おむつは介護の敗北ではない―高齢化社会が直面する紙おむつごみ問題

おむつは介護の敗北ではない―高齢化社会が直面する紙おむつごみ問題

紙おむつと聞くと、多くの方は赤ちゃんを思い浮かべるかもしれません。しかし今、日本で増えているのは子供用ではなく、大人用の紙おむつです。少子化で子供の数は減っているにもかかわらず、紙おむつごみは増え続けています。その背景にあるのが、高齢化と介護の増加です。特に認知症介護の現場では、紙おむつは単なる消耗品ではありません。本人の尊厳を守り、家族の介護負担を軽くし、施設や在宅での生活を支える大切な道具です。

認知症が進行すると、排泄の失敗が増えることがあります。尿意や便意をうまく伝えられない。トイレの場所が分からない。ズボンの上げ下げがうまくできない。夜間に間に合わない。こうしたことは、決して本人の「だらしなさ」ではありません。脳の機能低下によって起こる、認知症の症状の一つです。しかし、介護する家族にとって排泄介助は大きな負担です。食事や入浴の介助以上に、精神的にも身体的にも疲弊しやすい部分です。だからこそ紙おむつは、介護の現場において欠かせない存在なのです。

一方で、使い終わった紙おむつは大量のごみになります。環境省の推計では、使用済み紙おむつの廃棄量は2023年度に216万トン、一般廃棄物全体の5.5%を占めています。2050年度には最大で12.7%まで増える見通しです。紙おむつごみの問題は、環境問題であると同時に、介護問題でもあります。そして、高齢化社会に生きる私たち全員に関わる問題なのです。

目次

1 紙おむつは、認知症介護の「最後の砦」でもある

認知症外来でご家族の話を聞いていると、介護が限界に近づくきっかけの一つに「排泄の問題」があります。あるご家族は、夜中に何度も起きてお母さんをトイレに連れて行っていました。最初は「できるだけおむつは使わせたくない」と頑張っていました。しかし、夜中に2回、3回と起こされる生活が続くと、介護する娘さんの睡眠が削られていきます。

昼間は仕事、夜は介護。気づけば娘さんの表情から笑顔が消えていました。そこで私は、「おむつを使うことは、決して介護の敗北ではありません」とお伝えしました。紙おむつを使うことで、本人が失敗して叱られる機会が減ります。家族が夜に少しでも眠れるようになります。介護を続ける余力が生まれます。つまり紙おむつは、本人と家族の関係を守るための道具でもあるのです。

認知症の方は、失禁したことをうまく説明できないことがあります。時には、自分が失敗したこと自体を理解できないこともあります。そこで家族が「また汚して」「どうしてトイレに行かなかったの」と責めてしまうと、本人は理由が分からないまま不安や怒りを感じます。その積み重ねが、介護する側にも、介護される側にも大きなストレスになります。

紙おむつは、そうした衝突を減らしてくれます。もちろん、できる限りトイレで排泄する支援は大切です。しかし、すべてを家族の努力だけで解決しようとすると、介護は長続きしません。紙おむつは、本人の尊厳を守るためのものです。そして家族が優しい気持ちで介護を続けるためのものでもあります。だからこそ、紙おむつごみの増加を単に「困ったごみ」とだけ見るのではなく、その背景にある介護の現実にも目を向ける必要があります。

2 おむつ証明書と市町村補助――家族の負担を少しでも軽くする制度

大人用紙おむつは、毎日使うとかなりの費用になります。在宅介護では、昼用、夜用、尿取りパッド、防水シーツなどを組み合わせることもあります。介護度が重くなるほど使用量は増え、月に数千円から1万円以上かかることも珍しくありません。認知症介護は、目に見えない負担が多いものです。見守り、声かけ、服薬管理、通院付き添い、火の管理、金銭管理。そのうえで紙おむつ代も積み重なると、ご家族の負担は決して小さくありません。

そこで知っておきたいのが、「おむつ証明書」と「市町村のおむつ代補助」です。まず、おむつ証明書です。寝たきりなど一定の条件に該当し、治療上おむつの使用が必要と医師が認める場合、医師が発行する「おむつ使用証明書」によって、紙おむつ代が医療費控除の対象になることがあります。医療費控除を受けるには、原則として医師の証明書と領収書が必要です。2年目以降は、条件を満たせば市町村が発行する要介護認定に関する書類で代用できる場合もあります。外来でも、「紙おむつ代が医療費控除の対象になるとは知りませんでした」と驚かれるご家族がいます。介護に追われていると、制度を調べる余裕もありません。だからこそ、医療者やケアマネジャーが一言伝えるだけで、ご家族の助けになることがあります。

