外来では、「就職をするから診断書をください」という方が、結構いらっしゃいます。そんな診断書ですが、要望されるものに違いがあります。「何でもよいから一番安い診断書」というものもあれば、「決まった書式で検査項目もここまで必要?」というものまであります。今回の記事では、就職時の診断書について、FP資格をもつ脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が解説します。
目次
1.雇用時の健康診断とは?
入社が決定すると、会社から「健康診断を受けてきて」と言われます。これは、「雇い入れ時健康診断」といって、労働安全衛生規則第43条により事業者に対して、医師による健康診断を行うことが義務付けられているのです。以下に、43条を紹介します。
四十三条 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。
この条文からも、3か月以内に受けた健康診断書を代用することも可能です。
2.非正規でも必要な場合がある、とは
雇い入れ時の診断書は、正社員には必須ですが、非正規雇用の社員についても以下のような条件の場合は必要となります。
- 雇用期間の定めがない人
- 雇用期間の定めがあっても、1年以上勤務する予定の人、もしくは1年以上勤務することが決まっている人
- 1週間の所定労働時間が、正社員の4分の3以上に当てはまる人
3.診断書なら何でも良いの?
よく外来では、「何でもよいので、一番簡単な診断書をください」と言ってくる方がいらっしゃいます。というか、殆ど方が、「一番簡単な診断書」を希望されます。しかし、それらは間違いです。雇い入れ時の診断書には、以下の11項目が必要であることが決まっています。正直、「若い人であればここまで必要?」と思われるほどの項目です。しかし、法律上、雇い入れ時の健康診断書には省略が認められていません。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、視力及び聴力(1,000Hz及び4,000Hzの音に係る聴力)の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量及び赤血球数の検査)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTPの検査)
- 血中脂質検査(血清総コレステロール、HDLコレステロール、及び血清トリグリセライドの量の検査)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
4.費用はどの程度かかるの?
健康診断書は、保険が効きませんので、実費になります。
4-1.実際の費用は?
医療機関によって差はありますが、通常、上記の11項目の検査をして、診断書を記載すると、12,000円から15,000円の費用がかかります。
4-2.誰が負担するの?
雇い入れ時の健康診断書は、労働安全衛生規則第43条に定められていますが、費用については、誰が負担するかは定められていません。健康診断を義務付けられているのは会社ですから、原則は会社が負担すべきと思われます。しかし、現実には、就職していきなり、健康診断書の費用を請求することは難しいため、社員が負担していることが多いようです。
5.まとめ
- 会社に就職する場合は、正社員だけでな、非正規でもある一定の条件を満たす場合は雇い入れ時の診断書が必要です。
- 雇い入れ時の診断書には、法律上11項目が決まっています。
- 雇い入れ時の診断書は原則は、会社が負担すべきものですが、実際は請求しにくいもののようです。