度を工夫できる余地が限られています。一方で、個人事業や法人には、業務に必要な経費を計上するなど、合法的に使える仕組みがあります。
もちろん、法人をつくれば誰でも得をするわけではありません。売上や利益の規模によっては、法人の維持費のほうが大きくなることもあります。大切なのは、制度を知ったうえで、自分に合った形を選択することです。金融や税金の知識を持たないままでは、どれほど一生懸命働いても、資産形成のスピードは上がりません。
終わりに
本書が教えてくれる1億円への道は、一発逆転ではありません。NISAで低コストのインデックスファンドを積み立てる。住宅や保険などの大きな支出を見直す。自分の強みを磨き、副業や独立によって収入源を増やす。そして必要に応じて、個人事業や法人の仕組みを活用する。
この地道な積み重ねこそが、普通の人にとって最も再現性の高い方法なのです。本書の最後では、1億円を貯める方法が「資産運用」「マイクロ法人」「強みを生かしたニッチな仕事」の三つに整理されています。
ただし、1億円を貯めること自体を人生の目的にしてはいけません。お金は、人生の我慢を減らし、選択肢を増やすための道具です。本書で印象的だったのは、経済的自由を得て一番良かったことは、自分の中に眠っていた「まだ見ぬ自分」に出会えたことだ、という言葉です。
働く場所を選び、付き合う人を選び、時間の使い方を選ぶ。その自由を手に入れたとき、人は初めて、本当にやりたかったことに挑戦できるのかもしれません。1億円とは、ぜいたくをするための資産ではありません。自分らしく生きるための「自由を生み出す資産」なのです。


認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。