生活習慣が原因としての糖尿病患者さんが急増しています。生活習慣のなかでも食事の習慣は、影響が最も大きいものです。ところが糖尿病患者さんからすれば、食事療法はわかっていても実行・継続が難しいものです。しかし、食事内容が同じでも、食事の際の咀嚼の工夫で血糖値の上昇を防げることがわかってきました。今回の記事では咀嚼に時間をかけることの重要性をご紹介します。
目次
1.よく噛むと血糖の上昇が抑えられるとは?
最近では、主食の炭水化物を食べる前に、植物繊維が豊富な野菜や、たんぱく質を含む肉や魚を先に食べることで、血糖の上昇を抑えることが広まってきています。これらの効果は、血糖の吸収を緩やかにすることが一因とされています。
しかし、それだけでなく咀嚼の効果も関与していると考えられています。咀嚼つまり、よく噛むことは満腹中枢を刺激し、食欲を抑えることで食事療法に役立つことが分かってきました。実際、咀嚼力と血糖コントロールの関係を調べた研究では、咀嚼力が低下すると血糖値が高くなることが報告されています。
つまり、よく噛んで咀嚼することが、血糖の吸収および適切な食欲のコントロールで血糖の上昇を抑えるのです。
2.ゆっくり食べると肥満を抑制する
九州大学が2型糖尿病を対象として、「食事の速度が肥満やBMIに影響」では以下のことが分かっています。
2型糖尿病と診断された日本人5万9,717人を対象に、食べる速度と体重の増減との関連を調べた。解析した結果、食べる速度が速い人は全体の37.6%、普通の人は55.4%、ゆっくりの人は6.9%であることが判明した。BMIが25以上の肥満の割合は、食べる速度が速い人では44.8%、普通の人では29.6%、ゆっくりの人では21.5%で、食べる速度がゆっくりであるほど肥満の割合は少なくなることが明らかになった。食べる速度はウエスト周囲径にも影響する。ウエスト周囲径の平均は、食べる速度が速い人では86.8cm、普通の人では82.8cm、ゆっくりの人では80.1cmで、食べる速度がゆっくりであるほど、お腹周りも引き締まることが分かった。
私自身も、食後血糖値スパイクをもつ患者として、血糖を細かく測定すると、食事に2時間かけるような場合は、血糖値のスパイクが殆ど起きないことを実感しています。
*血糖値スパイク:空腹時の血糖値は正常でも「食後1-2時間のうちに急激に高血糖(140mg/dl以上)となる」病態
3.噛む力は心血管疾患と関連
国立循環器病研究センターによる「咀嚼機能の指標のひとつである「最大咬合力」と、心血管疾患を発症するリスク」の研究では以下が報告されています。
50~79歳の男女1,547人を対象に調査。その結果、最大咬合力が低い人は高い人に比べ、循環器病を新たに発症する割合が高かった。最大咬合力がもっとも高い人に比べ、低い人では心血管疾患を発症するリスクが4倍以上に上昇した。
つまり、噛む力が落ちてくると脳血管障害や虚血性心疾患のいずれのリスクも高くなるのです。
4.ゆっくり・しっかり噛む工夫
ご紹介したようにゆっくり・しっかり噛むことは、糖尿病・肥満をはじめ、脳血管障害や虚血性心疾患をも予防します。以下のような工夫がお薦めです。
4-1.一口の量を減らす
量に関わらず一口に噛む回数は変わらないことが分かっています。同じ量を食べた場合、一口の量を減らすと、トータルの噛む回数を増やすことができます。
4-2.食事時間をゆったりと
食事時間が短いと早食いになってしまいます。実際、私も昼食がネックです。多くの人は昼食には時間が取れないことが多いのではないでしょうか? できるだけ時間を確保して、噛む回数を増やさざる得ない野菜やたんぱく質を中心とした食材を選ぶことがお薦めです。
4-3.歯ごたえのある食材を追加する
いわゆる、「おかあさんはやすめの食事」、オムライス、カレー、アイス、サンドイッチ、ハンバーグ、焼きそば、スパゲッティ、麺類は人気のあるメニューですが咀嚼回数は少なくて済んでしまいます。これらのメニューを食べるなとは言いませんが、繊維の多い、野菜・根菜類・キノコ類・海藻類などを追加すると噛む回数を増やすことになります。例えばカレーライスなど、単独だとどれだけでも食べれてしまいますが、サラダなどを加えることで満腹感を感じることができます。
5.まとめ
- よく噛むことは糖尿病・肥満を予防します。
- 最大咬合力が高いと心血管疾患を発症するリスクをへらします。
- しっかり時間をかけて噛むためには、一口の量をへらし、食事時間をゆったりとり、歯ごたえのある食材を取ることがお薦めです。。