「国内の肉体労働」で稼いだ外貨が「海外の頭脳労働」に支払われている構図により、日本は、かつてのように「円高に怯える経済」ではなくなったようです。合理的に考えるなら、資産を「弱い円」ではなく「強い外貨」で持つことは当然です。
- 2012年頃を境として東京外国為替市場は確実に「円を買いたい人が多い市場」から「円を売りたい人が多い市場」へ変わっていることは確信していた。
- 日本は今までよりも外貨が獲得しにくくなっている
- 資源価格や為替動向に左右されやすい貿易収支と違って「新時代の赤字」は増える未来しか思い浮かばない怖さがある。
- 経常収支黒字国や対外純資産国というステータスは一見して円の強さを担保する「仮面」のようなものであり、「素顔」としてはCFが流出していたり、黒字にもかかわらず外貨のまま戻ってこなくなったりしている可能性がある。
- 米国の金利が低下すれば(ドル安になり)大きく円高へ傾く」というのは貿易収支が黒字だった時代の発想でもある。米金利の軌道は今後も円相場にとって重要には違いないが、米金利が低下したからと言って、本書で注目する「新時代の赤字」やCFベース経常収支の赤字が消えてなくなるわけではない。
- 通貨高は先進国の悩み、通貨安は途上国の悩み
- そもそも為替は「金利」だけで動くものではなく、究極的には「需給」に依存するものだ。
- 国内企業や国内投資家が抱える巨額の外貨建て資産は今の日本に残された希少な強みである。
- 2022年や2023年の日本の国際収支は見事に「財では稼げないが、投資の収益で稼ぐ」
- 新時代の赤字」がこのまま膨らんだ場合、「成熟した債権国」が「債権国取り崩し国」に進む契機になるかもしれない
- 2022年や2023年において円以上に常に下落していたのはG 20 通貨の中でトルコリラやアルゼンチンペソくらいだった。
- 日本の経常収支を議論するにあたっての注目点は①貿易収支の赤字、②第一次所得収支の黒字、③旅行収支の黒字という3点に集約されてきた。 第4の論点として④その他サービス収支の赤字という伏兵が登場し、勢いを増している
- 「新時代の赤字」に搔き消される旅行収支黒字
- デジタル赤字は 10 年で2倍、四半世紀で6倍に
- 「新時代の赤字」は原油輸入を超える
- 現在のペースでいくと、2030年には約8兆円に拡大する
- いくら旅行収支で黒字を積み上げても、今後拡大していくであろう「新時代の赤字」の半分も相殺できない可能性が視野に入る。そこへ慢性的な赤字である貿易収支、統計上の黒字でしかない第一次所得収支黒字を合計したものが経常収支になる。こうした需給環境の現状や展望は執拗な円安が続いてしまう
- 実はデジタル貿易を統計で捉えようとした場合、世界的な大国は米国や英国ではなく実はアイルランドである。
- 観光という「労働集約的な産業」で稼いだ外貨がソフト面での競争力が重視される「資本集約的な産業」への支払いに充てられている状況にも読み替えられる。
- 真っ当に考えれば、「研究開発サービス」で劣後する国がデジタル関連収支で黒字を積み上げるのは難しい。
- 世界最速ペースで人口が減っていく日本社会において「AIが仕事を奪う」は脅威論とは限らない。
- 2022年3月に始まった円安局面は当初、「FRBが利下げを始めるまで我慢すれば状況は改善する(円高になる)」という見方が支配的であった。これに対し「本当はそうではなく、円安は構造的な話なのではないのか」というのが通底する問題意識である。
- デジタル関連収支は米国が+1114億ドル、英国が+692億ドルとなっており、やはり米国の黒字幅が大きい。しかし、EU(除くアイルランド)も+332億ドルとまとまった幅で黒字を記録している。
- 英国には世界的なコンサルティング企業の本社機能が集中している
- 通信・コンピューター・情報サービス」に着目するとアイルランドは+1940億ドルの黒字で世界最大である。
- デジタル赤字は日本だけの問題なのか」という問いに対しては「日本だけの問題ではないが、世界的に見ても赤字額は大きい」というのが正確な現状認識
- 日本は「仮面の黒字国」ないし「仮面の債権国」
- 約 95%が円建て資産で構成される2000兆円の数%でも外貨建て資産へシフトすれば大変な円安圧力を生む
- 自国通貨への諦観に起因する「弱い円」から「強い外貨」へという動きは資産運用というより資産防衛であり、保有資産を減らないようにしようという「守り」の姿勢転換と言える。
- 高度経済成長以降、日本人は円高に悩んだことはあっても円安に悩んだことはなかった。だからこそ、今後起きることも未知の展開になる可能性があると筆者は危惧している。