よく噛むことには顎の発育、肥満防止、味覚の発達など良い効果がたくさんあります。最近では、認知症の予防・改善にまでつながることがわかっています。しかし、最近の食事では昔に比べ咀嚼回数が激減していることもわかっています。
そのような咀嚼回数を補う効果的な方法がガムを噛むことです。しかし、ガムならなんでもよいわけではありません。
今回の記事では月に1,000人の認知症患者さんを診察しながら、クリニック内に歯科用チェアーも導入し、医科歯科連携を積極的に進める長谷川嘉哉が噛むことのメリットと、咀嚼を補うためのお勧めガムをご紹介します。
目次
1.噛むと脳の血流が増える
歯は歯根膜というクッションのような器官にめりこんでおり、噛むと30ミクロン沈み込みます。その圧力で、歯根膜にある血管が圧縮され、ポンプのように血液を脳に送り込むのです。日本顎咬合学会によると、1回噛むごとに3.5mlの血液が脳に送り込まれるとされています。噛むことで脳への血管に圧力が加わり、血液が流入するのです。
つまり噛むたびにポンプ効果によって脳に血液がどんどん流入していくのです。その結果、反射神経・記憶力・判断力・集中力が高まる効果があると言われています。ガムを噛む前と後では、ガムを噛んだ後の方が記憶力が良くなるという研究結果もあります。また、「アルツハイマー型認知症を引き起こすと言われる、βアミロイドは、咀嚼回数が少ないほど多くなる」「老化防止の働きがあるホルモン“パロチン”は、よく噛むことで分泌が促進される」などから、よく噛むことは認知症予防にも効果があるのです。
2.激減する咀嚼回数
現在日本人の平均咀嚼回数は、一食あたり約600回と言われています。しかし、時代をさかのぼると、江戸時代は一食あたり約1000回、鎌倉時代は3000回、弥生時代に至っては4000回も咀嚼していたとされています。つまり、現代人は過去に例のないほど噛む回数が少ないのです。それはなぜかというと昔に比べて食べ物はずいぶん柔らかくなり、食べやすくなりました。そのせいで、噛む回数は大幅に減ってしまったのです。
3.噛むことの効果
噛むことは、認知症予防以外にも健康的効果があります。
3-1.がんや生活習慣病の予防
咀嚼により唾液の分泌が促進されます。発がん性物質が作り出す活性酸素を消す働きがある「ペルオキシダーゼ」が唾液中に含まれているため、咀嚼回数を増やし唾液をたくさん分泌させることで、がん予防の効果が得られます。がんだけでなく、心筋梗塞や脳卒中、動脈硬化、糖尿病、骨粗鬆症予防にも有効だと言われています。
3-2.免疫力アップ
噛むことで副交感神経を刺激します。白血球中のリンパ球をコントロールする役目のある副交感神経を優位にすることにより、リンパ球を増やし、免疫力を高めます。
3-3.アレルギー性の病気予防
未消化のまま腸管に届いた食べ物が抗原となり、アレルギーを発症することがあります。食べ物をしっかり噛み、唾液とよく混ぜて消化することで、抗体の反応を抑えることができます。また、よく噛むことで腸内の状態も良くなるため、食物アレルギーをはじめ、アトピー性皮膚炎、花粉症などの予防にも効果があると考えられています。
3-4.噛めば噛むほど美しく!「美容効果」
美しい女性に早食いの人はいないのでは?と思います。ダイエット・美容効果を得るためにも、しっかりとよく噛むことが大切です。
- よく噛むことで味覚が刺激されると、ノルアドレナリンが分泌されます。全身の細胞の働きが活発になり、熱エネルギーが出やすくなり、太りにくい体になります。
- よく噛むことで脳内ホルモン「ヒスタミン」の分泌が促され、満腹中枢を刺激。食事量を無理なく減らすことができます。また、交感神経が刺激を受けることで、内臓脂肪の分解も促進されダイエット効果が期待されます。
- 噛む動作により、顔の筋肉、特に口の周りの筋肉が鍛えられ、シワやたるみを予防する美容効果も期待できます。
3-5.唾液が出ることで「口臭予防効果」
唾液が減少すると、歯垢や食べかすなどが細菌によって分解され、その際に生じる揮発性のガスが原因で口臭がひどくなってしまいます。咀嚼は唾液の分泌を促します。咀嚼回数を増やせば、唾液の消臭・殺菌効果により、口臭を予防することができるのです。
4.ガムを噛んで咀嚼回数を補う効果的な方法
現代社会では、食事の際だけでは咀嚼回数が不十分です。その時に、役に立つのがガムです。
4-1.どんな時に食べたらいいの?
食後や就寝前にとると効果的です。もちろん、おやつとしてとるのも良いでしょう。
4-2.効果を得るにはどれくらいの間噛めばいい?
一日3回、1粒ずつを毎食後に噛むとよいです。5分以上は噛んで下さい。もちろん時間があれば、それ以上噛んでも問題はありません。
4-3.歯みがきしなくていいの?
