歯科で判明!「認知症発症の兆候」とは【認知症専門医が解説】

歯科で判明!「認知症発症の兆候」とは【認知症専門医が解説】

認知症の進行予防には、歯周病予防、口腔ケア、歯を残す事が重要です。これからは、今まで以上に医科歯科連携が広がっていくでしょう。従来は医科から歯科の先生方にお願いすることが大部分でしたが、これからは、歯科医の先生から、医科への紹介も増えてくると思います。そのためには、歯科医の先生方にも「この人何か変?」とか「もしかして認知症?」と気づいてもらえると、認知症の早期発見・早期受診につながります。

今回の記事では、月に1,000名の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、歯科受診で起こりがちな認知症を疑うポイントをご紹介します。

目次

1.歯科にかかる認知症患者さんのタイプは?

当院のように認知症専門外来を行っているクリニックと、一般の歯科では認知症患者さんの特徴が異なります。歯科にかかられる患者さんには、以下のような特徴があります。

1-1.程度として軽い人が多い

認知症には段階があります。生活は自立しているが前頭葉機能が低下した早期認知症、物忘れを中心とした中核症状、さらに幻覚妄想など家族を困らせる周辺症状のレベルです。歯科に受診している患者さんの多くは、早期認知症レベルから軽い中核症状レベルまでの方が多いと思われます。

1-2.一人で来院している

軽症の方が多いため、一人で来院される方が多いようです。もちろん、車を運転して来院される方も多数います。ちなみに認知症専門外来の当院では一人で来院される患者さんは殆どいらっしゃいません。

1-3.家族も気が付いていない

一人で来院できるレベルで、車も運転しているため、家族も患者さんの異変に気が付いていないこともあります。そのため、以下にご紹介する「兆候」が見られたら、ご家族に知らせてあげることも必要です。

2.歯科治療時に判明する認知症の兆候とは?

早期認知症の患者さんが、歯科を受診した時におこしがちな「兆候」をご紹介します。

2-1.予約を忘れる

人間ですので、歯科の予約を忘れることはあります。しかし、何度も何度も忘れるようなら、早期認知症の兆候かもしれません。不思議と、何度も忘れても、本人はケロッとしていることも多いものです。

2-2.診察券を失くす

やはり人間ですので、診察券を失くすこともあります。しかし、これも何度も何度も紛失するなら早期認知症の兆候かもしれません。診察券以上に大事な、健康保険証を紛失した場合は、早期認知症を強く疑います。

2-3.待ち時間で怒る

待たされることは、誰でも嫌なことです。しかし、多くの方は黙って我慢するものです。しかし、そんな中で、待たされたことで怒り始める方がいらっしゃいます。それも、かなり激しく、時には激昂されることもあります。早期認知症の患者さんは、理性のコントロールができなくなるため、些細なことで怒ってしまうのです。

2-4.歯の汚れがひどくなる

今まではきちんと歯のケアができていたのに、急に歯の汚れがひどくなる方がいます。これも早期認知症の兆候かもしれません。認知症が進行すると、今までできていたことが、少しずつできなくなっていくのです。そんな時には、身だしなみも気にしてみてください。男性なら髭を剃らなくなったり、女性ならお化粧もしなくなったら要注意です。


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2-5.痛みに過敏

歯科の治療で、あまりに痛みを過剰に訴える場合は、早期認知症の兆候かもしれません。我々の経験では、認知症の患者さんは、ちょっとした痛みに過剰に反応します。何度も採血をしたことがあるのに、突然大声で痛がったりします。血圧を測る際も、測る人の手が冷たいだけで、大騒ぎをする方さえいらっしゃいます。

2-6.不定愁訴が多い

不定愁訴や不安を過剰に訴える場合は、早期認知症の兆候かもしれません。総入れ歯を作っても「合わない」、「痛い」、「歯科医の腕が悪い」というような不満を訴えます。そのため、何件もの歯医者を渡り歩き、いくつ入れ歯を作っても満足しないという傾向があります。

Dentist showing x-ray to the elder woman in the dentall office
診察内容や受付の対応、それ以外の不満を思ったままに口にする患者さんがいます

2-7.話が聞こえている感じがしない

早期認知症の患者さんは、論理的思考が苦手です。そのため、歯科医の先生が、一生懸命説明しても理解ができません。そのため傍からは「話を聞いていない?」とさえ感じます。実は、聞いていないのではなく理解ができないのです。

2-8.引き戸を押そうとする

これは、当院における経験論です。診察室の出入り口に扉がある場合、多くは引き戸です。しかし、なぜか認知症患者さんは、引き戸を無理やり押そうとしたり、引こうとします。あまりに多くの認知症患者さんが同じ行動を行うため、引く方向への矢印を張るのですが、殆ど効果はありません。

2-9.支払いに手間どる

問題がなく外来が終了しても、注意は必要です。支払の際にスムーズに支払えるか否かも重要です。財布を探すことに手間取ったり、小銭を組み合わせることを間違える場合も注意が必要です。そのため患者さんによっては、すべてお札を差し出して、お釣りをもらわれる方もいらっしゃいます。そうなると、財布の中は小銭だらけになっています。

Senior woman counting money
支払いに戸惑うか、逆にめんどくさくて大雑把なは支払い方をする方がいます

2-10.車の傷が増えていく

早期認知症の患者さんは車に乗って一人でいらっしゃることも多いものです。乗っている車が、傷だらけの場合も注意が必要です。一カ所ぐらいならやむを得ませんが、何カ所も、それもボコボコにへこんでいるような場合は、かなり注意が必要です。

3.「兆候」をいかに家族に伝えるか?

認知症を疑った場合は、どうすれば良いでしょうか?

3-1.まずは報告程度に

早期認知症の場合は、ご家族も気が付いていないこともあります。そのため、「早期認知症の疑いがある」と断定して伝えないようにしましょう。あくまで、「歯科クリニックでこんなことがありましたが家では大丈夫ですか?」程度にしておきましょう。これをきっかけに、ご家族が患者さんの行動に関心を持ってもらえれば十分です。

3-2.家族の確信につながる

なかには、ご家族も「何か変」と感じているケースもあります。そんな時に、「歯科クリニックでこんなことがありました」という報告を受けると、ご家族も確信が持てます。ご家族から相談があったら、認知症専門医の受診を勧めてあげましょう。勧められるような認知症の専門医を知っておくとより親切です。そのためには、ホームページ、ケアマネ、介護経験をした家族、地域の評判などを調べておきましょう。認知症は、肩書や医療施設の規模ではなく、実際に患者さんを診ている医師を探すことが大事です。

3-3.怒ってしまう家族も

こちらが親切心で報告しても、「うちの親はまだ大丈夫、不必要なことは言わないで!」と怒るご家族もいらっしゃいます。残念ながらこれが現実です。これ以上の関わりは避けましょう。冷たいようですが、ある一定数「理解力がない家族」は存在します。もしかすると「早期認知症の親の素因を子供が継いでしまっているのでは?」と心配になることさえあります。

4.まとめ

  • 医科歯科連携が進むと、歯科医から医科に認知症疑いの患者さんを紹介することも増えてきます。
  • 歯科に受診される認知症患者さんの多くは、早期認知症のレベルの方が多いです。
  • 早期認知症の患者さんの場合、ご家族も気が付いていないことも多くあります。
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