2022年2月10日、アメリカの製薬大手ファイザーが開発した新型コロナウイルスの飲み薬「パキロビッドパック」が承認されました。国内では、メルクが開発した「ラゲブリオ」に続いて2種類目の新型コロナの飲み薬です。ただし、「パキロビッドパック」は、一緒に服用できない薬が多数あることから、審議会でも専門家から慎重投与が必要との意見が出ています。今回の記事では、「パキロビッドパック」について特に併用禁忌の薬剤について解説させていただきます。
目次
1.「パキロビッドパック」とは?
ウイルスは、細胞に侵入すると自分の複製をつくるために、ハサミの役割を果たす「酵素(3CLプロテアーゼ)」を使って部品を大量に作ります。「パキロビッドパック」は「ハサミの役割を果たす酵素」をブロックすることでウイルスの増殖を防ぎます。
2.服用の対象者
対象となるのは新型コロナウイルスに感染した人のうち12歳以上で、かつ重症化リスクのある患者です。2種類の薬を1日2回、5日間服用します。発症後は速やかに少なくとも5日以内には服用を開始することとされています。
添付文書では
- HIV=ヒト免疫不全ウイルスに感染している人や
- 腎機能や肝機能に障害のある人
- 妊婦
- 授乳中の女性などは
服用に注意するか、服用しないよう求めています。さらに併用できない薬が39種類あるのです。
3.代表的な併用できない薬
以下に代表的な併用できない薬を紹介します。一時的に服用を中止できれば良いのですが、以下に紹介する薬は、基本的には中止することができないため、服用していれば、「パキロビッドパック」の服薬は難しいと思われます。
3-1.降圧剤
降圧剤では、以下の2種類が併用禁忌とされています。
- アゼルニジピン(商品名:カルブロック)
- オルメサルタンメドキソミル(商品名:オルメサルタン)
本当にこの2種類だけなら良いのですが、アザルニジピンがだめなら、同じカルシウム拮抗薬もリスクが予想されます。同様に、オルメサルタンメドキソミルがだめなら、同じARB阻害薬のリスクが予想されます。現在、降圧薬を服薬されている方の大部分は、カルシウム拮抗薬かARB阻害薬が使用されています。このことからも、「血圧の薬」を服薬している患者さんは、ほぼ「パキロビッドパック」の服薬は避けることになります。
3-2.抗不整脈薬
不整脈の予防に服薬する薬として以下の薬が併用禁忌です。
- アミオダロン塩酸塩(商品名:アンカロン)
- ベプリジル塩酸塩水和物(商品名:ぺプリコール)
- フレカイニド酢酸塩(商品名:タンボコール
- プロパフェノン塩酸塩(商品名:プロノン)
- キニジン硫酸塩水和物(商品名:キニジン硫酸塩)
いずれも、一時的にせよ服薬中止は危険ですので、抗不整脈の服薬をしている患者さんは、「パキロビッドパック」の服薬は避けることになります。
3-3.脳塞栓予防薬
リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)は、脳塞栓の予防薬です。これを服薬している方が中止することは、命にかかわります。やはり脳塞栓予防薬を服薬をしている患者さんは、「パキロビッドパック」の服薬は避けることになります。
3-4.抗てんかん薬
てんかんの発作を予防する、抗てんかん薬も以下の薬が併用禁忌です。
- カルバマゼピン:(商品名:テグレトール)
- フェノバルビタール:(商品名:フェノバール)
- フェニトイン:(商品名:アレビアチン)
これらの薬はかなりの患者さんに使用されており、再発作予防のためにも中止はできない薬です。
3-5.不眠症・神経症
不眠症・神経症についても以下の薬は併用禁忌です。
- ジアゼパム(商品名:セルシン)
- クロラゼプ酸二カリウム(商品名:メンドン)
- エスタゾラム(商品名:ユーロジン)
- フルラゼパム塩酸塩(商品名:ダルメート)
- トリアゾラム(商品名:ハルシオン)
この中では、ユーロジンやハルシオンは専門医としてはあまり使用したくない薬です。「パキロビッドパック」の服用を機に変更してもよいかもしれません。以下の記事も参考になさってください。
4.高脂血症の薬は大丈夫
マスコミ報道では、一部の高脂血症治療薬も併用禁忌と伝えられています。しかし、これは通常の患者さんに使用する薬ではありません。併用禁忌なのは、ロミタピドメシル酸塩(商品名:ジャクスタピッド)で、ホモ接合体家族性高コレステロール血症というかなり特殊な疾患に対して処方される薬です。通常、コレステロールが高い方に処方する薬は、「パキロビッドパック」との併用は問題ありません。
5.片頭痛患者さんは、一時的に中止で対応
片頭痛患者さんの場合も以下の薬が併用禁忌です。ただし、これらはいずれも頓服で使用することが多いので、「パキロビッドパック」の服用時のみ中止すれ対応可能です。
- エレトリプタン臭化水素酸塩(商品名:レルパックス)
- エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン(商品名:クリアミン配合錠)
- ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩(商品名:ジヒデルゴット)
6.その他
その他にも抗結核薬、白血病治療薬、統合失調治療薬も併用禁忌です。やはり中止することは難しいため、「パキロビッドパック」の服薬は難しそうです。
7.重症化リスクのある患者さんには使えない?
「パキロビッドパック」の適応は、12歳以上で、かつ重症化リスクのある患者です。しかし、これだけの併用禁忌の薬剤があると、重症化リスクのある患者さんの相当数が使用できないことが実態のようです。
8.まとめ
- 日本で、2種類目の新型コロナの飲み薬「パキロビッドパック」が認可されました。
- 「パキロビッドパック」の適応は、12歳以上で、かつ重症化リスクのある患者です。
- しかし、「パキロビッドパック」には39種類も併用できない薬があるので、相当数の重症化リスクのある患者さんには使用できません。