外来で診療をしていると、こんな言葉をよく耳にします。
「本当はもっと関わりたかった」
「仕事があって、最後はほとんど施設任せでした」
これは決して特別な話ではありません。むしろ、多くのご家族が抱える“後悔”です。しかし、日本には本来、その後悔を減らすための制度があります。それが「介護休業給付金」です。
制度はある。しかし、使われていない。今日はその現実について、制度の概要から本質的な問題までお伝えします。
目次
1.介護休業給付金とは何か
介護休業給付金は、家族の介護のために仕事を休む際に支給される制度です。
- 賃金の約67%が支給
- 最大93日まで取得可能(3回まで分割)
つまり、「給料の約3分の2を受け取りながら休める制度」です。制度としては決して弱くありません。むしろ、かなり“使ってほしい設計”になっています。
2.傷病手当金との比較で見える違和感
ここで、非常に重要な比較をしてみましょう。同じく休業中の生活を支える制度に「傷病手当金」があります。傷病手当金は健康保険(協会けんぽ+健保組合)から支給され、給付率は同じく約2/3です。しかし、決定的な違いがあります。国としての支給規模です。
- 傷病手当金:約6,000億〜7,000億円/年
- 介護休業給付金:約100億〜200億円/年
実に30倍以上の差があります。この差は何を意味するのか。それは、「制度が使われているかどうか」の差です。
3.制度はあっても休めない現実
ではなぜ、ここまで差がつくのでしょうか。理由は極めてシンプルです。介護では休めないからです。現場でよく聞く言葉があります。
- 「職場に迷惑をかける」
- 「自分が抜けたら回らない」
- 「評価が下がるのではないか」
つまり、制度はあっても“使える空気”がない。これが最大の問題です。一方で、病気の場合は医師の診断という“強制力”があります。だから休める。
しかし介護は違います。休むかどうかは本人の判断に委ねられます。その結果、
- ほとんどの人が無理をする
- 休まない
- 制度は使われない
4.「2/3もらえる」は本当か?
制度上は「67%」ですが、実際の体感は違います。
- 過去6か月の平均で計算される
- 上限額がある
- 一部給与があると減額
- 社会保険料などの影響
その結果、実際は“半分以下”に感じるケースも少なくありません。これも取得をためらう大きな理由です。
5.それでも「使うべき理由」
ここが最も重要です。私は訪問診療で、多くの「最期」に立ち会ってきました。その中で強く感じるのは、時間は取り戻せないという事実です。お金は後から取り戻せます。仕事も、取り戻せる可能性があります。
しかし、
- 最後に話した言葉
- 一緒に過ごした時間
- 手を握った記憶
これらは、二度と戻りません。そして、関われなかった後悔は長く残ります。
6.なぜこの制度は使われないのか
改めて数字を見てください。
- 傷病手当金:6000億円規模
- 介護休業給付金:100億円規模
この差はニーズの差ではありません、「使えるかどうか」の差です。介護は確実に増えています。それにもかかわらず、この支給額。つまり、制度が機能していない社会なのです。
7.後悔しないための選択
多くの家族が、あとからこう言います。「もっと関わればよかった」
しかし、その時にはもう遅い。だからこそ必要なのは、事前に知り、決断することです。介護は突然始まります。そして、思っている以上に短く終わることもあります。その時間にどう関わるか。これは、人生の中でも極めて重要な選択です。
8.まとめ
介護休業給付金は
- 賃金の約2/3を補償
- 最大93日取得可能
- 誰でも使える制度
です。
しかし現実は
- ほとんど使われていない
- 年間支給額はわずか100億円規模
一方で
- 傷病手当金は6000億円規模
この差こそが、日本の課題です。親の最期に関われたかどうかは、
その後の人生に深く影響します。制度は、あなたのためにあります。遠慮する必要はありません。
おわりに
もし今、「介護が始まりそう」「どう関わるか迷っている」そう感じているなら、一度、介護休業という選択肢を真剣に考えてみてください。後悔しないために。そして、「やれることはやった」と思えるために。それはきっと、あなた自身を支える大切な記憶になります。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。