認知症の薬の開発には、世界中の頭脳・資金が終結しています。しかし脳に対する直接的なアプローチでは、残念ながら十分な成果が出ていません。そんな時は、アプローチ方法を変えてみることも大事です。
認知症専門医としては、「脳腸相関」に関心があります。聞きなれない言葉ですが、最終的には認知症の治療にまで広がる可能性があるのです。今回の記事では月に1000名の認知症患者さんを診察する長谷川が、脳腸相関について、その可能性も含めご紹介します。
目次
1.脳腸相関とは?
「指は第2の脳」と呼ばれることから『おや指を刺激すると脳がたちまち若返りだす』でベストセラーを出したものからすると不思議ですが、「腸は第2の脳」とも呼ばれます。「どちらが第2の脳?」という議論はさておき、腸と脳が影響を及ぼしあうことを示す言葉が「脳腸相関」です。
皆さんも、ストレスを感じるとお腹が痛くなったり、便意を及ぼすことを経験されたことがあるのではないでしょうか?
具体的には、脳と腸は、自律神経、内分泌系、免疫系の3種類の経路を介して互いに影響を及ぼしあっています。脳腸相関では、「脳から腸への情報伝達」と「腸から脳への情報伝達」が、一方向でなく双方向的に影響を及ぼしあっています。
2.脳から腸管に悪影響を
脳に何らかのストレスがかかると、腸管に何らかのシグナルが送られ、下部消化管の運動が亢進したり、抑制されたり、さらには腸内の細菌叢にまで変化を生じさせてしまうことがわかっています。
具体的には、眠れない、食欲がない、意欲がないといった精神症状が、腸の動きを悪くして、食欲も低下し、悪心も出現されている患者さんもいらっしゃいます。あまりにひどくなると、脳が原因で腸に影響しているのか、腸のせいで脳に影響しているのか鑑別が難しくなるケースさえあるのです。
3.腸内環境の異常が脳に悪影響を
腸内環境の異常が脳に悪影響を与えている可能性には多くの報告がされています。
3-1.腸管が幸せホルモンを分泌
幸せホルモンと言われるセロトニンというホルモンがあります。セロトニンが正常に分泌されると人間は精神的に健康で、いわゆる幸せを実感することができます。しかしセロトニンが不足すると、イライラして、怒りやすく幸せを実感することができなくなります。
そんなセロトニンが腸管で作られていて、さらには生成には腸内細菌が関与していることも明らかになっているのです。幸せを実感するには、腸内細菌が重要なのです。
3-2.認知症と腸内細菌
認知症と腸内細菌の関係はいくつもの報告がされています。国立長寿医療研究センターは、腸内の状態が認知症に強く関連があるとする論文を発表しました。認知症の人は腸内の「バクテロイデス」という細菌が少なく、認知症でない人は多い傾向があったそうです。
また中国では、「腸内微生物叢の毒素を修復し、腸内細菌代謝産物の異常な増加を抑制し、末梢神経系および中枢神経系炎症を調節し、アミロイドタンパク質の沈着とタウの過剰リン酸化を減少させ、認知機能を改善する新薬」を開発したとの報告もあります。
3-3.パーキンソン病は腸の炎症が原因?
脳神経内科が専門のパーキンソン病も変性疾患と考えられた疾患です。しかしパーキンソン病の原因も、腸管の炎症が脳に波及することで神経細胞が変性するという機序が報告されています。従来、原因不明とされている病気のなかに、腸が一因である可能性があるのです。
4.腸内細菌が大事
こうなると腸内細菌を整えることが大事になります。この場合に注意が必要なのでは善玉菌を摂取するだけでなく、そのエサになるものも同時に摂取する必要があるのです。
4-1.善玉菌を増やす
腸内細菌のバランスを整えるには、善玉菌を増やす食事を心がけることがおすすめです。乳酸菌やビフィズス菌が含まれるヨーグルト、納豆や漬け物などの発酵食品を毎日の食事にプラスするだけで、手軽に善玉菌を補給できます。なお、以下のようなサプリメントもお薦めです。Amazon広告からご紹介します。
4-2.善玉菌のえさを摂取する
善玉菌を摂取するだ江毛でなく、善玉菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖の摂取も必要です。食物繊維が豊富な野菜や海草類などを積極的に食事にとり入れたり、オリゴ糖を多く含む豆類やバナナなどの食品を意識して摂取しましょう。
4-3.悪玉菌をのさばらせる食習慣の改善
悪玉菌は肉や脂肪などを好みます。通常は小腸で吸収されるアミノ酸や胆汁酸が大腸に流れ込むことで、悪玉菌によって発がん物資や有害物資を作られてしまいます。洋食が多く、外食が多い方は、食生活自体を見つめ直す必要があります。肉食に偏らないバランス良いメニューを心掛けましょう。
5.即効性には疑問
脳腸相関を知ると、腸内環境を整えることに関心が向きます。そのためか、最近では飲料やサプリで腸内環境を整えることで、夜間よく眠れるようになったり、さらに記憶力の低下が改善するという商品も発売されています。しかし、作用機序から考えると即効性には疑問です。ただし、腸内環境を整えることが、大事であることは変わりません。是非とも、長期的に考えてもらいたいものです。
6.まとめ
- 腸と脳が影響を及ぼしあうことを示す言葉が「脳腸相関」です。
- 腸は、幸せホルモンであるセロトニンを分泌します。
- 腸内環境が、認知症やパーキンソン病といった変性疾患の原因とさえ言われています。