先日、歯科衛生士さんと話をしていて、「新型コロナウイルスの影響で、口腔ケアのための高齢者施設の訪問が断られた」という話を聞きました。現在、多くの高齢者の入所施設では、業者、家族も含め施設内へ入ることを禁止しています。しかし、歯科衛生士さんの訪問を断ることは間違っています。
口腔ケアは、インフルエンザをはじめとする感染症の予防になることが明らかになっています。実は、新型コロナウイルスでも口腔ケアを行うことで「感染予防や重症化の軽減に効果がある可能性」が報告されています。
以下も参照になさって下さい。
今回はコロナウイルス感染予防のためにも、高齢者施設は口腔ケアを断らないでほしいことについて解説します。
目次
1.口腔ケアは、ナファモスタットと同じ効果?
新型コロナウイルスが細胞内に侵入するには、ある特定の糖たんぱくが必要になります。歯周病菌の一つであるジンジバリス菌が、その特定のタンパクを活性化するトリプシン様プロテアーゼを産生・分泌することが明らかとなっています。
令和2年3月18日に、東京大学が、「膵炎の治療に使用するナファモスタットの新型コロナウイルス感染を阻害する可能性」を発表しました。実は、ナファモスタットは、プロテアーゼを阻害する薬剤なのです。
つまり、口腔ケアによる歯周病対策は、新型コロナウイルス感染予防につながる可能性があるのです。
2.口腔ケアが栄養状態を改善?
新型コロナウイルスについては、治療薬も予防薬もないのが現状です。ならば、感染予防と重症化予防のために抵抗力をつけることが必要です。特に、ビタミンCについては、風邪やインフルエンザなどのウイルスによる呼吸器感染症に有効との報告が多くされています。今回、国際オーソモレキュラー医学会(ISOM)は「ビタミンCがコロナウイルス感染を防ぐ可能性」を全世界に発信しました。
実は、歯周病のジンジバリス菌がビタミンCを消費することが分かっています。ジンジバリス菌が多いほど、体内のビタミンCが少なかったという報告もされているのです。つまり、口腔ケアにより歯周病をコントロールすれば、ビタミンCの目減りを防ぐことで、呼吸器感染症の予防に繋がることも考えられます。
3.口腔ケアは他にも多くの効果がある、とは
紹介した口腔ケアによるプロテアーゼ阻害やビタミンCへの影響がどれほど新型コロナウイルスへの効果があるかの検証はこれからです。しかし、口腔ケアには以下に紹介する効果もあるのです。
3-1.唾液の分泌を刺激
口腔ケアを行うと、唾液の分泌が刺激されます。唾液中には、分泌型IgA抗体や、ラクトフェリン、リゾチームなど抗ウイルス作用を持ったたんぱく質が含まれており、感染予防の働きが期待されます
3-2.細菌性肺炎の予防
新型コロナウイルスでは、細菌感染の合併により重篤になっているケースが多く見られます。細菌感染の合併を防ぐためにも、口腔内の環境を改善しておくことはとても効果があるのです。
3-3.脳への刺激
高齢者の方は、新型コロナウイルスによる外出禁止や面会禁止などで生活パターンが崩れたり、刺激が少なくなっています。そうなると体調を崩したり認知症が進行することがあります。脳の1/3を占める広大なエリアは口腔内を支配しています。つまり、口腔内を刺激することが脳への刺激につながるのです。
4.施設から断れても、口腔ケアは継続!
施設によっては、歯科衛生士さんから「新型コロナウイルスのため口腔ケアは控えさせてもらいます」と言われた方がいらっしゃいました。これはとても残念です。今こそ、施設側から断られても、有効性をしっかり伝え、口腔ケアを継続する必要があるのです。
5.まとめ
- 新型コロナウイルスの影響で、歯科衛生士さんの高齢者施設への訪問が断られるケースがあります。
- 口腔ケアは、新型コロナウイルスの感染予防・重篤化防止の効果が期待されます。
- 施設側から断られても、有効性をしっかり伝え、口腔ケアを継続する必要があります。