介護職・働き方改革を機に、劣悪でない良質な事業所で働こう

介護職・働き方改革を機に、劣悪でない良質な事業所で働こう

働き方改革実現進会議が提出した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」が2018年6月29日に可決・成立し、2019年4月から施行されました。

いろいろ賛否のある働き方改革ですが、社会保険労務士によると、「働き方改革は簡単に言ってしまえば、従業員に、適切な有給をとってもらい、相応の給与を払えない企業は市場から退場するということ」とのことです。働き方改革にそって経営をすると、従来以上に従業員も確保せねばなりませんし、人件費も必要になります。

働き方改革の影響は、特に介護事業においては深刻です。適切な助成金の利用、労働生産性など、介護事業所間における差が開いてきます。その結果、同じ介護事業に就いていても、待遇に大きな差が出てきます。ところが介護現場で働いている方は、その点に気が付いていない方がたくさんいらっしゃいます。今回の記事では、今回の働き方改革法律化をきっかけに、働くべき介護事業所の選択方法を、自ら介護事業を経営する長谷川嘉哉がご紹介します。

目次

1.介護施設における働き方改革とは?

厚生労働省が実現をめざす働き方改革によって、介護職は特に以下の点の改善が期待されます。

  • 長時間労働の是正
  • 賃金引き上げと労働生産性向上
  • 非正規雇用の待遇差改善

介護事業は、全産業の平均に比べると給与額が少なく、努力が給与という形になって還元されにくい仕事です。人手不足で仕事量が多いにもかかわらず、休みが少なかったりすると「こんなに頑張っているのに…」と報われない気持ちになります。だからこそ、「働き方改革」を機に、経営者も働く人も行動を起こす必要があるのです。

2.介護事業所の対応

介護事業所が、「働き方改革」で対応しなければいけないことは以下です。

2-1.有給休暇の取得を進める

「できれば有給休暇(有休)を取得してもらいたい」、でも「働く人が少ないから有休取得ができない」と悪循環になっています。しかし介護事業所にすれば、有休分の給与を払わずに経営していることにもなります。そのため、「働き方改革」では、有休をとれるように人を雇用する、時効消滅した有休を買い取るなどを検討する必要があります。

2-2.同一労働、同一賃金を守る

介護事業の性格上、すべての労働を同一労働、同一賃金と判断することはできません。しかし、支給される手当によっては、非常勤も常勤と同様に「支給すべきもの」の検討が必要です。(例:皆勤手当てなどは、常勤・非常勤に関わらず無欠勤なら支給すべき)

2-3.最低賃金を下回っていないかチェックする

最低賃金は、県によって額が異なります。時に介護事業所では、非常勤の時間給が最低賃金を下回っていることがあるので注意が必要です。さらに、最近では最低賃金が上がってきているので、常勤の基本給を労働時間で割ると、最低賃金を下回っていることがあるので注意が必要です。

Businessperson Calculating Invoice
これまで以上に適切な経営が望まれます

3.処遇改善金を取得していない事業所で働いてはいけない

働き方改革を実行するには、いずれにせよ費用が掛かります。そのための最も大きな原資が「処遇改善金」です。

3-1.処遇改善金とは?

介護職のためにキャリアアップの仕組みを作ったり、職場環境の改善を行った事業所に対して、介護職の賃金を上げるためのお金を支給する制度です。自治体が介護報酬に「給料の上乗せ費用」を追加して支給して、介護職員へ給料として支給します。

3-2.処遇改善金を取得していない事業所の待遇は悪い

2017年4月の介護報酬改定で拡充された「処遇改善金」は全体のうち64.9%の事業所しか取得していないのです。つまり3割強の事業所では、処遇改善金は一円たりとも支給されていません。処遇改善金は、介護事業の種類によって異なりますが、グループホームなどでは年収ベースで15〜20%の増になります。つまり、処遇改善金を取得してない事業所で働いている人の待遇は間違いなく悪いのです。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


3-3.処遇改善金を取得していない事業所は市場から撤退を

処遇改善加算の取得のための届け出をしない理由で最も多いのが「事務作業が煩雑」です。処遇改善手当を支給するには処遇改善計画書や処遇改善実績報告書の作成、職員への処遇改善手当の支給額を算定、など煩雑な作業が伴います。小規模な事業所では、この作業に割く時間と労働力を確保することが難しく、届け出を出すことがなかなかできていないのが現状です。

今回の、「働き方改革」によって、処遇改善金を取得できない事業所は市場から撤退し、そこで働いていたスタッフは良質な事業所に変わっていくべきなのです。

nursing home
人手が足りなくてスタッフや利用者さんに迷惑をかけるような施設は撤退すべきです

4.事業所ごとに条件が一緒でない

実は、介護事業所はそもそもの条件が平等でありません。働くなら、有利な事業所で働くことをお勧めします。

4-1.助成金を活用できる公益法人やNPO法人が有利

私はNPO法人でグループホームを経営しています。そのため、設立時には、建築費の80%に相当する助成金を頂きました。そのため、現在も無借金で経営ができています。対して、民間企業は、すべて自前で資金を準備し、借り入れがあれば返済もしています。

そんなまったく条件の違う法人が、同じ条件で介護保険のグループホームを運営するのです。やはり、助成金が利用できた公益法人やNPO法人が有利になります。

4-2.医療法人・社会福祉法人は有利

介護事業は大きく、医療法人系と社会福祉法人系とその他の3つに分けられます。医療法人系と社会福祉法人系は、グループ化され、人も資金力も豊富です。地域に密着する医療法人・社会福祉法人は中小企業が経営する会社に比べ、働く条件は良くなる傾向があります。

4-3.全国展開の大手は、理論上不利

通常の職種なら、コマーシャルなどもしている大手が安心として感じてしまいます。しかし介護事業では異なります。通常、製造業であれば生産量が増えるほどコストは下がります。しかし、介護事業は、組織が大きくなればなるほど、収益を生まない間接人員が増えてきます。介護事業の責任者、エリアマネージャ、本社機能などすべての経費を、それぞれの事業所から吸い上げることで成り立ちます。そのため、全国展開の介護事業所の給与水準は、理論的にも低くなるのです。

5.介護事業の将来は?

私個人は、介護事業の将来の展望は明るいと思っています。

5-1.経済危機に強い

リーマンショックの際に、トヨタ系の企業の多くが、賞与をカットしたことがありました。そんな時でも介護事業所は、減らすことなく賞与を支給できていました。つまり、介護事業所は経済危機には強いのです。今後、2020年のオリンピック後の経済危機を恐れている方はたくさんいらっしゃいます。

5-2.仕事にやりがいがある

介護職は、お金をいただくのに感謝してもらえる素晴らしい仕事です。そのため、慢性的人手不足、低賃金、重労働と言われていますが、介護の仕事自体が合わなくて辞めたいと考える人は少ないのです。多くの介護職員さんが、仕事に対しては、やりがいや楽しさを感じているのです。

5-3.残るべき事業所に、人員を集中させる

介護事業は、社会的にはなくすわけにはいかない職種です。そのためにも、「働き方改革」をきっかけに、退場すべき事業所には退場いただき、優良な介護事業所に人員を集中させることが、働く人たちにも多くのメリットが出てくるのです。

6.まとめ

  • 介護事業の働き方改革は、「従業員に、適切な有給をとってもらい、相応の給与を払えない企業は市場から退場する」ということ
  • そのためには、処遇改善金を取得していない事業所で働いてはいけない。
  • お勧めは、地域に密着する医療法人・社会福祉法人です。
長谷川嘉哉監修シリーズ