私は4年以上前から一日2回、植物性オイルを口ですすぐオイルプリングを行っています。一時、ブームになったオイルプリング。専門の歯科の先生からは医学的な効果は疑問視されています。しかし、認知症専門医の自分は、すっかり病みつきになって一日たりとも欠かすことはありません。
オイルプリングだけでは歯周病を改善することはできませんが、正しいブラッシングを組み合わせることで効果が上がるでしょう。そのうえオイルプリング後には、素晴らしい心地良さを体感することができます。「心地良さ」、これは認知症予防において最も重要なことなのです。
今回の記事は、認知症専門医として月に1000人の患者さん診察している長谷川嘉哉が、このオイルプリングの効果についてご紹介します。
目次
1.オイルプリングとは?
オイルプリングとは、インドの伝統医学・アーユルヴェーダの中の自然療法を起源とする「オイルで口をすすぐ」健康法のことです。プリング(pulling)には「引きはがす、引っ張り出す」という意味があります。オイルで口をすすぐことに違和感を感じるかもしれません。しかし、様々な有名人やモデルさんが実践して一時ブームになっていました。
2.オイルプリングの効果とは?
エビデンス的には不確かですが、オイルプリングには多くの効果があると考えられます。
2-1.毒素排出
オイルプリングで使われる植物性オイルに含まれる分子の細かい脂肪酸が、歯肉の奥に潜む細菌を引っ張り出してくれます。口内に生息する大半の微生物は単細胞で、こうした細胞は脂質の膜で覆われています。油(脂質)と水を混ぜようとしても分離し混ざりませんが、油と油はお互い引きつけ合い、一体化します。ちょうど磁石のような働きで、植物性オイルが細菌を引っ張り出すイメージです。
2-2.唾液の分泌量アップ
実際に、オイルプリングやってみると分かりますが、唾液が大量に分泌されます。唾液により、最初に含んだオイルの倍以上の量になります。そのため、口に含むオイルは少量で始めることがお勧めです。
当たり前に分泌されている唾液ですが、多くの働きがあります。まず唾液には、若さを保ち、代謝を活発化するパワーがあります。その他には、「風邪などの細菌が体に入らないように守る働き」「食べ物を消化する働き」「溶かされた歯を元に戻す働き」「虫歯菌が出す酸を中和する働き」「味を感じさせる働き」などがあります。
このなかでも、味を感じることは、脳に対する刺激としてとても重要です。あまり噛まない人は、半分程度しか分泌されないようです。美味しく食事を摂るためにもしっかり噛んで、しっかり唾液を分泌しましょう。
2-3.免疫力アップ
口内細菌をオイルで絡めとって排出することで、今まで口内細菌の撃退に使われていた免疫機能の負担が減り、その分他の不調の撃退に力を入れることができます。つまり、口に入れたオイルが私たちの健康を回復するのではなく、免疫力の上がった体が健康を回復するという仕組みです。
2-4.ほうれい線ケア
オイルプリングで、口をしっかり動かすため顔の筋肉が鍛えられ、リフトアップにつながると言われます。報告例では、「ほうれい線が薄くなった!」という声もあります。私は美容の専門ではありませんが、実際にオイルを口に含んで、いわゆる「クチュクチュ」していると、口だけでなく、けっこう顔の筋肉が疲れることを自覚します。
3.オイルプリングが口の細菌を排出できない理由
これだけ効果があると言われているオイルプリングです。しかし、医師として考えるとオイルプリングだけで、口の細菌を排出できるようなエビデンスはありません。
3-1.口内細菌の在りかた
口の中には確かにさまざまな細菌が存在します。その細菌は口の中でそのまま存在している訳ではなく、汚れの塊である歯垢や歯の表面を覆っているバイオフィルムの内部に存在しています。これらは洗い流した程度では落ちません。うがいだけで全てに作用して取り除くというのは難しいのです。
3-2.口内細菌はいろいろな場所に潜んでいる
口の中の細菌は、歯の露出している部分だけに付いているわけではありません。特に虫歯や歯周病に罹患している人は、歯茎が弱って歯周ポケットが深くなっていることもあります。歯の根っこに沿って歯ぐきの内部にも付着しているため、うがいをしただけでは奥深くの細菌までは行き届かないのです。
