夫婦二人とも認知症になったら、家族はどうすればいい?

夫婦二人とも認知症になったら、家族はどうすればいい?

認知症外来をしていると、ご家族からとても難しい相談を受けることがあります。「先生、父も母も認知症になってしまいました。二人だけで暮らしていて大丈夫でしょうか?」子どもさんからすれば当然心配です。お父さん一人を見ても、一人暮らしは難しい。お母さん一人を見ても、やはり心配。そうなると、「二人とも、すぐ施設に入れた方がいいのでは?」と考えたくなります。

ところが、認知症医療を長く続けていると、不思議なことに気づきます。一人では暮らせない二人が、一緒なら意外なほど暮らせることがあるのです。夫が忘れれば妻が教える。妻が困れば夫が助ける。二人とも完璧ではありません。それでも、残っている力を合わせることで生活が成り立つことがあります。

だから私は、「夫婦とも認知症」というだけで、すぐ二人を離すことは勧めません。ただし、いつまでも二人だけに任せてよいわけでもありません。今回は、認知症になった夫婦をどう支え、いつ施設を考えるのかについて解説します。

目次

第一章 一人では無理でも、二人なら暮らせる

ある高齢のご夫婦がいました。お二人とも認知症です。お父さんに、「薬は飲みましたか?」と聞いても、「分からない」お母さんに聞いても、「どうだったかな」という状態です。どちらか一人であれば、一人暮らしを続けるのはかなり心配です。ところが、自宅での生活を見ると意外に成り立っています。お父さんが、「今日は何曜日だった?」と聞けば、お母さんが、「今日はデイサービスの日でしょう」と答える。逆に、お母さんが、「夕飯はどうするんだった?」と迷えば、お父さんが、「冷蔵庫に何かあるだろう」と声をかける。もちろん間違えることもあります。しかし、二人がお互いの弱い部分を補い合っているのです。

さらに大きいのが安心感です。認知症になると、新しい場所や新しい人間関係への適応が難しくなります。その点、何十年も一緒に暮らしてきた配偶者は、そこにいるだけで安心できる存在です。朝起きれば隣にいる。一緒に食事をする。夜になれば同じ家で眠る。この「いつもの生活」は、認知症の人にとって想像以上に大きな意味を持ちます。ですから私は、二人で暮らせる力が残っている間は、できるだけその生活を守りたいと考えています。

第二章 二人暮らしを守る「三つの生命線」

ただし、「夫婦だから何とかなるでしょう」と放置するのは危険です。私は少なくとも三つが守られているかを確認します。

一つ目は、服薬です。認知症の方に、「薬を忘れずに飲んでください」とお願いするだけでは不十分です。飲み忘れる。二回飲む。相手の薬を飲む。こうしたことは実際に起こります。家族、訪問看護、ヘルパー、薬剤師などが関わり、確実に管理できる仕組みが必要です。

二つ目は、入浴です。本人は、「昨日入った」と言っていても、実際には一週間以上入っていないことがあります。デイサービスなどを利用し、定期的に入浴できる仕組みを作ることが大切です。

そして三つ目が、最も重要な食事です。本人たちは、「ちゃんと食べています」と言います。しかし冷蔵庫を開ければほとんど何も入っていない。菓子パンばかり食べている。気がつけば二人とも体重が減っている。こんなことがあります。配食サービス、ヘルパー、デイサービスなどを利用して、食事だけは確実に確保する必要があります。

つまり、夫婦二人で暮らしているように見えて、実際には周囲が二人の生活を支えている。これが大切なのです。


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第三章 夫婦一緒の施設が、必ずしも正解ではない

やがて、介護サービスを入れても自宅生活が難しくなる時があります。食事が維持できない。薬が管理できない。転倒が増える。
夜間に外へ出てしまう。こうなれば施設を考える時期です。夫婦仲が良ければ、私はまず「二人一緒に入れる施設」を探します。

何十年も一緒に暮らした夫婦です。認知症になったからといって突然離れ離れになるのは、できれば避けたいものです。しかし現実には、夫婦だから同じ施設が最善とは限りません。例えば夫は身体機能が低下し、移動や排泄の介助が必要。一方、妻は身体は元気でも認知症が進み、徘徊や妄想への対応が必要。必要な介護がまったく違うことがあります。

実際、夫が施設に入ったことで生活リズムが整い、食事も薬も安定し、表情まで明るくなる一方、妻は自宅に残ったことで生活が崩れ、急速に状態が悪化することもあります。逆に、施設へ入ることで混乱が強くなる人もいます。大切なのは「夫婦一緒か別々か」ではありません。それぞれが最も穏やかに生活できる場所はどこなのか。そこを考えることです。必要であれば別々の施設に入り、近い場所を選んで面会できるようにする。それも立派に夫婦を守る方法だと思います。

おわりに

「父も母も認知症になった」子どもさんにとっては、大きな不安だと思います。しかし、それだけで、「もう二人暮らしは無理」と決めつける必要はありません。一人では生活できない二人でも、二人なら支え合って暮らせることがあります。大切なのは、二人の力だけに任せないことです。服薬、入浴、食事。この三つを介護サービスで支え、それでも生活が難しくなった時に施設を考える。

そして施設に入る場合も、「夫婦だから絶対一緒」と考える必要はありません。一緒にいることで安心できるなら一緒に。必要な介護が違うなら別々に。認知症介護に、すべての夫婦に当てはまる正解はありません。忘れてしまっても、相手がそばにいると安心する。困った時には、残っている力で助け合う。

長年連れ添った夫婦には、私たちには見えない力があります。だからまずは、その力を見てあげてください。そして足りないところだけを、家族や介護サービスが補う。それでも限界が来た時に、次の生活を考えればよいのです。認知症になっても、夫婦は夫婦です。二人が持っている力をできるだけ生かしながら、その人にとって一番穏やかな生活を探していく。それが、認知症になった夫婦を支えるうえで最も大切なことだと思います。

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