高齢者がうまく歩けなくて転倒・・歩行が悪い原因と受診の目安

高齢者がうまく歩けなくて転倒・・歩行が悪い原因と受診の目安

外来をやっていると、患者さんのご家族が「とても歩きが悪くなりました」という訴えをよくされます。家族としても、「救急で受診した方がよいのか?」「様子見で良いのか?」を悩まれるようです。様子をみるにしても、「何か治療があるのか?」「対処方法があるのか?」も悩まれます。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、「歩きが悪い」のメカニズム、家族でもできる診断方法、対策について解説します。

1.歩きが悪いとは?

患者さんやご家族は、何気なく「歩きが悪い」と表現されますが、以下の状態に分けられます。

1-1.足が動かない

何らかの原因で足が動かなくなって、歩きが悪くなる状態を言います。代表的なものとしては、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害などで片方の足の動きが悪くなって歩きが悪くなる状態です。

1-2.バランスが悪い

足の動きには、問題がなくてもバランスが悪いことで歩きが悪くなる状態です。支えがあれば歩くことが可能ですが、支えがないとバランスを崩して転んでしまいます。パーキンソン病、小脳梗塞や小脳出血、多発性脳梗塞が原因の失調が原因で起こります。

*失調:それぞれの筋肉の力は正常ですが、運動がうまく行えなくなる状態

1-3.筋力が足りない

下半身の筋力が低下することで、歩きが悪くなる状態です。進行すると支えがあっても、立っていることさえできなくなります。長期の臥床や、運動不足による廃用性症候群などが原因で起こります。廃用症候群については、以下の記事も参考になさってください。

2.歩行ができる場合の診断

「歩きが悪い」の原因を見つけるには、以下の観察を行います。

2-1.足の引きずり

歩く際に、片方の足の引きずりがあるかを確認します。小さな脳梗塞の場合では、意識レベルも変わらず、手の動きも正常で、片方の足の動きのみが悪くなることもありますので、頭部CTや頭部MRIが必要になります。

2-2.前傾姿勢・歩幅・手の降り

前傾姿勢でないか? 歩幅が狭くなっていないか? 手の振りが減っていないか?を観察します。この状態が認められたら、方向転換も試してみましょう。方向転換に手間取るようであれば、パーキンソン病も疑います。

2-3.片足立ち

歩行が悪いと訴える割に、しっかり歩いている場合は片足で立ってもらいましょう。片足立ちが維持できれば、何か疾患がある可能性は低くなります。そのことを、家族や本人に説明してあげると安心されることが多いようです。

3.歩行ができない場合の診断

歩行ができない場合は、以下のチェックを行います。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


3-1.足の曲げ伸ばし

座った状態で、足の曲げ伸ばしができるが否かを確認します。足を持ち上げた状態で曲げ伸ばしができれば、歩くための最低限の筋力はあると判断します。

3-2.支え立ちができるか?

何かにつかまって立てるか否かを判断します。支え立ちができれば、最低限の筋力はあると判断します。

3-3.最低限の筋力があっても歩けない?

上記のチェックで最低限の筋力があるのに歩けない場合は、適切な対処をすれば歩ける可能性があります。この状態で放置してしまうと本当に歩けなくなるので、積極的なリハビリ等を検討します。

4.緊急受診が必要な場合

今まで動いていた足が突然動かなくなった場合は、緊急受診を考えましょう。片方の足が動かなくなった場合は、下肢の血管の閉塞や脳の病変を疑います。両方の足が突然動かなくなった場合は、脊髄の梗塞や、血管の閉塞を疑います。

5.不要な薬剤の中止も

「歩きが悪い」に対しては、不要な薬剤の中止が大事です。とくに歩行障害の副作用として多いのは、胃腸障害に処方される、メトクロプラミド(商品名:プリンペラン)、ドンペリドン(商品名:ナウゼリン)。食欲低下やうつに対して処方されるスルピリド(商品名;ドグマチール)です。その他にも、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬にも注意が必要です。処方は最低限にして、可能なら中止してもらうことが必要です。

6.薬物治療が可能な場合

「歩きが悪い」に対する薬物治療は、パーキンソン病に対してのみ効果があります。そのため、まずは脳神経内科専門医に受診してパーキンソン病であるか否かの診断を受けましょう。パーキンソン病については以下の記事も参考になさってください。

7.基本は、リハビリが大事

「歩きが悪い」に対して、最も効果があることは、リハビリです。リハビリについては、介護保険における以下のサービスの利用がお勧めです。

  • デイケア:通所リハビリのことです。医療機関に併設されており、理学療法士や作業療法士さんも常駐していますので、リハビリが可能です。
  • デイサービス:デイサービスの中には、お風呂に入ってリクリエーションしかしていない施設が多いためリハビリは期待できません。ただし、最近では、リハビリに特化してデイサービスもありますのでお勧めです。
  • 訪問リハビリ:自宅に理学療法士や作業療法士さんが訪問してくれます。デイケアやリハビリ特化型デイサービスと組み合わせるとより効果が上がります。

8.まとめ

  • 「歩きが悪い」には、足が動かない、バランスが悪い、筋力が足りないの3種類があります。
  • 緊急性がないもの以外は、薬の副作用のチェックが必要です。
  • 「歩きが悪い」には、デイケア・リハビリ特化型デイサービス・訪問リハビリの利用がお勧めです。
error: Content is protected !!
長谷川嘉哉監修シリーズ