2022年1年間に日本国内で死亡した日本人は156万人と、統計を取り始めて以降最多となったようです。今後も増え続け2040年人は167万人に達する見込みです。ニュースでは都市部では火葬ができずに12日間も待つこともあることが問題視されていました。しかし医療の現場からすると、亡くなってからの問題以上に「どこで亡くなるか?」の方がはるかに重要です。今回の記事では、多死社会の中で人はどこで亡くなるのか? その際に必要なものは何か? について解説します。
目次
1.人はどこで亡くなるの?
そもそも人はどこで亡くなるのでしょうか?自宅での最期を思い浮かべる方も、病院での最期を思い浮かべれられる方もいらっしゃいます。しかし現代では、亡くなる場所は病院や自宅だけではありません。
1-1.病院
病院で亡くなることのできる方は、おおよそ90万人です。厚生労働省はその数を増やす考えは持っていません。それどころか毎年のように国や厚生労働省では、病床数の削減を謳っています。行く場所のない高齢者がコストが高い病院での入院で医療費を消費しているという事実があるからです。
1-2.自宅
講演等で、参加者に「どこで亡くなりたいですか?」と伺うと多くの方が「自宅」と答えられます。しかしながら、自宅で亡くなるためには、家族による介護力が必要です。配偶者がいらっしゃれば良いのですが、亡くなっていればかなり困難になります。同居している子供さんがいなければ一層難しくなります。仮に同居していても、子供さんにも子育てや仕事で手がかかる時期では期待はできません。つまり自宅で亡くなるためには、家族構成・状況が整って初めて実現できるのです。その数は20万人程度と言われています。
1-3.介護施設
入院もできない、自宅でも介護力も足りない場合は、特別養護老人ホーム(以下特養)、老人保健施設(以下老健)といった介護保険上の施設に入所します。これらの施設は重介護の方が入居されますが、医療的な処置が不要であれば看取りまで可能です。しかし介護施設での亡くなる方は10万人程度とされています。
2.あぶれた30~50万人はどこで死ぬ?
病院90万人、自宅20万人、介護施設10万人を合計すると120万人にしかなりません。年間100万人程度の方が亡くなる時代では十分対応できていました。しかし2022年の156万人、さらに今後167万人にまでなると30~50万人の方は亡くなる場所が足りなくなります。
国も手をこまねいているわけでなく、2006年頃から急激に、グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅が増えています。これらの3施設は、自宅と施設の間の位置づけになります。介護保険上の施設ではないため、ここで亡くなった場合は死亡診断書では「在宅」にチェックをいれます。そのため在宅で亡くなったとカウントされます。国も2030年にはこれらの3施設で亡くなる方が50万人になると予想し、何とか亡くなる場所は確保されているようです。
実際、当院もグループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅は合わせて16カ所の協力医をさせていただいていますが。年間看取り数の半分以上がこれらの施設で亡くなっています。
3.グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅入居の問題点
今後は、亡くなる方の1/3はグループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅で亡くなりますが、以下の問題点があります。
3-1.費用がかかる
特養や老健であれば基本的には年金の範囲内での入居が可能です。(ただし個室の場合は、それなりの費用負担になります)一方、グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅は自己負担がかなり高くなります。最も安いグループホームで月額15万円、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅で月額20万円程度。もちろん都会であれば、もっと高くなります。年金だけで賄える方はかなり少数で、貯金の取り崩しや子供さんたちによる負担が必要になります。
3-2.看取りに対応していない施設も
国としてもこれらの施設での看取りを推し進めているのですが、施設が対応していないケースがあります。調査によるとグループホームの約半数は、看取りに対応していません。状態が悪くなったら突然退所をお願いされるので家族は困ってしまいます。そのため入所に当たっては、値段や施設の豪華さ以上に看取りまで診てもらえるかの確認が大事になります。
3-3.悪徳経営者
「介護施設は儲かる!」といったことで、参入してきた業者がたくさんいます。そういった業者は、突然施設を閉鎖といったことを平気でします。そこには社会的使命や理念はありません。岐阜県土岐市でも突然サービス付き高齢者住宅が閉鎖され、家族・ケアマネ・市町村は行き先を見つけるために大騒動になりました。できれば社会福祉法人、医療法人、NPO法人が経営母体である施設がお薦めです。
4.まとめ
- 多死社会においては、約50万人分の亡くなる場所が不足します。
- その50万人は、自宅と施設の中間であるグループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅で補います
- これらの3施設は値段が高いこと、看取りに対応していない施設があること、悪徳経営者がいることに注意が必要です。