突然突きつけられる高齢者の気管挿管(気管切開)の決定・・後悔しないための7つのポイント

突然突きつけられる高齢者の気管挿管(気管切開)の決定・・後悔しないための7つのポイント

高齢者の方が、肺炎等で緊急入院されると、主治医から投げかけられることがあります。「高齢なので万が一ということも考え、気管挿管について、ご家族の皆さんで決めてください」という提案です。ご家族としては、突然の状態悪化で気が動転しているなか、生死に関わる決定を「すぐ」しなければいけないのです。現在、コロナ禍のなか、多くの方がこのような場面に遭遇することが予想されます。

今回の記事では、高齢者医療の専門家で、在宅医療においても気管挿管のケアを行なっている長谷川嘉哉が、高齢者の気管挿管について解説します。

1.気管挿管とは

口もしくは鼻から、直径1㎝程度の管(気管チューブ)を挿入することです。肺炎などによる呼吸困難の症状や、呼吸不全を改善する目的で、気管チューブで酸素の通り道を確保します。医療現場では、単に「挿管(そうかん)」と略して使われています。

高齢者の場合、気管挿管をしないと、呼吸状態が悪化して亡くなることが多く、気管挿管をするか否かは家族の判断に委ねられます。

*呼吸不全:血液中の酸素レベルが低くなったり、血液中のに参加濃度が高くなる状態。

2.気管切開とは

気管に気管チューブを永遠に入れておくことはできません。気管挿管を長期間おこなっていると、固定のためのカフ圧によって気管粘膜が障害され、潰瘍や狭窄を起こしたり、感染の原因となります。そのため、気管挿管から2〜3週間経過すると、主治医から気管切開を勧められます。

気管切開では、気管とその上部の皮膚を切開して、その部分からチューブを挿入することで気道を確保します。

鼻や口からチューブで空気の通り道を作るのが気管挿管で、ノドを切開して作るのが気管切開です

3.一度行うと、人工呼吸器が外せないとは?

気管挿管をした場合、多くのケースでは、呼吸を補助するために人工呼吸器につなぐことになります。肺炎などの基礎疾患が改善すれば、自発呼吸が回復することで呼吸器を外し気管挿管を抜くことができる可能性があります。

しかし、高齢者の場合、自発呼吸が戻る可能性が低く、多くは人工呼吸器が外せなくなります。この場合、医師の判断だけで人工呼吸器を外してしまうと、殺人罪に問われる可能性もあります。そのため、一度挿管をして人工呼吸器につなぐと一生外せないと言われているのです。

4.気管挿管をすべき病態は少ない

高齢者に気管挿管すべき病態は以下のようなケースが考えられますが、個人的にはかなり少ないケースと考えています。

4-1.急性心筋梗塞

今まで元気であった高齢者が、突然心筋梗塞で呼吸状態が悪化した場合は、気管挿管の適応になります。呼吸状態を確保しながら、心臓の治療を行えば、呼吸状態も改善する可能性があります。

4-2.脳血管障害

クモ膜下出血や広範な脳梗塞を発症した場合は、呼吸状態が悪化して気管挿管を検討することがあります。しかし、気管挿管が必要なほどの病状の場合は、救命できる可能性も低く、救命できても重篤な後遺症を残す可能性が高くなります。そのため、気管挿管の選択には、慎重になるべきです。


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4-3.肺炎

理屈で行けば、肺炎により気管挿管が必要な場合、肺炎が治れば抜管できると考えられます。しかし、そもそも気管挿管が必要になるほどの肺炎になること自体、全身状態が悪化してることが多いため、気管挿管の選択には慎重になるべきです。

5.気管挿管のデメリット

気管挿管を選択した場合、特に高齢者においては以下のようなデメリットがあります。

5-1.本人の苦痛

意識レベルが落ちているとはいえ、口や鼻から気管チューブが入れられていることは苦痛です。その上、気管切開になると定期的なチューブの交換が必要です。食事の際に、少し気管に食べ物が入ってもかなり苦しいものです。チューブの交換時も、苦しそうにむせられるケースがほとんどです。

5-2.病院で入院が継続できるわけではない

気管挿管・気管切開・人工呼吸器の状態になって、急性期病院での入院が継続できるわけではありません。自宅で療養できれば良いのですが、家族の介護負担は相当なものです。そのため、多くの場合は転院になりますが、受け入れ医療機関が限られ、急性期病院に比べ医療レベルも確実に下がります。

5-3.元の状態に戻れる可能性は少ない

疾患に関わらず、高齢者の場合は、元の状態に戻れる可能性は少ないのです。それどころか、その後の後遺症はかなり大きいようです。人工呼吸器管理から生存した高齢者を評価した論文(Disability among Elderly Survivors of Mechanical Ventilation Am J Respir Crit Care Med Vol 183. pp 1037–1042, 2011)では、「人工呼吸器を要する入院から生存した高齢者にとって、その後の機能不全は予測していたものよりはるかに大きなものである。」と結論づけています。

Doctor and nurse examining a patient
気管挿管や気管切開の日常ケアは、胃ろうよりもさらに高度な配慮が必要になります。家族の負担もさらに増えるといえます

6.迷ったら、「自分の親ならどうする?」

気管挿管の判断を決めかねる際は、主治医に聞いてみましょう。「先生の親ならどうされますか?」という質問です。我々医師は、常に「自分の身内であればどうするか?」を念頭に置いて仕事をしています。患者さんに、医師の意見を押し付けることはしませんが、患者さんから聞かれた場合は、本心を教えてくれるものです。

多くの医師は、気管挿管しても苦痛を与えるだけなら「自分の親なら挿管しない」と答えます。逆に、「自分の親でも気管挿管します」という状態であれば、気管挿管を検討しても良いかもしれません。

7.生前から、よく話し合っておく

気管挿管のような事態は突然起こります。そのため、常日頃からご家族、特に子供さんたちと話をしておくことが大事です。具体的には、「自分に生命的危険が起こった場合、苦痛を減らす対処は希望するが、延命は希望しない」とでも希望しておいてもらえれば、気管挿管は行わずに、自然な看取りが可能となります。

8.まとめ

  • 高齢者の気管挿管は、単なる延命になり患者さんの負担は重いものです。
  • 気管挿管をしても、元の状態に戻る可能性はかなり低く、重篤な後遺症を残します。
  • 気管挿管の選択に迷ったら、主治医に「先生の親ならどうされますか?」と聞いてみましょう。
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