【お薦め本の紹介】世界トップ企業の決算書ーグローバルブランドの強さに迫る

【お薦め本の紹介】世界トップ企業の決算書ーグローバルブランドの強さに迫る

長谷川正人さんの『世界トップ企業の決算書 グローバルブランドの強さに迫る』を読みました。この本の面白さは、アップル、マイクロソフト、エヌビディアといった巨大IT企業だけでなく、LVMH、エルメス、ネットフリックス、P&G、ネスレ、ナイキ、ZARA、マクドナルドなど、私たちの生活に身近な企業を「決算書」という共通の物差しで比較している点です。

私たちは企業を、商品や店舗、広告、知名度などのイメージで評価しがちです。しかし、ブランドイメージが高い企業が、必ずしも現在も成長しているとは限りません。反対に、日本ではあまり知られていなくても、世界市場で圧倒的な収益力を持つ企業もあります。決算書は、企業の本当の姿を映すレントゲン写真です。本書を読むと、ブランドとは単なる知名度ではなく、「高い価格でも選ばれ、繰り返し購入され、利益とキャッシュを生み続ける力」であることが分かります。

目次

第1章 世界トップ企業は「売上」よりも利益率が違う

世界トップ企業と日本企業を比較して、まず驚かされるのが規模の違いです。食品業界では、ネスレの売上高は味の素の約12倍。日用品業界では、P&Gの売上高は花王の約8倍です。時価総額で見ると、P&Gは花王の約18倍にもなります。

しかし、さらに重要なのは、単に売上高が大きいだけではないことです。本書に登場する企業の営業利益率を見ると、エヌビディアは60%を超え、マイクロソフト、マクドナルド、エルメスも40%台です。アップルは30%台、ZARAを展開するINDITEXやネットフリックスも20%台後半を確保しています。日本企業では営業利益率が10%を超えれば優良企業と評価されます。しかし、世界トップ企業は、その常識をはるかに超えています。

ブランド力がある企業は、価格競争に巻き込まれません。「安いから買う」のではなく、「その会社の商品だから買う」という顧客がいるからです。その結果、原価や人件費が上昇しても価格へ転嫁しやすく、高い利益率を維持できます。例えば、P&Gの営業利益率は24%台であるのに対し、花王は9%程度です。両社の差は、主に原価率の違いから生まれています。世界規模で大量に生産・販売し、強いブランドによって適正な価格を維持する。この積み重ねが、圧倒的な収益力につながっているのです。

第2章 拡大するLVMHと、拡大しないエルメス

本書の中で特に興味深かったのが、LVMHとエルメスの比較です。LVMHは、ルイ・ヴィトン、ディオール、ティファニー、ブルガリ、ロエベなど、75ものブランドを抱える「ブランド帝国」です。世界中に約6300店を展開し、買収によって事業を拡大してきました。

一方、エルメスは基本的に単一ブランドです。店舗数も約300店に限られ、大規模なM&Aや急激な多店舗展開をほとんど行いません。職人による少量生産を守り、欲しい人がいても簡単には商品を増やさない経営を続けています。LVMHは「手の届くラグジュアリー」、エルメスは「限られた人だけが手にできるラグジュアリー」と表現できます。売上規模ではLVMHがエルメスを大きく上回ります。しかし、エルメスの営業利益率は40%台で、LVMHを上回ります。自己資本比率も約75%と高く、総資産の半分近くを現金で保有する、極めて堅牢な財務体質です。

企業は、成長するためには店舗を増やし、事業を広げなければならないと考えがちです。しかしエルメスは、あえて拡大しすぎないことで希少性を守り、ブランド価値を高めています。これは中小企業の経営にも通じます。売上を増やすことだけが成長ではありません。顧客を選び、提供するサービスを絞り、品質を守ることによって利益率を高める。「何をするか」だけでなく、「何をしないか」を決めることも重要な経営戦略なのです。

第3章 ブランドは永遠ではない――ナイキとアシックスの逆転

ブランド力は、一度確立すれば永遠に続くものではありません。象徴的なのが、ナイキ、アディダス、アシックスの比較です。売上高ではナイキがアシックスの約11倍、アディダスが約6倍あります。規模だけを見れば、アシックスは両社の足元にも及ばないように見えます。


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ところが、営業利益率とROEではアシックスが両社を上回っています。アシックスの営業利益率は、わずか3年間で7%から約15%へ、ROEも約12%から27%へ急上昇しました。特に成長を牽引しているのが、スポーツスタイルとオニツカタイガーです。単なる競技用シューズメーカーから、日常でも選ばれるファッションブランド、さらにはラグジュアリーブランドへと進化しています。一方、かつて絶対王者だったナイキは、売上や利益、営業キャッシュフローが低下し、自社株買いも減少しています。箱根駅伝におけるシューズのシェアでも、アディダスやアシックスに追い越されました。

日本では今もナイキのブランドイメージは非常に高いでしょう。しかし、イメージと実際の業績には時間差があります。これは投資をする際に注意すべき点です。私たちは、過去に強かった企業を現在も強いと思い込みます。しかし、株価を動かすのは過去の栄光ではなく、これから利益を増やせるかどうかです。逆に、アシックスのように企業規模は小さくても、商品構成を変え、利益率を高め、世界でブランド価値を向上させている企業には大きな可能性があります。

おわりに――決算書はブランドの健康診断書である

本書を読んで改めて感じたのは、ブランド力は数字と無関係な「雰囲気」ではないということです。本当に強いブランドは、高い粗利益率や営業利益率、安定したキャッシュフロー、世界各地での売上、そして時価総額として決算書に表れます。また、世界トップ企業は稼ぐだけでなく、利益を再投資するのか、配当や自社株買いで株主へ還元するのかという資本政策も明確です。アップル、P&G、ネスレなどは、年間利益のほぼ全額を株主還元に回すことさえあります。

一方で、知名度が高くても業績が悪化している企業もあれば、エルメスのように拡大を急がず、高い収益性を守る企業もあります。企業の強さに、唯一の正解はありません。経営者にとって大切なのは、売上高だけを追いかけることではありません。

自社は誰に選ばれているのか。価格を上げても選ばれる理由があるのか。売上が増えたときに利益も増えているのか。そして、稼いだ現金をどこへ振り向けるのか。ブランドとは、広告によってつくるものではなく、顧客との約束を守り続けた結果として形成されるものです。そして、その約束を守れているかどうかは、最終的には決算書に表れます。企業経営や株式投資に関心のある方に、ぜひお薦めしたい一冊です。

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