認知症患者さんの運転禁止は『80歳の壁』でなく法律で決まっている

認知症患者さんの運転禁止は『80歳の壁』でなく法律で決まっている

和田秀樹さんの「80歳の壁」が売れています。私も一読しましたが、とても参考になることもあり、このブログでもお薦めさせていただきました。しかし認知症専門外来では、ちょっとした波紋が起きています。それは本の中では「運転免許は返納しなくても良い」や「そもそも 75 歳以上の高齢ドライバーに『認知機能検査』を義務付けていること自体が憲法違反」とまで書いてあるため、せっかく運転をやめている人たちまで「自分は運転して良いんだ」と勘違いをしてしまっているのです。

それこそ家族にしては、「何とか運転をやめてもらったのに、余分なことを言わないで」という心境です。今回の記事では、月に1000名の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、和田先生が何と言おうが高齢者の運転は控えてもらいたい理由を説明します。なお、『80歳の壁』の内容については以下も参考になさってください。

1.本は売るために書く

患者さんによっては、「和田秀樹先生が言っているから、自分も運転してよい」と主張される方がいらしゃいます。しかし出版社にとって本は何よりも売れることが第一です。そのためには作者の意図と違うことでも、ニュアンスを変えることはあるものです。

特に最近の本は「○○してはいけない」など、読み手にしては心地よくない提案型の内容が多いものでした。その中で今回の「80歳の壁」は、「○○はしなくてもよい」と、読み手としてもどこか爽快な気持ちにさせてくれます。そのことが見事にベストセラーに繋がっていると言えます。

とくに今回の、「運転免許は返納しなくても良い」など、しぶしぶ運転をやめた高齢者にはとても耳障りの良いものです。

2.和田先生も、薦めているのは正常の高齢者

和田秀樹先生も精神科医です。したがって「高齢者でも、誰でも運転して良い」と言ってるわけではありません。あくまで、「認知症のない高齢者」であれば運転しても良いと言っているのです。少なくとも認知症の診断を受けている人は、和田先生の判断でなく、道路交通法で「運転は禁止」なのです。

もちろん、75歳以上の方で、3年に1度の免許更新の認知機能検査で48点未満、いわゆる赤紙を受け取った人も原則「運転は禁止」となります。もちろん建前としては、48点未満の場合、医師の診断を受けることとなっていますが、この段階で運転が許可されるケースは殆どありません。

3.正常でも高齢者の運転は危険

和田先生は、正常な高齢者は免許を返納する必要なないと本で書かれていますが、私個人的には以下のような方の運転は控えるべきだと考えています。つまり、同じ医師であっても意見は異なることは知っておいていただきたいものです。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


3-1.運動機能が低下

事故が起こった時に、運転者が負傷者に対して行う措置は、法律で定められた義務です。道路交通法(72条1項)では「交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」とされています。つまり、運転者には負傷者を救護するだけの運動能力が求められるのです。池袋で事故を起こした高齢者のように、両手で杖を使わないと歩けないようでは、法律上の義務を全うすることはできないのです。

3-2.難聴

運転においては、聴力も重要です。外来などでは、通常の会話ではほとんど聞こえないため、耳元で大声をしゃべってようやく通じる患者さんも運転をしています。そういう方に限って補聴器も嫌がって使用されません。現在の免許取得には、「補聴器を使用して10mの距離で90デシベルの警音器の音が聞こえる」聴力が必要となります。しかし、90デシベルとは、「子供や女性が使う防犯ブザーの音」ですからかなりの音です。運転の際に周囲の音は重要な情報です。もう少し基準を厳しくして、免許の取得の際は、聴力検査の結果でも免許を遠慮いただきたいものです。

3-3.前頭葉機能の低下

和田先生の本を自分に都合よく解釈して、運転することを主張する方はそれだけでも危険です。この状況は認知症以前の前頭葉機能が低下している可能性があります。前頭葉機能が低下すると論理的に物事が考えられなくなり、理性をコントロールすることができなくなります。そのうえ、突発的判断も低下するため特に運転は危険になります。

4.そもそも酔っている人は酔っていない?

外来をやっていると、「運転することをかたくなに主張する人」と「酔っぱらい」はとても似ていると感じます。酔っている人は、「自分は酔っていない」と言います。運転が危険な高齢者ほど、「自分の運転は大丈夫」と主張します。医師として、運転は全く問題ないと太鼓判を押せる人に限って、「もう年ですから、何かあると他人に迷惑をかける」といって免許を返納されます。やはり正常な人ほど論理的に物事を考え、免許を返納されるのです。

5.まとめ

  • ベストセラ―和田秀樹さんの『80歳の壁』は、誰でも運転して良いと言っているわけではありません。
  • そもそも認知症の患者さんは、道路交通法で「運転は禁止」なのです。
  • 運転は全く問題ない正常な人ほど、論理的に物事を考え、免許を返納されるのです。
error: Content is protected !!
長谷川嘉哉監修シリーズ