ガムを噛むことではプラークを完全に落とせません。ガムに頼らず歯みがきをしっかりしましょう。
4-4.片側だけで噛まない
左右交互に噛むようにして、歯に負担をかけないようにしましょう。ガムを片側の歯だけで噛む癖のある人は顎の筋肉がアンバランスになって顔が歪むことがあります。頭痛の原因になったり、歯に負担をかけすぎて痛くなってしまったりすることもあるので注意しましょう。
4-5.人前では注意
ガムを噛んでいる最中から噛み終えるまで、人によっては相手に無意識のうちに不快な思いを与えるかもしれません。できれば場所や相手を考え、できるだけ一人でいるときに噛んだほうが無難かもしれません。
5.長谷川お勧めのガム
ガムを選ぶには、以下のものが含まれているものがお勧めです。これらのガムには虫歯予防を助ける働きがあり、共通して言えることは、噛むことにより唾液分泌を促進し、歯の再石灰化を助けます。おいしくて虫歯にならない、そして安心な特定保健用食品のガムを積極的にとって、丈夫な歯を保ちましょう。
5-1.キシリトール
キシリトールとは、白樺や樫の木などを原料としてつくられる天然素材の甘味料。歯に対する効果としては、以下のものがあります。
- プラークの量を減らし、歯みがきで落としやすくする。
- 酸をつくらない。
- 虫歯の原因菌であるミュータンス菌を減らす。
- フラノンとリン酸カルシウムの効果で再石灰化を助ける
5-2.リカルデント
リカルデント(CPP-ACP)は牛乳のたんぱく質からつくられています。歯に対する効果としては、以下のものがあります。
- エナメル質へのリン酸とカルシウムの 浸透を促進し、再石灰化を助ける。
- 補給したリン酸とカルシウムを逃がさず、脱灰を抑制します。
5-3.ポスカム
POs-Ca(リン酸化オリゴ糖カルシウム)はじゃがいもから作られたオリゴ糖で、安心の食品素材です。歯に対する効果としては、以下のものがあります。
- 唾液の性状を改善しリン酸とカルシウムの比率をエナメル質に近い比率にすることで、再石灰化を効率的に促進。
- プラーク中のpH を酸性から中性に素早く改善。脱灰を抑制します。
5-4.ロイテリア菌含有のもの
L.ロイテリア菌は人由来の乳酸菌で、虫歯の原因菌や歯周病の原因菌を減らす効果があるとされている菌です。現在、L.ロイテリア菌を含んだガムも販売されています。
5-5.心地よさで選択しよう
上記の商品のいずれを選ぶかは悩まれるかもしれません。商品は、ネットで簡単に購入できますので、一度試されることをお勧めします。そして、自分の感情に従って、最も「心地良い」と感じるものを継続しましょう。私個人としては、糖質の含まれていないキシリトール入りのガムと、ロイテリア菌の含まれたガムを愛用しています。
6.お勧めでないガム
歯に有効な成分含んたガムで咀嚼回数をおぎなっても、以下のガムは避けるようにしましょう。
6-1.糖質が含まれたもの
虫歯菌のエサである糖類が入っていては意味がありません。糖類0gのものを選びましょう。甘味料としては、キシリトール、ソルビトール、マルチトールのようなものがお勧めです。一般的に○○トールという甘味料はキシリトールと同じ糖アルコール類で、 似たような構造をしており、虫歯にならないことが特徴です。
6-2.酸性物を含むもの
それ自体が酸性である、クエン酸や果汁入りなどのものは避けましょう。その酸性度にもよりますが、脱灰の危険性がないとは言えないからです。
6-3.認知症予防薬はガムでなくサプリメントで摂取しよう
機能性食品として、記憶力向上を目的とした、イチョウ葉エキス入りのガムが発売されています。しかしガムに含まれた含有量では、認知機能の改善効果を求めるには少なすぎます。
イチョウ葉エキスは海外では、医師が処方している優れた薬です。せっかく使用するのであれば専用サプリメントによる経口摂取がお勧めです。
以下の記事では認知症サプリについて詳しく解説しています。
7.運動時にもガムを勧める理由
ガムは安静時だけでなく運動時にも効果があります。「噛む」ときには使われる咀嚼筋は、スポーツ時に有効に働きます。
7-1.瞬間的な判断のサポート効果がある
スポーツのプレー中には、瞬間的な判断が必要な場面があります。そんなときは、身体のキレとともに、頭のキレも求められます。「噛む」と血の巡りが良くなり、判断力がアップするのです。
7-2.筋力の伝達は「噛むこと」から始まる
上の歯と下の歯が合わさるとき、「噛んだよ!」という情報が脳の「運動野」という場所に伝達されます。 すると、脳はその情報を受けて刺激され、身体を動かす「骨格筋」などの反応や動きに影響を与えます。ある実験では、ガムを噛んだあとに、「膝関節」の筋力を測定したところ、 ガムを噛まなかったときに比べて約8%も筋出力がアップしていました。このことからも「噛む」ことは、筋力アップにつながるのです。
7-3.咀嚼筋から養われるバランス感覚
あらゆるスポーツをするとき、安定した姿勢を保つことはとても重要です。私たちの身体は、姿勢のバランスが崩れたときに、無意識に姿勢を元に 戻そうとして「抗重力筋」と呼ばれる筋肉が働きます。 その「抗重力筋」のひとつが、「噛む」ときに使う「咀嚼筋」なのです。 バランス能力と咀嚼筋には密接な関係があるのです。
7-4.ここ一番で、食いしばる力が出る
噛みしめることで、身体に「ホフマン反射(H反射)」と呼ばれる反応が 起こり全身の働きを向上させるます。 噛みしめて立ってみてください。ふらつかず、しっかり立てるような気がしませんか?
8.咀嚼は心にも影響する
幸せホルモン「セロトニン」は咀嚼することでも分泌されます。ストレス防止効果リラックス効果などのあるセロトニンが十分に分泌されれば、落ち着いた穏やかな心の状態を保つことができます。人に共感する脳の働きにも関わりが大きく、幸せな恋愛をするのにも欠かせないホルモン。しっかり噛んでセロトニンを増やせば、恋愛や人付き合いもうまくいくのです。
9.まとめ
- 噛むことは、認知症予防だけでなく多くの機能と関連しています。
- 残念ながら、現代の食事だけでは咀嚼回数は十分でありません。
- それを補うためには、有効成分が含まれているガムを噛むことが重要です。