脳神経内科医が歯周病の検査をする日がやってくる理由を専門医が解説

脳神経内科医が歯周病の検査をする日がやってくる理由を専門医が解説

先日、アンチエイジング歯科学会でシンポジストとして登壇させていただきました。普通シンポジウムというと形だけで、何の結論もなく終わることが多いものです。しかし、今回は大阪大学大学院の天野敦雄教授と、糖尿病専門医の西田亙先生と自分という個性の強い3名です。認知症専門医としては、「脳神経内科医が歯周病の検査をする日が来る」という確証を得ることができました。今回の記事では、当日のシンポジウムで得た情報をご紹介させていただきます。

目次

1.ジンジパイン阻害薬の効果は?

糖尿病専門医である西田先生の情報収集力には驚かされます。かなり以前より、歯周病菌が分泌するタンパク質分解酵素(以下:ジンジパイン)がアルツハイマー型認知症の発症・進行に関与しているという研究を紹介されていました。

今回は、アルツハイマー型認知症患者さんに対する、ジンジパイン阻害薬の効果についての研究論文についてご紹介いただきました。

残念ながら、アルツハイマー型認知症患者さん全体に対するジンジパイン阻害薬の効果は、明らかにされませんでした。しかし、この結果から単純にジンジパイン阻害薬が認知症に効果がないと判断してはいけません。

アルツハイマー型認知症患者さんをセグメンテーション毎に分けると別の結果が出たのです。アルツハイマー型認知症の患者さんのうち、重度の歯周病の状態である患者さん40%の方に対しては、60%の方に効果を認めたのです。

2.歯周病が認知症を引き起こす

こうなると、一般の患者さんのなかで脳に移行するまでの歯周病患者さんの比率が気になります。その点は、大阪大学大学院の天野敦雄教授が専門中の専門です。お伺いすると、その比率は15%ということです。

一方で西田先生が紹介された研究の対象のアルツハイマー型認知症の患者さんのうち40%に重度歯周病が認められたことは、歯周病と認知症の関係を裏付けることになるのです。

3.認知症の治療で歯周病治療は必須

私が、日々の診療で感じることは認知症の原因は単一ではないことです。医療の歴史では、例えば、結核の原因は結核菌。結核菌を退治できれば、結核自体を治療することができます。しかし、認知症の原因は多岐にわたります。同じ認知症であっても、多くの原因が、それぞれに組み合わさって発症しているのです。

つまり今回のシンポジウムで明らかになったことは、アルツハイマー型認知症の患者さんのうち、一部は歯周病菌が原因であり、ジンジパイン阻害薬が効果があるということです。そして、その患者さんの比率は思いのほか多いと予想されるのです。

4.脳神経内科医に期待

以上より、これからは認知症の患者さんに対する歯周病チェックは必須になってきます。すでに糖尿病や循環器の先生方は歯周病が糖尿病や虚血性心疾患と密接に関連していることを学会レベルで理解しています。


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認知症の治療の中核を担う脳神経内科医も遅れることなく、認知症患者さんが来院したら全員に歯周病のチェックをする必要があるのです。

5.脳神経内科医の問題点

脳神経内科医と歯科医の連携が重要ですが以下のような問題点があります。

5-1.コミュニケーション能力に問題?

脳神経内科医の先生は、よくいうと学究肌で真面目な方が多いようです。そのため、医師の中でもコミュニケーション能力に問題がある方が多いようです。そのため、新たに歯科医の先生がたとの連携というと少し不安になります。

5-2.開業する先生も少ない

認知症の治療では開業医の先生方の役目も重要になります。しかし、糖尿病や循環器の先生方に比べ、開業をしている先生方が極端に少ないのです。

5-3.脳神経内科医以外で認知症を診ている先生に期待

開業医の先生方の中には、脳神経内科医でなくても積極的に認知症患者さんを診察されている方もいらっしゃいます。こういった方は、メマリーの処方量やケアマネさんからの評判でわかるものです。そんな先生方にこそ、積極的に歯科の先生方との連携をお願いしたいものです。以下の記事も参考になさってください。

*認知症になったら何科を受診?専門医の探し方や見極めのコツ教えます

6.まとめ

  • 歯周病菌が分泌するタンパク質分解酵素(以下:ジンジパイン)を阻害する薬は、認知症患者さん全体では効果は認められませんでした。
  • しかし、歯周病を持つ認知症患者さんに限定すると、著名な効果が診られました。
  • 今後は、認知症専門医により、認知症患者さんの歯周病チェックも必要になると思われます。
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