8050(7040)問題という言葉をご存知でしょうか? 50代のひきこもりの子と80代の親、40代のひきこもりの子と70代の親という家族があります。ひきこもりが長期化して、当事者が中高年に達し、高齢の親の問題と併せた深刻な社会問題を指す言葉です。
多くの方はこんなケースは稀と考えていらっしゃるかもしれませんが、在宅医療や認知症専門外来では、普通に存在しています。時に、通常の医療とは異なる対応を余儀なくされることさえあります。今回の記事では、8050(7040)問題について医療の現場の視点から解説します。
目次
1.8050(7040)問題とは?
収入のない50代の子と80代の親が社会的に孤立する世帯が目立ってきています。高齢化した親と自立できない子供による世帯は、親の病気や介護、経済的困窮など複合的な問題が起きています。なぜ最近になって急に浮上してきたのでしょうか?
1-1.従来の引きこもりは、若者が対象
従来、国の推計による「引きこもり」は、若者が対象であったため、39歳以下を指していました。そのため、40歳以上の引きこもりは、統計に含まれてもいなかったのです。ただし、子供が経済的に自立して引きこもりでなくなれば、そもそも8050(7040)問題は起こらないのです。
1-2.裕福だった親も貧困化
現在40〜50歳代の引きこもりの親は、主に高度経済成長期にサラリーマンとして過ごし、給与は右肩上がり。経済的に裕福であったため、引きこもる子供を抱え込むことができました。しかし親が高齢となって、自身の病気や経済問題で、子供の生活までを支えることが難しくなっているのです。
1-3.親のSOSから中高年引きこもりが明るみに
従来、知られることの少なかった中高年引きこもり。親の経済的困窮が市町村などに伝わり、その結果、中高年引きこもりの存在が明るみになってきているのです。
2.中高年引きこもりの実態
ようやく国も、中高年引きこもりの実態調査により実態が明らかになってきています。
- 引きこもりの数は、40~64歳で推計61万人です、これは、15~39歳の若者の推計54万1千人を上回るのです。
- 男女比:7割以上が男性です。
- 引きこもり期間:7年以上が半数。ひきこもりが長期化、高齢化しているのです。
3.8050(7040)問題の原因
なぜ引きこもりが起こっているのでしょうか?
3-1.子供の問題
引きこもりには、学生時代に原因があり、そのまま引きこもっているケースがあります。いわゆる、「不登校(小学校・中学校・高校) 11.9%」、「人間関係がうまくいかなかった 11.9%」、「大学になじめかった 6.8%」「受験に失敗した 1.7%」などです。
実は、それ以外にもいったん学校を卒業、就職してからの引きこもりがあるようです。いわゆる「就職活動がうまくいかなかった 20.3%」、「病気 23.7%」、「職場になじめなかった7%」などです。
3-2.親の問題
親の病気や介護をきっかけに引きこもることもあるようです。実際、誰も介護する人がいないために、やむを得ず仕事を辞められるケースがあります。
しかし厳しいようですが、介護サービスを利用すれば、退職しなくてもよいケースも見られます。これは親の介護を退職の言い訳としているように思われます。
4.在宅医療での実態
8050問題は、在宅医療の現場でもしばしば見られます。
4-1.引きこもりの子供に介護を依存する
在宅で介護が必要な患者さんには、引きこもりの子供以外にも子供がいるケースがあります。しかし、他の子供たちが、親の介護を押しつけてしまっているケースが見られます。そうすると、中高年引きこもりが一人で介護負担を負うことになるのです。
4-2.介護サービスも利用できない
中高年引きこもりが、介護を一人で担っていれば働くことはできません。そのため、収入は親の年金のみとなります。親の年金だけでの生活は厳しいものです。そのため、デイサービスやショートステイも経済的理由で十分な利用ができなくなります。その結果、さらに介護負担が重くなるのです。
4-3.年金のために、生きてほしい
中高年引きこもりは、親の年金が収入のすべてです。親が亡くなることで路頭に迷います。そのため、患者さんの状態が悪化した際も、普通なら自然に看取るケースでも延命を希望されます。言葉では、「どんな形でも生きてほしい」と言われますが、実は「年金のために生きてほしい」なのです。結果、胃ろうや中心静脈栄養で患者さんを苦しめるのです。胃ろうや、中心静脈栄養については以下の記事も参考になさってください。
https://brain-gr.com/tokinaika_clinic/blog/home-medical-care/central-venous-nutrition/
5.引きこもりで生活保護は?
それでもいつかは、親は亡くなります。そんな時、中高年引きこもりは、まだ老齢年金をもらえる年齢ではありません。それ以前に、年金もかけていない方が大部分です。そうなると生活保護の申請が考えられますが、以下の基準を満たす必要があります。
- 世帯主である
- 援助できる親類がいない
- 資産がない
- 働けない事情がある
- 収入が最低生活費の基準額より低い
中高年引きこもりの多くは、健康であり、上記の基準を満たすことは難しいかもしれません。と言って、安易に生活保護を認めると、世間の理解を得ることも難しそうです。
6.まとめ
- 8050(7040)問題は、中高年引きこもりが原因であり、子供が経済的に自立していれば起こりません。
- 医療の現場では、年金目的で、無用な延命を希望されることもあります。
- 親の死後は、中高年引きこもりの経済的困窮が予想されます。