もう一つが、市町村によるおむつ代補助です。多くの自治体では、在宅で介護を受けている高齢者を対象に、紙おむつの現物支給や購入費助成を行っています。要介護認定を受けていること、在宅で生活していること、所得制限を満たすことなどが条件になる場合があります。補助の内容は市町村によって異なります。紙おむつを定期的に届けてくれる自治体もあれば、購入費の一部を助成する自治体もあります。対象となる介護度や所得制限、施設入所中に利用できるかどうかも地域によって違います。

介護保険サービスを利用している方は、まずケアマネジャーに相談するのが一番です。市町村の高齢福祉課や介護保険課でも確認できます。紙おむつは、毎日使うものです。毎日使うものだからこそ、支援制度を知っているかどうかで、年間の負担は大きく変わります。介護は、気合いや根性だけで続けるものではありません。使える制度は使い、頼れる人には頼り、家族が倒れないようにすることが大切です。

3 「燃やして終わり」では限界――介護を支える道具を循環させる時代へ

紙おむつが介護に必要なものである以上、使用量をゼロにすることはできません。むしろ高齢化が進む日本では、大人用紙おむつの需要はさらに増えていきます。日本衛生材料工業連合会によると、子供用紙おむつの生産量は減少する一方で、大人用紙おむつは増加し、2023年には子供用を上回りました。


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大人用紙おむつは子供用より大きく、使用後は重くなります。一般的な高齢者では、1日あたりの使用後重量が1キログラムを超えることもあります。これは自治体のごみ処理にとって大きな負担です。紙おむつには高吸水性樹脂が使われているため、燃えにくく、焼却炉の温度を不安定にします。排せつ物に含まれる塩分などが設備の劣化を招く要因にもなります。焼却後の灰は最終処分場に埋め立てられますが、その容量にも限りがあります。

鹿児島県大崎町では、使用済み紙おむつが一般ごみの約2割を占めているといいます。高齢化率が高い地域では、これは決して他人事ではありません。これから多くの自治体が直面する未来の姿です。

そこで期待されているのが、紙おむつのリサイクルです。大崎町と志布志市では、ユニ・チャームと連携し、使用済み紙おむつを再び紙おむつの原料に戻す「水平リサイクル」に取り組んでいます。回収された紙おむつは、破砕、洗浄、分離され、パルプ、プラスチック、高吸水性樹脂に分けられます。パルプは殺菌、漂白、脱臭され、再生パルプとして再利用されます。

花王も、使用済み紙おむつを半炭化物に加工し、燃料や土壌改良資材として活用する取り組みを進めています。建築資材やトイレットペーパーなど、別用途への再利用も広がり始めています。ただし、リサイクルには課題もあります。衛生的に処理する必要があるため、洗浄や殺菌にコストがかかります。分別回収の仕組みも必要です。家庭や施設からどのように集めるのか、においや保管の問題をどうするのか、自治体の負担をどう抑えるのか。技術だけでなく、社会全体の仕組みづくりが求められます。

環境省は2030年度までに150自治体で紙おむつリサイクルの導入・検討を進める目標を掲げています。しかし現状では、分別回収をしていない自治体が大半です。介護に必要な紙おむつを、使った後にどう扱うのか。これは環境政策だけの問題ではありません。介護を社会でどう支えるかという問題でもあります。

おわりに

紙おむつは、認知症介護の現場で家族を助けてくれる大切な存在です。排泄の失敗を減らし、本人の尊厳を守り、家族の睡眠を守り、介護を続ける力を支えてくれます。紙おむつを使うことは、決して恥ずかしいことでも、介護の敗北でもありません。むしろ、上手に使うことで、本人にも家族にも穏やかな時間が増えることがあります。

一方で、使い終わった紙おむつは大量のごみになります。少子化でも紙おむつごみが増えるという現実は、日本が本格的な高齢化社会に入ったことを象徴しています。これから必要なのは、紙おむつを「ごみ」としてだけ見るのではなく、介護を支えた後の資源としてどう循環させるかを考えることです。

そして同時に、ご家族にはおむつ証明書や医療費控除、市町村のおむつ代補助といった制度をしっかり知っていただきたいと思います。介護は一人で抱え込むものではありません。家族だけで頑張り続けるものでもありません。

本人の尊厳を守る。家族の負担を軽くする。自治体のごみ処理を持続可能にする。企業の技術で資源循環を進める。紙おむつという身近な存在から見えてくるのは、これからの日本社会の大きな課題です。介護を支えるものを、社会全体でどう支えるのか。紙おむつごみの問題は、私たちにその問いを投げかけています。

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