4.私が行っているオイルプリングの方法
オイルプリングの効果をご理解いただいたかと思います。ここからは具体的な方法をご紹介します。
4-1.使用するオイル
オイルプリングに使用が勧められている油の種類は主に5種あり、ココナッツオイル、オリーブオイル、白いごま油、ひまわり油、亜麻仁油です。
4-2.方法
- 植物オイルを大さじ2/3~1杯(10cc~15cc程度)を口に含んで、ぶくぶくうがいをします。ここでポイントなのはガラガラうがいはしないこと! ぶくぶくうがいで歯の隙間や表面にオイルがいきわたるように意識しましょう。
- うがいの時間は15~20分です。初めは、口周りの筋肉がつかれますので、10分から始めましょう。
- うがいが終わったら、ティッシュやビニール袋にオイルを吐き出します。
4-3.オイルプリングをする回数・時間
特に回数や時間に決まりはありませんが、私のお勧めは寝る前、もしくは起床時です。オイルプリングでスッキリしてから就寝する。もしくは、オイルプリングで起床時の口腔内細菌が増殖している口腔内を奇麗にするイメージです。私は、一日2回、就寝前と起床時に行っています。
ちなみに長谷川が愛用しているオイルは以下の製品です。Amazon広告でご紹介させていただきます。
5.オイルプリングとブラッシングを組み合わせる
医学的根拠では、虫歯菌が口内に存在しているメカニズムから、オイルプリングによる虫歯菌除去の効果を否定しています。そのため「歯医者に行かずにオイルプリングだけで虫歯が治るという効果」は期待しないでください。
しかし、オイルプリングによって、歯についた汚れが落ちやすくなるので、まだできていない虫歯や歯肉炎の予防にはなります。実際に、私はオイルプリング後に通常の歯ブラシと歯間ブラシを行っています。何もしないときにくらべ、遥かに口腔内の汚れが取れやすいことが実感できます。
6.本人の心地良さが大事な理由
オイルプリングで口腔内が奇麗になることはとても心地良いものです。その後に、食事をする気にもなりません。そんな心地良さは、脳にはとても大切なのです。
6-1.感情を司る扁桃核が萎縮する
実は、認知症の脳を調べると、記憶を司る海馬より、感情を司る扁桃核が先に委縮することが知られています。ですので、「物忘れ」よりも「意欲の低下」や「表情の喪失」が認知症の初期段階としては発現されていることが多いのです。高齢者の方のこのようなサインを見逃さないようになさってください。
それを避けるには、五感すべてに刺激を入れ、感情豊かな生活を送り扁桃核に刺激を与え続けることなのです。
6-2.押し付けではない、ご自身の心地良さが大切
現在、マスコミ等では認知症予防についての情報が氾濫しています。そのため、患者さんのご家族からも多くの質問を受けます。その際に、私がお話しするのは、「患者さん自身にとって心地良いか否か」で判断するようにお願いしています。
いくらモーツアルトが脳に良いと言っても、もともと馴染みのない音楽を聴くことは苦痛でしかありません。
6-3.医学的エビデンスには、こだわりすぎ?
最近の風潮は、医学的エビデンスにこだわりすぎているように思えます。確かにオイルプリングは歯科医として、根拠はないかもしれません。しかし、ブラッシングと組み合わせることで予防歯科の効果はあるでしょう。お口や舌を動かす運動の効果も考えられます。唾液の分泌も実感できます。
何よりも「心地良さ」で考えれば、脳にはとても良いと思われます。
医学的エビデンスにこだわりすぎずに、感情に素直になって「自分にとって心地良いか否か」で判断されることをお勧めします。まずは今日からオイルプリングを試しにやってみてはいかがでしょうか?
7.まとめ
- 認知症専門医として、オイルプリングにはまっています。
- 実は、数あるオイルプリングの効果は医学的エビデンスは乏しいものです。
- しかし、オイルプリング後の心地良さは、脳的には、とても効果があると思われます。もちろん、今後も続けていきます。