オンライン診療なんて導入しない理由をベテラン医師が解説

オンライン診療なんて導入しない理由をベテラン医師が解説

コロナ禍のなか、オンライン診療導入が話題です。さらに菅総理大臣が、規制改革推進会議で「オンライン診療、服薬指導、オンライン教育はデジタル時代において最大限活用を図るべきものだと思う」と述べたことで、さらに盛り上がっています。また新しいビジネスモデルとばかりのオンライン診療導入の業者からの営業もうるさいほどです。

現場の医師としては、「オンライン診療で何が診られるの?」「そもそもオンライン診療で医療レベルは保たれる?」、「オンライン診療で見落としたら?」と考えてしまい、とても導入できるとは思えません。今回の、記事では、31年目を迎えるベテラン医師である長谷川嘉哉が、オンライン診療を導入しない理由について解説します。

1.オンライン診療とは?

オンライン診療とは、遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び 診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為です。つまり、オンライン診療とは、遠隔医療という大きな枠組みの一つなのです。ちなみに、遠隔医療とは、情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為と定義されています。

現在、新型コロナウイルス感染症対策として「オンライン診療」が特例的に導入されています。これは、医療機関の受診による新型コロナウイルス感染リスクを軽減するために、「初診」から電話や情報通信機器を用いた診療を行うことを認めるものです。さらに、新型コロナウイルス感染症の蔓延時のみならず、平時にも継続拡大すべきかという議論も行われています。

2.オンライン診療で呼吸器感染症なんて診られない!

2018年のオンライン診療ガイドラインで保険適応になった診療科は内科・小児科・在宅がメインでした。

2-1.医師は薬だけを出しているわけでない

呼吸器感染症などはとてもオンライン診療できるとは思えません。もしかすると患者さんは、「医師は患者さんの話を聞いて薬を出しているだけ?」と勘違いしているのではないでしょうか?

呼吸器感染症の患者さんが来た場合、そもそも呼吸器の感染がどうかも判断できません。もしかすると、喉に問題があるかもしれません。もしかすると、全身疾患かもしれません。そのために、医師は、患者さんの全体像を診て、喉の奥を診て、表在リンパ節を確認して、聴診器で胸の音を聞きます。

2-2.所見によってはさらなる検査も

診察の結果、必要があれば胸部XP、採血、インフルエンザやコロナウイルスなどの抗原検査を行います。そして、それに応じた薬を処方するのです。

2-3.受診しなくても治る患者さんとは?

なかには、「診察なしで、薬だけでも呼吸器感染症は治る」という患者さんもいらっしゃいます。確かに、我々の外来でも総合感冒薬で治る患者さんもたくさんいます。実は、その患者さんは総合感冒薬を飲まなくても、自然に治る程度なのです。このような患者さんは、オンライン診療以前に、病院を受診する必要がないのです。

*総合感冒薬:かぜ症候群の諸症状に対する合剤の医薬品。頭痛、発熱、のどや筋肉の痛み、咳、くしゃみ、鼻水・鼻づまりといった諸症状に対する、解熱剤、鎮咳去痰薬、抗ヒスタミン剤、カフェインなどが配合。

Doctor telemedicine service online video for virtual patient health medical chat
呼吸器疾患は実際に診察や検査をしないとわからないことが多いです

3.オンライン診療で生活習慣病なんて診られない!

なぜか生活習慣病は、オンライン診療でも大丈夫と思われているようです。やはり、「医師は血圧を測って、薬を出しているだけ?」と思われているようです。

生活習慣病も血圧を測っているだけではありません。定期的な採血、検尿、胸部XP、ECGは必要です。それ以外に、胃腸症状があれば、消化器系の検査も行います。頭痛や手のしびれなどが出現すれば、救急受診を勧める必要もあります。

私も、患者さんを診察する際は、服薬内容から罹患している病名を一瞬で思い浮かべます。同時に、血圧、酸素濃度、脈拍を測定します。その際に患者さんの病気によっては定期的な採血&検尿をプランニングします。その上で、患者さんの訴えに耳を傾けるのです。正直、頭の中は、相当な勢いで回転しているのです。決して、薬だけ出しているわけではないのです。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


4.オンライン診療で脳神経内科の疾患なんて診られない!

オンライン診療の保険適応疾患には、私が専門とする脳神経内科領域の疾患も含まれています。その中には、「急に手がしびれる」、「手の動きが悪くなった」などの症状があります。神経学的所見においては、瞳孔や目の動きはとても重要です。その上で、運動機能、協調運動、四肢の反射などを屈指して診察します。

オンライン診療で言えることは、「すぐに病院に行ってください」だけです。

5.オンライン診療が向いている診療は?

ならば、オンライン診療はまったく使えないかというとそうではありません。オンライン診療が向いている疾患もあります。

5-1.精神科疾患

私は、専門外ですが、精神科疾患のうち「うつ病」や「統合失調症」は、オンライン診療でも可能だと感じます。しかし、なぜかオンライン診療では保険適応外の疾患に含まれています。実際にこれらの疾患でオンライン診療を行う場合は自費診療となってしまいます。

5-2.認知症疾患

考えてみると、私の専門の認知症専門外来はかなりオンライン診療に向いています。患者さんの話し方、状態はオンラインでも結構分かります。さらに介護者さんからの情報も重要になりますが、これらは、前もってメールで情報を頂ければ相当助かります。実際、付き添えないご家族からは、前もってメールで情報を頂くことは行っています。

但し、3か月に一度は認知症の程度を診るMMSE(ミニメンタルステート検査:Mini Mental State Examination)を行いたいですし、年に1回程度の頭部CTを行う際にも受診が必要です。

5-3.遠隔地診療

そもそも遠隔診療は、専門医がいないような遠隔地で、専門医の診断を求める場合に有効なものでした。頭部CTの画像を、遠隔地で専門医が診断することができるのです。コロナ禍が落ち着いたあとには、オンライン診療は、本来の遠隔地診療だけが残るような気がしています。

6.オンライン診療を強く求めるような人は危険?

実は、現場としては「オンライン診療を強く求めるような患者さん」に少し不安があります。いきなり電話で、オンライン診療を要求。オンライン診療ができないことを説明すると、薬だけを希望。それも、対応できていないことを説明すると、「受診して新型コロナに感染したら責任を取ってくれるのか!」と言葉を荒らげます。

このような患者さんは、薬だけの処方や、オンライン診療で何か問題があれば、間違いなくクレームをつけてきます。つまり、要求をしますが、決して自己責任は負わないのです。

国は、オンライン診療を推進しても、その結果として患者さんとトラブルになった際の対応まではしてくれません。そんなことを考えると、とてもオンライン診療は導入できないのです。

7.まとめ

  • 国はオンライン診療を勧めますが、適応疾患が限られます。
  • 結局、新型コロナが治まれば、従来の遠隔診療だけが残ると思われます。
  • そもそも、「オンライン診療を強く求めるような患者さん」はトラブルの元です。
error: Content is protected !!
長谷川嘉哉監修シリーズ