糖尿病治療には、薬剤よりも「睡眠時間」が重要な理由を専門医が解説

糖尿病治療には、薬剤よりも「睡眠時間」が重要な理由を専門医が解説

糖尿病専門外来では、食事も気をつけ、運動も心がけ、薬をきちんと飲んでもどうしても血糖値が改善しない患者さんがいらっしゃいます。本人もとても一生懸命なので、医師としても何とかしてあげたいと対策を考えます。そんな時には、「睡眠時間」をお伺いします。そうすると、患者さんの中に、慢性的な睡眠不足の方が結構いらっしゃるのです。

実際、日本人の睡眠時間はとても短くなっており、糖尿病患者さんが増えている一因とも考えられています。今回の記事では、糖尿病の治療においては十分な睡眠時間が重要である理由を、総合内科専門医である長谷川嘉哉が解説します。

目次

1.日本人の睡眠時間は短い

Woman Using Cellphone In Bed At Night
様々な理由で睡眠時間が減少していると考えられます

私自身は、何があっても6時間の睡眠時間は確保するようにしていますが、日本人の睡眠時間はとても短いようです。

1-1.睡眠時間が6時間未満の人が4割

2019年の厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、「睡眠時間が6時間未満」の人の割合は、男性50%、女性は40.6%です。特に、30歳代、40歳代、50歳代の男性、40歳代、50歳代の女性では、「睡眠時間が6時間未満」が4割を超えています。

1-2.ぐっすり眠れた感には6時間欲しい

実は、理想の睡眠時間は、日中の活動性や疲労度など、様々な要因がかかわってくるため一概には言えません。何より、「ぐっすり眠れた」と感じる時間が、理想とも言えます。ただし、一般には、成人であれば、6〜7時間が理想と言われています。やはり、6時間未満では短いことが多いのです。

1-3.睡眠の効果は実に多い

睡眠の最も重要な目的は、心身の疲労を回復させることです。しかし、それ以外に、自律神経やホルモンバランスの調整、免疫機能の増強、記憶の定着や脳の老廃物の除去などの働きがあります。これらの働きは、睡眠のリズムの中でも、深い睡眠(=nonREM睡眠)でより働きます。睡眠は、深い睡眠と浅い睡眠を90~120分で繰り返しています。つまり、一定の深い睡眠を得るためには、これらの睡眠サイクルを繰り返す必要があります。そうすると、やはり、最低でも6時間は必要となるのです。

2.睡眠不足が糖尿病を低下させる

睡眠不足は、以下の理由で、血糖のコントロールを悪化させることが分かっています。

  • 交感神経系の過剰な興奮により、糖質コルチコイドや成長ホルモンの分泌が刺激され血糖値が上昇します。
  • 食欲を抑制するレプチンが抑制され,食欲を亢進 するグレリンが増加し,食事量が増えてしまいます。その結果、 血糖のコントロールが悪化してしまいます。実際、睡眠不足の時には、食欲が亢進することを感じませんか?
  • メラトニンは、夜間の睡眠中に分泌されるホルモンです。近年、糖の代謝に重要な働きをしていることがわかっています。簡単に言えば、メラトニンが糖の代謝を改善させるのです。つまり、睡眠不足は、メラトニンの分泌を抑制し血糖のコントロールを悪化させるのです。

3.良い睡眠をとれないと認知機能も低下

米イリノイ大学の研究を引用します。

2型糖尿病患者81人と、糖尿病予備群81人、計162人の参加者(平均年齢54.8歳)を対象に、睡眠の時間と効率を調査。参加者の平均睡眠時間は1晩6時間で、睡眠効率の平均は82.7%(ベッドで過ごす時間のうち睡眠に費やされたのが82.7%)。認知機能を評価したところ、睡眠効率が低下している糖尿病と糖尿病予備群の人では、認知機能が低下している傾向がみられた。(引用元:糖尿病ネットワーク

つまり、糖尿病や糖尿病予備軍の人が睡眠が十分にとれないと、認知機能まで低下してしまうのです。


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4.早寝早起きも重要

糖尿病のコントロールのための睡眠においては、早寝早起きも重要です。英レスター大学のJoseph Henson氏の研究です。

2型糖尿病患者635人に加速度センサーを装着して7日間生活してもらい、身体活動量や睡眠、座位行動などに充てている時間を計測。その結果と、質問票により把握した普段の就寝・起床時刻などとの関連を検討した。その結果、朝型と夜型を比較した結果、夜型の人の方が身体活動量が少ないことが分かった。(引用元:ダイヤモンドオンライン

つまり、就寝時刻が遅いことにより身体活動量が少ないことが2型糖尿病の発症につながるのです。

5.睡眠を改善する方法

以上より、糖尿病を予防、改善するには適切な睡眠時間を確保して、早寝、早起きをすることが大事です。そのためには、以下の工夫が必要です。

5-1.6時間の確保を

6時間の睡眠時間から逆算し,学校や職場にいる時間や家事労働時間を減らす工夫も必要です。郷ひろみさんは、良質な睡眠を確保するために、就寝2時間前にタイマーをセットして、そこから眠る準備を始めるそうです。郷ひろみさんの生活習慣については、以下も参考になさってください。

5-2.夜遅い時間に食事しない

良質な睡眠のためには、夕食の摂取時間にも注意が必要です。食事した食べ物が、消化・吸収されるには2~3時間が必要です。そのため、食事から睡眠までの時間が短いと、消化活動により、大脳や肝臓の働きが活発化することで、睡眠が妨げられてしまいます。眠る2時間前の食事は避けるようにしたいものです。

5-3.シャワーより入浴

忙しいと、シャワーですませがちですが、入浴して湯船につかることが、良質な睡眠につながります。入浴には、深部体温をあげることで、睡眠導入が良好になります。もちろん、リラックスして全身の筋肉の緊張がゆるみ、交感神経が抑制されることも良質な睡眠につながります。

6.まとめ

  • 血糖のコントロールには、睡眠もとても重要です。
  • 睡眠時間は、最低でも6時間は確保したいのですが、半数近くの方が達成できていません。
  • 睡眠時間だけでなく、早寝早起きも血糖のコントロールには重要です。
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