認知症患者さんが施設入所で断られた!? 対応方法を専門医が解説

認知症患者さんが施設入所で断られた!? 対応方法を専門医が解説

先日、認知症患者さんで在宅での生活が限界を超え、グループホームに入所された方がいらっしゃいました。しかし、入所した日から介護抵抗が強く、その日のうちに自宅に戻されてしまいました。再び、自宅での認知症介護を余儀なくされたご家族の、落胆は激しいものでした。今回の記事では、月1000人以上の認知症患者を診察する専門医である長谷川嘉哉が、在宅介護も限界を迎え、介護施設でも入居を断られる患者さんに対する対応方法をご紹介します。

目次

1.介護施設で断られる認知症患者さんとは?

せっかく介護施設に入所されても、施設から退所させられてしまう方には、以下のような特徴があります。

1-1.MMSEが10点以下

当院では、3カ月に一度は、認知機能の評価のためにMMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)を行います。この点数による情報はとても多いものです。例えば、30点満点で20点を切ると日常生活に手助けが必要になります。また15点を切ると、幻覚妄想といった周辺症状が出現してきます。さらに認知症が進行してMMSEが、10点を切ったような患者さんは、環境変化に順応することができずに、入所後にひどく混乱・パニックを起こすことが多いのです。

1-2.周辺症状が強い

MMSEが15点を切ると、周辺症状として幻覚・妄想・介護抵抗等が認められます。但し、すべての患者さんに出現するわけでは無く、仮に出現しても抗認知症薬のメマリー等によってコントロールすることが可能です。残念ながら、入所前に主治医により適切な周辺症状のコントロールができていないと、入所後に周辺症状により施設入所が継続できなくなってしまいます。周辺症状については、以下の記事も参考になさってください。

1-3.男性患者さんが多い

どこの世界でも男女差別はいけません。しかし、介護の現場では男女差別も止むを得ません。MMSEが10点以下であろうが、周辺症状が強かろうが、身体の小さな女性であれば何とか対応できるものです。同じ状況でも、男性の場合、身体が大きいため、スタッフに女性が多い介護施設では対応できないことが多いのです。

2.介護施設を断られた場合には、精神科入院も

ならば、介護施設に断られた場合は、精神科への受診・入院が選択肢となります。

2-1.紹介状で精神科入院を

介護施設等を探す場合は、多くの場合、介護保険サービスを調整するケアマネが中心となります。しかし、介護施設で断られて、精神科へ紹介をする場合は、医療になりますので、主治医が紹介状を書く必要があります。

2-2.重篤な内科的疾患があると入院は難しい

精神科に入院をお願いする場合は、重篤な内科的な疾患がないことが条件となります。血圧や糖尿病に対して、経口薬程度であれば対応してもらえますが、人口透析が必要であったり、インスリンの自己注射と定期的な検査が必要な場合や、心不全症状が強く頻回に発作を起こすような患者さんは、入院は難しくなります。

2-3.運動機能が維持されていること

歩行が不安定で、転倒の危険もあって、常に介助を要する患者さんも、入院は難しくなります。かえって、さらに運動機能が低下してベッド上で寝たきりであれば、介護施設でも対応が可能になります。しかし、自分で動こうとするが、不安定で転倒の危険性がある患者さんは、薬による抑制も難しく、介護施設でも精神科病棟でも対応が難しくなります。

3.精神科入院のメリット

精神科入院は、ご家族には抵抗がありますが、多くのメリットがあります。何しろ、自宅で介護できない状態で、入院できれば、介護負担は解決します。入院した患者さんも、自宅と違って、夜間でも自由に起こしておくことができるため、薬による過剰な抑制も必要でなくなります。結果的に、状態が落ち着いて、介護施設に入所できることも多くなるのです。


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4.精神科への紹介方法で一工夫

精神科を受診する場合は、いきなり受診をすることはお薦めしません。いったん、精神病院のケースワーカに連絡をして、受診日を予約。その日に合わせて、診断書を作成してもらうようにしましょう。

私の経験でも、どんなに大変な患者さんでも、病室が空いていなければ入院は不可能です。そのため、前もってケースワーカに連絡をして、ある程度、調整が可能な日に予約を取ってもらうことが、スムーズな受診・入院につながるのです。

5.介護施設で断られないために

入所の決断をしてから、介護施設で断られないようにするために以下の事に気をつけましょう。

5-1.まだ看られる段階で決断を

自宅での介護を限界まで頑張らないことが重要です。あまりに認知症が悪化すると、介護施設でも対応が難しくなります。コツとしては、「まだみられるかな?」と思う段階での入所の決断が大事です。

5-2.専門医の受診を

認知症の物忘れ自体を改善することは、難しいのですが、周辺症状としての幻覚・妄想・介護抵抗等は、薬によるコントロールが可能です。周辺症状が出現してきた場合は、専門医の受診がお薦めです。

5-3.優秀なケアマネ

入所の見極め、適切な介護施設の選択、優秀な認知症専門医の情報など、一般の方には難しい問題です。しかし、優秀なケアマネが担当してくれれば、上手に対応してくれます。しかし、優秀なケアマネを探すにはコツがあります。以下の記事も参考になさってください。

6.まとめ

  • MMSEが10点以下で、周辺症状が強い男性患者さんは、せっかく入所しても退所させられることがあります。
  • 介護施設で断られた場合は、主治医の紹介状を持って精神科への入院を検討することも一つです。
  • 介護施設で断られないためには、「まだ診られるかな?」と思う段階での決断が大事です。
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