最近、相続に絡んだ遺言作成の際の、患者さんの意志能力の有無の相談を良く受けます。
もちろん専門である認知症については、その認知機能の評価で意志能力の有無を証明する事は可能です。
しかし、皆さんが理解されていない事に、“認知症と意識障害は違う”ことです。
言葉の定義では、
『認知症とは、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下した状態』
『意識障害とは、物事を正しく理解することや、周囲の刺激に対する適切な反応が損なわれている状態』です。
ある意味、認知症は数日で急激に悪化する事はありませんが、意識障害は数時間で発症することがあります。
例えば、肺炎で高熱になったり、心不全で全身の循環が悪化すれば、意識障害が引き起こされます。
しかしこれは認知症になったわけではありません。
このようにケースでは、仮に認知症でなくても、意識障害時の遺言作成は無効です。
先日も相談されたケースでは、『肺炎で入院中の遺言作成が有効であるか?』でした。
入院中、一過性に状態が良くても、入院期間であれば、意識レベルが問題ないと言い切る事は困難です。
言ってしまえば、原因に関わらず、入院中の遺言作成は無効です。
それにもかかわらず、入院中の患者さんの傍に立会人2名が出向いて、公正証書遺言を作成させていました。
立会人の見識も疑われますし、契約自体無効です。
今後、相続に伴う遺言作成の事案は増加が予想されます。
法律の現場に対して、医療側も明確な意見を述べていく必要があります。
高齢者の場合は異常であることの診断だけでなく、重要な契約等では、『認知症や意識障害がなく、意思能力がある』という診断を受ける必要があるのではないでしょうか?