入所を考える際は、歯科検診と治療の体制ができている施設の選択を!

入所を考える際は、歯科検診と治療の体制ができている施設の選択を!

現在、土岐内科クリニックでは、16の介護入居施設の協力医になっています。医科の訪問診療は、どこも取り入れていますが、歯科の訪問診療の導入においては、施設によって差があります。定期的に歯科医と歯科衛生士さんが入居者全員のチェックをしている施設もありますが、歯科については家族任せという施設もあります。

2021年4月に介護報酬の改訂が行われました。この改訂において、国が介護における歯科の重要性を認識していることが理解できました。そのため、我々も入居施設を選択をする際には、歯科への取り組みが大切な要素の一つになるといえます。

「とにかくどこでも入所して欲しい」と思われるかもしれませんが、できれば「歯科検診と治療の体制ができている施設」をお勧めします。施設と歯科診療所との連携によって、患者さんの将来が左右されるのです。今回はその理由を、患者さんからの視点と、経営側の視点の両方で解説します。

1.施設で行う歯科治療とは?

ご家族によっては、「入所してから歯科治療が必要?」と疑問を持たれるかもしれません。しかし、歯の状態は、命に関わる全ての疾患(認知症、脳血管障害、虚血性心疾患、糖尿病、がん)に関与していることを知ってください。そのため入所後も、以下のような歯科医との連携が必要になります。

1-1.まずは歯科治療

入所が必要な患者さんの多くは、医療行為が主体となり、歯科治療がなおざりであった方が大部分です。そのため、歯周病が重度であったり、入れ歯があっていなかったり、抜けかけの歯があったりなど、言葉は悪いのですが「ゴミ屋敷状態」です。そのため、まずは最低限の治療行為を歯科の先生に行ってもらいます。

1-2.定期的なメンテナンス

治療が終了したら、これで終わりではありません。口腔内は、定期的なケアが必要です。この段階では、歯科医の先生の指導の下、歯科衛生士さんが活躍してくれます。入所後、口腔内の治療を行った後、その状態を長く維持することが、口から食事を摂り続けることにつながるのです。

1-3.介護者へのアドバイス

施設と歯科との連携は、患者さんに対してだけではありません。介護スタッフが行う、日常のケアに対しても有効です。歯磨きの方法、入れ歯の洗い方など介護士は、口腔内に対する知識や経験は乏しいものです。定期的、歯科との連携により、介護スタッフの口腔内への意識・対応も向上するのです。

2.患者さんにとって歯科連携が大事な理由

入所後の、施設の歯科連携が重要な理由としては、以下があげられます。

2-1.肺炎予防

誤嚥性肺炎で入院をしてしまうと、命をおとしたり、それを気に日常生活動作が低下してしまいます。そのため誤嚥性肺炎はできるだけ避けたいものです。入所される高齢の方は、普通に自分で食事をしていても、嚥下機能の衰えがあり、誰でも食べ物を誤嚥してしまうリスクがあります。そんな時にも、日ごろから口腔内の環境が清潔に保たれていれば、誤嚥性肺炎にまでいたる危険性を減らすことができるのです。

2-2.栄養状態の改善

健康長寿のために必要な食事は、タンパク質です。しかし、口腔内の状態が悪いと、よく噛んで食べることが多いタンパク質食材が取りにくくなります。代わりに、柔らかく食べやすい炭水化物に栄養が偏ってしまい、栄養状態が悪化してしまうのです。肉体にとって必要な栄養を取り続けるには、口腔内の状態を良好に保ち続ける必要があるのです。

2-3.摂食障害の改善

口の中は、面積だけで言えば身体全体の中でわずかです。しかし、口腔内を支配する脳の領域は、全体で1/3の領域を占めます。つまり、口腔内を刺激することは、広範に脳を刺激することにつながるのです。私の経験でも、加齢により食事に対する意欲がなくなった摂食障害の患者さんが、口腔ケアを行うことで食欲が改善したケースもあります。口腔ケアは、まさに命に直結しているのです。


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3.訪問歯科制度は経営者に取ってもメリットが大きい

高齢者に対する歯科治療の重要性については、厚生労働省も認識しており、2021年4月の改訂でも歯科との連携を後押ししています。

3-1.科学的介護推進体制加算

これは今回の改訂の目玉ともいえる加算です。介護事業所すべての入所者・利用者について、ADL(日常生活動作)値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況の基本情報を6か月に1回以上の頻度でデータを提出することで算定が可能になります。この中で、当たり前のように「口腔機能」が基本情報に入ってきているのです。

3-2.口腔衛生管理加算

施設系にサービスについては、「入所者の口腔の健康の保持を図り、自立した日常生活を営むことができるよう、口腔衛生の管理体制を整備し、各入所者の状態に応じた口腔衛生の管理を計画的におこなう」ことで、口腔衛生管理加算が算定可能になります。

Portrait of smiling female doctor kneeling by senior woman stroking puppy
歯科診療による加算は、経営に対するメリットをもたらし、環境を良化させることに繋がります

4.訪問歯科を導入しない施設を選択してはいけない

私が、協力医を務める施設の中には、歯科医との連携をお願いしても全く取り合ってくれない経営者もいます。個人的には、そのような施設への入所はお勧めではありません。経営者は以下のような考えを持っているようです。

4-1.医療費負担を気にする

入所においては、ご家族にはかなりの経済的負担をお願いしています。そこに、定期的に歯科診療を入れると、費用負担が発生します。それを、お願いすることに抵抗があるようです。しかし、費用負担以上のメリットがあることは間違いありません。

4-2.経営者が重要性を理解していない

施設の経営者の中には、医療・介護の全くの素人の方もいらっしゃいます。そのため、そもそも歯科の重要性・必要性を理解されていないのです。

4-3.家族任せ=何もしない

このような経営者は、「歯科の治療はご家族にお任せします」と言われます。しかし、現実に介護力が乏しいから入所を選択されたのです。そのようなご家族に、歯科受診をお願いすることは難しいものです。結果として、歯科に対しては放置され、患者さんがデメリットを被ることになるのです。

5.まとめ

  • 入所施設において、歯科との連携はとても重要です。
  • 定期的に歯科医による治療・衛生士によるケアを行うことで、健康寿命が延びます。
  • 歯科医と連携していない入所施設を選んではいけません。

 

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