医師も納得・・冲方丁の“光圀伝”の凄い描写力

最近、ミステリー小説や映画を見ていて、医師として気になってしまうことがあります。それは、“人の殺し方”にリアリティがないことです。全体の流れで、殺人のシーンはとても重要な役目を果たします。その描写が拙劣だと、全体の印象も悪くなります。

原作者や監督に言わせてもらえるなら、人はそんなに簡単には殺せません。人は呼吸が止まるか、心臓が止まることで命を失います。短いナイフで、腹を刺しても直接的には命を落とすことはなく、出血多量を待つことになります。仮に、胸部をナイフで刺しても、心臓は肋骨で囲まれています。ナイフを傾けて、肋骨の間を通すようにしなければ心臓には到達しません。

先日読んだ、冲方丁の“光圀伝は、その不満を解消するような凄い描写をしていたので紹介します。

光圀は優しく囁きかけると、膝下に捕えた家老たる男を、ぶつりと脇差しの刃で刺した。箇所は、左の鎖骨の上、缺盆である。刃が、すっかり相手の体内に潜るまで押し込んだ。刃は肺を縦に貫き、心臓を傷つけ、胃にまで達している。 しかし、これは慈悲のある殺し方だった。貫かれた肺は、殆ど一瞬で己の血液に満たされ、溺れ死ぬ。苦痛は短く、外傷は少ない。遺体の損壊は、主に体内にとどまることから、胸や腹を突いたり、首や胴を叩き切ることことに比べ、驚くほど綺麗な体で死ねる。日本のみならず、明や南蛮においても同様の殺し方があるという。”


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人間は、呼吸が止まるか心臓が止まることで死に至ることを、十分理解した殺し方です。医師としても十分納得がいくものでした。これだけの描写ができる、冲方丁さんです。全体が面白くないわけがありません。700ページを超える大作ですが、一気読みです。大河ドラマにしても十分と思わせる内容です。お勧めします。

                   

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